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魔王さまは暇つぶしをご所望です‼︎  作者: ハマ


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27.ラグナロク(遊び無し)(千年前の話)

 私が反逆したことは、天界に直ぐに知らされた。

 異世界から転移した者、その子孫を滅ぼすのを辞め、私を討伐すべく神々は動き出した。


 天界に存在する神は多い。

 だが、倒す手段はある。


 オーディンに反逆した者を閉じ込める牢獄を作ったのは、私ともう一人の神だ。


 牢獄の門を開けば、反逆者が天界を襲うだろう。

 数では圧倒的に負けているが、力は反逆者達の方が上だ。

 両者がぶつかれば、互いに潰し合う。

 そこを狙い、オーディンに挑む。


「もう少し、待ってて下さいね」


 眠るトーリとアックス君に告げ、私は天界に向かった。





 天界は広い。

 そして、地上よりも頑丈に造られている。

 ここは星喰いとの戦いをする為に、世界が生み出した異界。それが天界の正体である。


 私は魔法で姿を変え、天界を歩いて行く。

 これでも変装は得意で、見破れる者はほとんどいない。


 牢獄は天界の外れ、深い森の中にある。

 光を遮る森の中を歩く。おどろおどろしい雰囲気を発しており、まるでこれ以上近付くなと言っているかのようだった。

 やがて森が開けると、石の塔が現れる。


 あれこそが牢獄ヘルヘイムである。


 厳重に守られた牢獄には、護衛に十体の巨大なゴーレムが配置されている。

 外から近付く者に警告し、万が一脱走者が現れれば、再び閉じ込める役割を担っていた。


 その牢獄の前に、一柱が立っている。


「……ヘラ、そこを通してくれませんか?」


「ロキ、何かとち狂っておるようだな? ここを開けば、何が起こるのか理解しておるだろうに」


「ええ、それが狙いです」


「ついに頭がイカれたか。オーディンに逆らい、フレイヤまで手にかけるとは」


「望んだわけではないんですけどね……」


 苦笑して答えると、呆れたヘラは指を弾きゴーレムを動かした。


 ヘルヘイムを作ったのはヘラと私だが、その管理者権限はヘラにある。

 ゴーレムが私を敵と認識し、戦闘モードに移行する。

 ヘラも見ているだけでなく、闇を操り光を汚染する。


「くくっ、ロキとやり合う日が来るとは、分からんものよのう」


「ええまったく、ほとほと嫌になる」


 幾つもの魔法を操り、ヘラとゴーレムに対抗する。

 だが、ヘラの闇は魔法をも侵食して取り込む。ゴーレムも強固な魔法耐性を持たせてあり、あまり効果が無い。


 まともに戦えば、私に勝機は無い。


 そう、まともにだ。


 それに時間を掛ければ、異変に気付いた者がやって来るだろう。

 だから、早々に使わせてもらう。


「まさか⁉︎ ゴーレムの主導権が奪われた⁉︎」


 突然動きを止めたゴーレムを見て、困惑するヘラ。

 残念ながら、私はそれほど器用ではない。

 出来るのは、予め仕掛けていた装置を起動するくらい。


 ゴーレムは動きを止め、段々と形を失って行く。

 ボロボロと、神の先兵として造られたゴーレムが崩れて行く。

 唖然としたヘラに、私は近付いて行く。


「ヘラとの語らいは楽しいのですが、今は時間が無いので失礼します」


 動きを封じる為、ヘラに向かって手を伸した。

 だが、それを簡単に許してくれるヘラではない。


「ふふっ、許可なく淑女に触れようとは、下郎の行ないぞ」


 闇が私を包み込む。

 視界が無くなり、全ての感覚を狂わせて行く。

 やがて闇に囚われた私は、動きを止めてしまった。


「やはり、正面からでは危険だったな」


「なっ⁉︎」


 ヘラに触れて、フレイヤの時と同じように体内を掻き乱す。


