3.コマ
「なんか暇だなー! どうしよっかなー! ちょっと人類滅ぼしてこようかなぁー‼︎」
魔王様が例のごとく、こちらをチラチラ見ながら人類滅亡フラグを立てて来た。
ならば、かねてより用意していた物を献上しましょう。
「お暇ですか? ではコマを使って遊びませんか?」
「コマとな? ほう、何だそれは?」
「楕円形の窪みの中で、二つのコマぶつけて競う遊びです。そうですね、説明するよりも実演した方が分かりやすいかもしれません」
私は準備していた台と同色の二つのコマ、そして紐を取り出して魔王様の前に置く。二つのコマに紐を巻いていき、準備が整うと構える。
一つ目のコマを放る。
ギュン! と音がしそうなほどの勢いで回転し、台の中心部で転がり続ける。そこに二つ目のコマを放る。
二つのコマは回転しながら何度もぶつかり、互いを弾き飛ばそうとする。カンカンカンと鳴り、やがて一つのコマが弾き飛ばされて勝敗が決した。
「……これだけか?」
「ええ、これだけです」
「これだけか……」
おかしい、今回はどうにも感触が良くない。
「まあ、やってみたら違うかもしれないしな……」
手を伸ばす魔王様に、紐を巻いたコマを差し出した。
「では行きますよ」
「うむ!」
「せーの!」の掛け声で同時にコマを放つ。
回転するコマは中央で衝突して、コマが呆気なく弾き飛ばされてしまった。
「…………つまらん」
おかしい。いつもの魔王様ならば、負けん気を出して何度も挑んで来るはずだが、今回はその気配が無い。
もしかして、この遊びが気に入らなかったのだろうか?
「お気に召しませんでしたか……。では次の遊びを準備いたしましょう」
そう進言するのだが、魔王様はコマを見つめてうんうんと唸っている。
やがて何かを閃いたのか、パァーッ! と顔を輝かせる。
「分かったぞ、これに足りぬ物が!」
「それは何ですか?」
「派手さだ! これが地味なのだ! 同じ色で面白味もなく、ただぶつかって押し出すだけなど、そこらの虫を見ていた方がよほど面白いわ!」
おい、滅多なこと言うな。
コマユーザーに謝れ。
そんな感情は表に出さず、それとなく聞き返す。
「ですが、これ以上何をしようと?」
「これを、こうだ!」
魔王様はコマに付与魔法を掛ける。
見た限り、幻の効果に運動を強くする効果、風と雷を発生させる効果が付与されたようだった。
「行け! 我がハイパースペシャル魔王トルネード‼︎」
放られるコマを見て、即座に台に向かって強化魔法を付与する。そうしなければ、台が壊れてしまうと判断したからだ。
魔王様が投げたコマは、高速で回転しながら風を巻き起こし雷を走らせる。更に、光ながら竜巻のようなエフェクトまで発生させて、無駄に豪華になっていた。
魔王様がこちらにチラチラと視線を送って来る。
ロキもやれ。
そう言われていると判断して、私もコマに付与魔法を掛けて行く。
コマを強固にし、運動エネルギーと回転数を爆発的に引き上げる。外側を氷で覆い冷気を発生させる。そして仕上げに、雪原とドラゴンのエフェクトを追加した。
「行きなさい、ブルードラゴン」
私が放ったコマは青に変色し、冷気で台を凍らせて場を侵食して行く。
高速で回転しながらハイパースペシャル魔王トルネードと衝突するが、ブルードラゴンは押され気味のようだ。
「どうだ! ハイパーでスペシャルなハイパースペシャルな我がトルネードは‼︎」
私のブルードラゴンを押し出そうとして、勝ち誇っている魔王様。だが、
「ふっ、甘いですね魔王様。ブルードラゴンの本領はここからです」
「なにぃ⁉︎」
場の侵食を完了したブルードラゴンが牙を向く。
滑る台を高速で移動してハイパースペシャル魔王トルネードの攻撃を回避して、攻撃を加えて行く。
「ブルードラゴン、決着を付けなさい!」
私が高々と宣言すると、雪原の世界からブルードラゴンが現れて、強力なブレスと共にハイパースペシャル魔王トルネードを外に弾き飛ばした。
「魔王ハリケーーーン⁉︎⁉︎」
ハイパースペシャル魔王トルネードじゃなかったのか?
魔王様は、ハイパースペシャル魔王トルネード改め、地面に転がる魔王ハリケーンを四つん這いになって絶望していた。
「……おのれ、おのれロキめ! よくも魔王ハリケーンをやってくれたな! 次はエンシェントフレイムサンダースペシャルカイザードラゴンが相手だ!!」
「いいでしょう、受けて立ちます」
コマを見せて、魔王様の挑戦を受ける。
何度も何度も何度も何度もコマを投げた。
回を重ねる度に付与魔法の規模が大きくなり、かなり危険な域まで達してしまう。
壁際で待機しているメイド達は、襲う衝撃から逃れようと部屋から出て行ってしまった。
コマの百度の衝突で、五分五分の勝率。
「魔王様、次で決着にしませんか?」
「はあはあ……いいだろう、我の全力を込めてやる! 行け、アトミックコスモザファイナルフェニックス‼︎」
不死鳥なのに終わるんかい。
そんな魔王様の残念ネーミングセンスは置いておいて、私も全力を出そう。
「行きなさい、アンリマユ」
小宇宙なフェニックスと悪神が衝突する。
お互いにコマに込めた魔力は膨大で、効果も積みに積みまくった。
その結果、カンッと音が鳴った瞬間、世界が真っ白に染まった。
「……やり過ぎましたね」
「ケホッ、これ怒られる?」
「怒られますね、部屋を破壊していますから」
コマが衝突すると、大爆発を巻き起こしてしまった。
ギリギリ魔王城に強化魔法を使ったから、謁見の間だけで済んでいるが、少しでも遅れていたら魔王城が消滅してもおかしくはなかった。
「なあロキ」
「はい」
「ちょっと旅に出て来る」
「ダメです」
逃げようとする魔王様の首根っこを掴んで、逃亡を阻止した。




