4.四天王シロ、財務室室長キンコさん(遊び無し)
魔王軍には四天王がいる。
その四天王が一人、獣族を統べる最強の獣人。
白銀の体毛に引き締まった肉体、鋭い爪と牙を持つ。百獣の王の血を引く真の獣、その名はシロ。
「というわけでシロ、今回は貴女が魔王様の相手をしなさい」
「何がというわけなの⁉︎ いきなり意味分かんないんだけど⁉︎」
猫耳の少女の元を訪ねて、魔王様を押し付ける。
先日のコマ事件のせいで、魔王様の部屋が台無しになり修理しなくてはならないのだ。
修理中に魔王様を放置するわけにもいかず、暇をしている四天王の元を訪れたのだが、残っていたのがシロしかいなかった。
「他の者らには、別の任務を任せてあります。今手空きは貴女しかいないんです」
「そうかもしんないけど……、私に出来るかな?」
「大丈夫です。四天王になる条件は、魔王様の相手が務まる強さを持つ者。ですからシロ、自信を持ちなさい」
「ううっ……分かった。頑張るよ……」
自信なさげなシロに魔王様は近付いて行き、腕を組んであいさつをする。
「よろしく頼むぞシロ!」
威風堂々とした魔王様は、満面の笑みを浮かべていた。
「では魔王様、後ほど迎えに参ります」
「うむ」
頷く魔王様を残して、私は財務のキンコさんの元に向かった。
キンコさんは財務室の室長であり、魔王城及び領土の経営を授かっている重鎮である。私も上がって来る書類にチェックしているが、いつも完璧な仕事をしており、とても優秀な獣人である。
「あら〜ロキさん、どんな顔してやって来るのかと思ったら、いつも通りの澄まし顔ですねぇ。少しは反省した素振りを見せてくれたら可愛いげがあるのに、ねぇ本当に何考えてるんでしょうねぇ?」
狐の獣人であるキンコさん。
シロと同じ獣人だが、その性格はまるで違う。
昨日の魔王様の部屋を破壊したとき、ニコニコと笑みを浮かべて、三時間も説教をして来たのも彼女だ。
「反省はしている。だが、過ぎたことをいつまでも考えても仕方ないだろう」
「ええそうですね。長い時を生きるロキさんには、部屋の一つや二つ破壊なんて、大したことではないのでしょうねぇ。短い命しかない私達には、まったく理解出来ない感覚ですよぉ。人生長いと、物の大切さが理解出来なくなるんでしょうかねぇ?」
「くっ⁉︎ キンコさん、嫌味なら後で聞く。今は修復の話がしたい」
私の申し出に「仕方ないですねぇ」と話を変えてくれた。
「不毛な会話をするほど、私達も暇ではありませんからね。……こちらにピックアップした大工や錬金術師ならば、魔王様のお部屋を元に戻せるでしょう。費用はいかがなさいますか?」
途中から仕事モードに入ったキンコさんは、資料を出しながら説明してくれる。
「今回の件は私の落ち度ですから、魔王城の資金を使う必要はありません。修復費用は私が出しましょう」
「かしこまりました。担当される方が決まりましたらご連絡下さい、こちらから使いを出します」
「承知しました」
資料を眺めながら、誰にするのか吟味する。
早急に元に戻す必要はないのだが、いつまでもボロボロの状態では、魔王様の品位に傷が付く。
だからといって、適当に選んでいい話ではない。
職人としてプライドを持ち、更に良いものを作り出す最高の職人に……。
「どうかしましたか?」
視線を感じて尋ねると、キンコさんから質問が返って来る。
「ロキさんが魔法で修復したりしないんですか?」
「ええしません」
「どうしてです? わざわざ職人に頼む必要もないですよ」
確かにその通りだ。
修復魔法を使えば、壊れた魔王様の部屋は元通りになる。だが、それだけだ。
「何でも魔法で解決すべきではないからです。経済を回すという意味もありますが、魔法は技術発展の妨げになる恐れがあります」
「技術発展の妨げ? 魔術に落とし込めればの魔術の発展になるのではないですか?」
「魔術の技術ばかりを追求して、滅んだ国を私は幾つも知っています。そうならない為にも、他の技術を発展させる必要があるんです。それに……」
「それに?」
「職人が作る姿を見るのは、とても楽しいんですよ」
職人が作り出す物は、一種の芸術作品だ。
その過程は、時間を忘れるほど見ていられるから不思議だ。
私の回答にポカーンとしたキンコだが、
「やっぱり、長寿な方の気持ちは分かりませんねぇ」
と呆れている様子だった。




