7.四天王サリー(占い)
最近、魔王様の様子がおかしい。
私が部屋に入ると、ビクッと激しく動揺しているのだ。
何か魔王様が恐れるようなことをしただろうか?
どうだっただろうと考えてみるが、心当たりが無い。
私と魔王様が二人っきりになると、
「ちょ、ちょっと、シロちゃんの所に行って来る」
と慌てて部屋を出て行ってしまう。
これは本格的に恐れられているようだ。
部下を恐れている魔王。
これでは、魔王様が魔王としての威厳が損なわれてしまう。
なんとかして、原因を探り解決しなければならない。
「というわけです。サリー、貴女の占いで調べてもらえませんか?」
「何がどういうわけ? 意味分かんないんだけど」
四天王が一人、魔女サリーにお願いしたのだが、マニュキュアを塗るのに忙しいのか乗り気ではない。
「そんなの直接聞けばいいじゃない。わざわざ私の占い使う必要ないでしょう?」
「尋ねようとしても逃げられるのです。無理矢理聞くわけにもいきませんし、そもそも負けます」
「別に戦う必要ないでしょう。じゃあ、シロちんは? あの子に聞いてもらえばいいんじゃない?」
「すでにお願いしています。ですが、教えてくれませんでした。何でも、魔王様が不安になるからだそうです」
「じゃあ、このまま触れない方がいいんじゃないの?」
「そういうわけにはいきません」
「どうして?」
「魔王様の体調から精神面に渡り全てを把握しておくのが私の仕事だからです」
「何それ気持ち悪っ⁉︎」
ドン引きするサリーは、私から距離を取ろうと部屋の隅まで移動する。
「もちろん冗談です」
「その冗談って言葉も信じられないわ」
キッショ、マジキッショと口ずさみながら、サリーは椅子に座った。
「それで、占ってはもらえませんか?」
「別にいいけど……報酬はいただくわよ」
「そうですね、私をスケコマシ呼ばわりしたことに目を瞑る。というのはどうでしょう?」
いけないな、感情が揺れて魔力が漏れ出てしまう。
「ちょっ⁉︎ 待って待って! あれはただの冗談だから⁉︎ 分かった! ちゃんと占うから見逃して‼︎」
サリーは酷く怯えているが、何に怯えているのだろうか?
私は、こんなに大らかな気持ちで許しているというのに。
「対価として十分なようで安心しました」
あなたの命の価値が占い以下だとしたら、採用した私の責任になりますからね。
「じゃあ占うわね……」
サリーは水晶を取り出して、特殊な魔術を使う。
幾つもの魔法陣を空中に描き出し、求めるモノのビジョンを探し出す。
魔法陣からは目玉が生まれ、水晶に向かって投影しようとしていた。
だが、上手く行っていない様子だ。
前に占ってもらった時は、一瞬で答えが出たのだが、今回はやけに長い。
「んんん……? んんんんん? これは……ああ、しょうもな⁉︎ って、やばっ⁉︎⁉︎」
サリーが焦って頭を下げるよりも早く、その身を庇う。即座に防御結界を構築して、カウンターに備える。
次の瞬間、水晶が爆発して、魔法陣を消し飛ばしてしまった。
部屋に防御結界を張っていなければ、魔王様の部屋と同じ惨状になっていただろう。
「よほど見られたくないのか。一体どんな秘密なんだか?」
今のは、魔王様によるカウンター攻撃。
魔法あるいは魔術、他に感知した力に対して攻撃を加える防衛魔法だ。何らかの条件を付与して使う魔法で、その威力は使用者に依存する。
この場合、特定の情報に対してのカウンターだろう。
魔王様の徹底ぶりに戦々恐々としつつ、腕の中にいるサリーの様子を伺う。
「申し訳ありません。まさか、ここまで厳重にしているとは思いませんでした。……サリー?」
「はっ⁉︎ はい! あっ、ああ大丈夫大丈夫、怪我とかないから……」
そう言いながら離れるサリー。
小声で「やっぱスケコマシじゃん」とか言っているが、全て丸聞こえだ。
とはいえ、危険な目に合わせてしまった以上、何も言えない。
「水晶は代わりの物を用意しましょう。今回はすみませんでした」
「い、いいのよ、私も四天王なんだし、危険なことは想定しているから。それで、占いの結果なんだけど……。最近何をして遊んだのか思い出してみて、そこで何か約束したはずよ」
これ以上言ったら追撃されそうだから、と言葉を締め括った。
サリーの言葉を聞いて思い出してみる。
直近でした遊びは、早口言葉だが……。
「……ああ、あれか」
どうして魔王様が避けているのか分かった。