 私がやったのは、ドッペルゲンガーを創り出し囮にすること。

 これは私の奥の手であり、代償に命が削られる技だ。

 永遠に近い命を持つ神族でも、使い続ければいずれ死ぬだろう技である。


 闇が晴れ、緑の世界が戻る。

 あとは、牢獄の門を開けば、私の計画は大きく進む。


「……やめよ、貴様は、世界を終わらせたいのか」


「そんな滅相なこと考えてはいませんよ。ただ、問いたいのです。我ら神がどれほど愚かなのかを」


 ヘラを置いて、私は牢獄に向かって歩き出す。


 牢獄の前に立ち、門に触れようと手を伸ばすと、槍が飛来し、それから発せられる雷に吹き飛ばされてしまった。


「がっ⁉︎」


 痺れる肉体が、何者が現れたのか教えてくれる。


 視線を上に向けると、そこには八本足の馬、スレイプニルに騎乗したオーディンの姿があった。

 更に、その背後には多くの神々を引き連れており、何が目的なのか明らかだった。


「これまた、大層なお出迎えですね……」


 オーディンは降り立つと、スレイプニルから私を見下ろす。


「愚か者め。いずれ裏切るのは知っていたが、まさかこのような下らぬ理由だとは思わなかったぞ」


 以前から、蔑むような目をオーディンに向けられていた。

 何故なのかと疑問に思っていたが、裏切りの未来を見ていたからなのだと、今更気付く。


「裏切ってなどいませんよ、ただ問い正したかっただけです」


「異世界人を滅ぼすことか? 未来で害を為すと出た。それだけで十分であろう?」


「……貴方の能力は、漠然とした未来を見るだけでしょう。それなのに、何故考えないんですか? 害を為す原因を、その因果を何故考え、変えようとは思わないんですか⁉︎」


 感情が溢れ出る。

 解決する方法は他にもある。それなのに、オーディンは選ばない。

 オーディンだけではない、他の神々も同様だ。

 別の道を選ぶ力があるのに、幾らでも解決する手段を持っているというのに、新たな可能性を示せる力があるというのに、それを選択しない。


 そのせいで、これまでどれだけの命が奪われて来たのだろう。


 私達は、一度立ち止まり考えるべきだ。


 だが、この思いは届かない。


「下らぬ。気まぐれに作った泥人形の役目など、我らを楽しませる以外、何も無い!」


 迷いなく言い切るオーディン。

 きっと、何を言ってもオーディンには届かない。


 だから、諦めた。


 ドッペルゲンガーを使い、魔法を発動する。

 反応した神が、武器を手に私を貫いた。


「かはっ⁉︎」


「無駄なことを」


「いいえ、無駄ではありませんよ」


 貫かれた私の肉体は一気に肥大化し、辺り一帯を巻き込む大爆発を巻き起こした。

 

 だが、この程度でやられる神はいない。

 目的はあくまでも目眩し。

 オーディンを狙う為の布石。


 連続してドッペルゲンガーを生み出し、視界が塞がっている今こそ、オーディンを狙う。


 様々な魔法を使い、オーディンを攻め立てた。

 わずかとはいえ、最高神であるオーディンに傷を負わせた。


 だが、届かない。


 分かっていたことだ。

 一度でも触れられたら勝機はあったが、近付くことすら出来なかった。


 私は囚われ、地面に押さえ付けられた。


「オーディン、考え直してはもらえませんか。異世界人は、連れて来られただけの被害者。彼らを、これ以上傷付ける必要はないはずです」


「ふん、家族ごっこで絆されたか? フレイヤ、連れて来い」


 フレイヤに剣を突き付けられてやって来たのは、ここにいてはいけない人物だった。


「お父……さん?」


「先生?」


「トーリ、アックス君……どうしてここに?」


 トーリとアックス君がいた。


 理解が追いつかない。

 二人は眠らせて、結界で守った別の場所に隠しておいたはずだ。

 いや、そもそも、何故トーリが天界にいる?


