9.七並べ
四天王が一人、ドライアドのリーフが任務を終えて魔王城に戻って来た。
謁見の間(魔王様の部屋)で報告は行われ、労いの言葉が掛けられる。
「__メルツ帝国にはお気を付けください」
「うむ、ご苦労だった。休養を取り、ゆっくりと休むが良い」
「はっ!」
これで謁見は終了となり、魔王様は玉座から立ち上がると、そのまま玉座の裏に行き姿を隠してしまう。
「魔王様?」
困惑するリーフに、私は声を掛ける。
「リーフ、謁見は終了しました。今は楽にしていいですよ」
そう告げると、リーフの表情は緩み、にへらとなってしまった。
「あのロキ様、魔王さはどうかしたんとですか?」
訛りのある話し方になったリーフだが、別に田舎や地方出身というわけではない。ドライアドのほとんどが、何故か喋りに訛りがあるのだ。
意識すれば、訛りも抑えられるようだが、気を緩めるとこのようになる。
「今、トランプで遊んでいるんです。リーフも参加しますか?」
「トランプですか?」
疑問符を浮かべながら付いて来るリーフ。
玉座の裏には幻で壁が作られており、パッと見では分からない作りをしている。その上、先入観から壁と認識すると、壁の感触を味わう仕掛けも施してあり、一目で見抜けなければまず通ることは出来ない。
そんな幻の先には、ちゃぶ台を囲む魔王様とシロ、それからサリーがいる。
彼女達の手元にはトランプがあり、順番にちゃぶ台の上に並べていた。
「むう、誰だダイヤの3を出さない不届者は⁉︎ 我が出せないだろう!」
「魔王ちゃん、自分の手札明かしちゃったら負けちゃうから、もう負け確だから落ち着いて」
「魔王ちん、ごめんね。ダイヤの3持ってるけど、他の出したいから後で出すね」
「なーーーっ⁉︎⁉︎」
手札をバラしたばかりに、魔王様が呆気なく敗北してしまった。
魔王様は、七並べをやるのは初めてなので負けるのは仕方ない。だけど、この負け方は情けない。
「なんか、すごー楽しそうですねぇ」
盛り上がっている三人を見て、リーフは混ぜて欲しそうに見ていた。
任務が終わって疲れているだろうに、それでも、この楽しそうな輪に入れて欲しいのだろう。
「おおっ! リーフも来たのか、入れ入れ! サリーが性格悪いからな、気を付けろよ」
「ちょっと人聞きの悪いこと言わないでよ!」
「んでば、失礼して。七並べってあだしも初めてやるんですけんど、やり方、教えてもらっていいですか?」
「うむ、我が説明してやろう!」
・全てのジョーカーを除いた全てのカードを配る。
・手札にある7を並べる。ダイヤの7七のカードを出した人からゲームを開始。
・7を中心に手札の6.5.4.3と順番に数字を並べて行く。
・パスは三回まで可能。
・手札が出せなくなったら負け。
・最初に手札が無くなった者が勝者となる。
・順番はダイヤの7を出した者から時計回りとする。
「分かったか⁉︎」
「たぶん分かりました。間違ってたら、そん時教えて下さい」
「うむ! いいだろう。さあシロちゃん、トランプを配るのだ!」
そこまで見て、私は離脱する。
流石に、謁見の間を空けておくわけにもいかないのだ。
◯
七並べを始める前に、リーフに飲み物を渡そうとシロが立ち上がる。
「リーフちゃん、何飲む?」
「水で」
「ジュースもあるけど、水でいいの?」
「わだし達ドライアドは、水が一番美味しいんです。甘い飲み物ば飲むと、酔っちゃうんです」
「へー、ドライアドに取って、ジュースってお酒と同じなんだ」
「んです」
種族によって、いろんな特徴があるなぁと思いながら、シロはリーフに水を差し出した。
準備が出来たのを確認すると、魔王は開始を宣言する。
「では始めるぞ、皆の者、7を出せ!」
皆がトランプを手に取り、7を並べて行く。
残念ながら、魔王の手札からは一枚も減らなかったが、それもやれることが多いと考えればどうということはない。
「ダイヤの7は私が出したから、私から開始ね」
サリーはそう言いながら、クローバーの6を出した。
続いてリーフ、魔王、シロの順番で出して行き、一巡目は終了した。
それからも順次出して行くが、ただトランプをするだけというのも味気ないので、サリーが話し掛ける。
「ねえ、リーちんの出身地ってどこなの?」
サリーは、リーフのことをリーちんと呼ぶ。
「あだしですか? 魔王城の庭です」
「庭⁉︎ そんな所でドライアドって生まれるの⁉︎」
驚いたのはシロで、サリーはああと納得した様子だった。
まだ四天王になって日の浅いシロは、魔王城全体を把握しているわけではない。だから、庭というのを中庭のことだと勘違いしていたのだ。
それを察したサリーは、シロに説明する。
「シロちん、魔王城の裏に広大な森が広がってるの知ってる?」
「はい、確かカグラの森でしたよね」
「そのカグラの森が、魔王城の庭なの。あそこには精霊もたくさんいるから、ドライアドが生まれてもおかしくないよ」
「へー、そうなんだ。じゃあリーフちゃんってお家から出勤してるの?」
「はいー、魔王城には実家から通わせてもらってます」
それを聞いて、いいなぁと羨むシロ。
シロの年齢は十六歳。まだまだ親が恋しいお年頃でもあるのだ。
「あっ、パスでお願いします」
「むっ、ここでパスを使うのか……リーフ、何を考えている?」
早々のパスの使用に、魔王はリーフを警戒する。
もしや、これは意図的に札を温存して、妨害を企んでいるのではないかと勘ぐったのだ。
しかし、初心者であるリーフにそんな気はないので、
「え? ただー、手札が無かっただけです」
素直に答えてしまった。
「リーちん、手札のことはバラさないようにね」
「あっ、うっかりしてましたー。以後ぉ気を付けます」
のんびりした空気の中、七並べは進んで行く。
リーフは初めてということもあり、手札を出せずに早々に敗退してしまう。続いて魔王が、サリーにより手札を読まれてしまいあっさりと敗退。
シロとサリーの二人が残されたが、順調に手札を減らしていたシロが先に上がり勝者となった。
「むぅ次だ、次は負けん!」
魔王は気炎を上げる。
それをはいはいと流して、シロから次のゲームが始まった。
「ねえねえ、サリーはロキさんのどこが好きなの?」
「ぶほっ⁉︎ なっなななっ何言ってんのかなぁシロちんはぁ……」
「もうバレバレだって、いつもロキさん目で追ってるじゃん」
「違うしぃ! 好きとかじゃないしぃ! ただ目に入って来るだけだしぃ! あんなのが好きなわけないしぃ! 風評被害やめて欲しいしぃ!」
「ロキさんカッコいいもんね、魔王ちゃんはいつからロキさんと一緒にいるの?」
「我とか? ……最初っからだ。目が覚めた時から、ロキが側にいたな」
「最初っから? 魔王ちゃんの両親は?」
「ロキからは死んだって聞いているけど、本当のところは知らない」
「調べたりしなかったの?」
「んー……ロキが我に嘘付くと思えないからな、多分本当なんだろうと思って気にしてない。それに姉上も言って……あっパスで」
「でも、それじゃあ……」
「シロちん、それ以上はやめておきなさい。家庭の事情に首を突っ込むべきじゃないよ」
「……うん、ごめんね魔王ちゃん」
「よいよい、親がいたとしても千年以上前の話だからな、今更気にしても仕方ない。それに、今はこの国が我の家族だからな」
「魔王ちゃん……」
「ふっ、言わば我は国母といったところか……だから早くハートの11を出せ」
国母の命令だぞ。そう告げるが、誰もハートの11は出さなかった。
しかし、このゲームで勝利したのは魔王だった。
「馬鹿め⁉︎ ハートの11というのはフェイク! 本当はスペードの4を出して欲しかったんだよ!」
「流石は魔王さですねぇ」
「うわっ、魔王ちゃん狡賢い」
「国母が汚いと、国民が大変よね」
「ふははっ! そうだろうそうだ……? 今、褒められたよな?」
喜ぶ魔王だが、残念ながら七並べでの勝利はこれが最後となった。
何故なら、魔王の癖に皆が気付いたからだ。
場に出たトランプを見て、次に出て欲しい所に熱視線を送る。そんな癖に気付かれてしまい、魔王は勝てなくなったのだ。
(魔王(ちゃん、ちん、さ)分かりやすい)
「ぬわ〜〜〜〜!!!!」
容赦ない三人にコテンパンにされて、魔王は敗走した。