「泥人形が神を父呼ばわりか……落ちたな、ロキ」


「オーディン、何を考えている。この二人は関係ないはずです。地上に帰してやって下さい!」


 何が起こるのか、想像は付いていた。

 だから懇願した。

 二人は無関係だと言って、何とかして助けたかった。


 だけど、私は何も救えない。


「お前が狂った理由がこれならば、今、この場で壊すのみ!」


 オーディンの槍がトーリに向かう。

 何とかして助けたくて、必死に足掻くが、押さえ付けられて身動きが取れない。魔法を使おうにも、とてもではないが間に合わない。


 私は、ただ見ていることしか出来なかった。


 トーリは何も反応出来なくて呆然と立ち尽くし、槍に貫かれようとしていた。


 全てがゆっくり動いて行く。


 突然、トーリが傾き、その体と入れ替わるように青年が現れる。

 愛した女性を救おうとした青年は、無謀にも神の槍の前に立ったのだ。


 青年、アックスはトーリを見て微笑み、槍に貫かれて死んだ。


「えっ? え……アックス?」


 何が起こったのか理解出来なかったのだろう、トーリは呆然と貫かれたアックスを見ていた。


「槍が外れた? ……まあ良い、そこのも異界の子孫。では、次だ」


 引き抜かれた槍は、再びオーディンの手に戻る。

 傷口から血が溢れ出し、その光景を目の当たりにして、トーリは現実を突き付けられてしまった。


「あっ、あっ……アッ……クス? お父さん? お父さん! アックスが! アックスがっ⁉︎」


「トーリ‼︎」


 私に助けを求めるトーリは、オーディンの槍に貫かれてしまった。


 ああ……。


 槍が引き抜かれ、横たわるトーリは私に向かって手を伸ばす。私も、トーリの傷を癒そうと手を伸ばし、何とか触れようとする。


 だけど、私の手はフレイヤの剣に突き刺され、地面に縫い付けられてしまう。

 顔を上げフレイヤを見ると、そこには楽しそうに醜く歪めた悍ましい顔があった。


 これは何だ。

 どうして、そんな顔が出来るんだ。

 私が足掻く度に、皆が醜く笑う。

 愚かだと、下らないと、無意味だと、そう醜く笑うのだ。


 ……ああ、そうか。

 私は勘違いをしていた。

 狂っているのは、彼らだったのだ。


「なあフレイヤ、私は狂っているのだろうか?」


「ふん、何を今更。その通りだろうが!」


「そうか、狂っているのか。……お前達と一緒だな」


「なんだと⁉︎ ……貴様、今何をした?」


 最初からこうしていればよかった。

 牢獄の門を開けるのではなく、牢獄自体壊せばよかったんだ。


 ゴーレムを作ったのも、ヘルヘイムを作ったのも、私とヘラだ。

 同じような機能をどちらにも持たせている。


 ゴーレムの時と同じように、ヘルヘイムも崩壊する。


「おのれ⁉︎ 牢獄から出てくるぞ! 皆備えよ!」


 オーディンが皆に忠告すると同時に、牢獄から反逆者達が飛び出して来た。


 神々の戦い、ラグナロクが開始された。





 巨大な力がぶつかり、天界が揺らぐ。

 地上よりも強固に造られた天界でも、神々が争えば揺らぎ、砕かれて行く。


 私の動きを封じていた神々も、反逆者を迎え討つべく行ってしまった。


 地を這い、トーリの元まで向かう。

 私は足を切り落とされており、再生するまで時間が必要だ。


「はあ、はあ……」


 息が切れる。

 今までこのようなことはなかった。どんなに動こうとも、体力も魔力も無尽蔵に湧いて来ていたのに、今はそれを感じない。

 恐らく、ドッペルゲンガーを使い過ぎたのだろう。

 私の命も、そう残されていないのかも知れない。


「トーリ、意識はありますか?」


 問い掛けると、涙がこぼれ落ちた。

 龍族の血のおかげで、普通の人よりも生命力があり、まだ生きている。ただし、それだけ苦しみを長引かせるといことでもある。


「トーリよく聞きなさい、あなたを治療して地上に帰します。アックス君も治療し次第、地上に送ります。ここでの出来事は忘れて、幸せに暮らしなさい。良いですね」


 私は、嘘をついた。

 アックス君は、もう助からない。私に、死者を復活させる権限は無い。あるのは一人だけ。その一人も今は倒れており、何より私を恨んでいるだろう。

 だから、これはトーリを安心させる嘘。


 トーリの口が動くが、苦しいのか声を出すことが出来ないようだ。


 私の残りの魔力を使い、トーリの治療を開始する。


 オーディンの槍は死へと誘う槍。

 一度傷を受ければ、一度死ぬか、神でもない限り死に対抗出来ない。


 だから、トーリに私の血を分け与える。

 一時的にも神族になれば、死の呪いも無効化出来る。


 治癒魔法と併用して私の血を与えて行く。

 馴染むように、ゆっくりゆっくりと全身に行き渡らせる。


 周囲が戦場となり、危険極まりない場所だが、何故か大丈夫な気がした。

 少しだけ、アックス君を見る。

 オーディンは、アックス君を異界の子と呼んでいた。

 それが異世界人の子孫という意味ならば、アックス君は何らかの特殊能力に目覚めていた可能性がある。


 その能力で、トーリを守ったのだとしたら……。


「私も、約束は守らないといけませんね」


 治癒魔法に集中して、血を馴染ませトーリに神格を与える。


 オーディンの槍の呪いが、トーリから離れて行くのを感じる。

 これで救われた。


 あとは、傷を癒せば……。

 そう安堵した時、変化は突然起こった。


「なんだ……これは……」


 急速に力が抜けて行く。

 いや、奪われて行く。


 私の力が、トーリに向かって流れ出していた。


「……ああ、……そうか、……これが、トーリの能力……」


 他者の力を奪う。

 これこそが、トーリの特殊能力なのだろう。


 このままでは、全てを奪い取られて死ぬだろう。だが、それも悪くないと思ってしまった。


 段々と遠ざかる意識の中で、誰かに呼ばれたような気がした。

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