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魔王さまは暇つぶしをご所望です‼︎  作者: ハマ


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22.星喰い(遊び無し)

 女神マオトリー。

 この世界の守護神であり、平和と豊穣と商売繁盛、金運、恋愛運、子宝、厄除け、夫婦円満、全てを網羅する何でも御座れな女神である。


 そんな、何でもありな女神を信仰するのが女神マオトリー教会だ。


 女神マオトリー教会は、世界の半分の国が国教としており、実質世界の半分を支配していると言っても過言ではない。

 その成り立ちは約八百年前、ある厄災の襲来により、世界は混乱に包まれた。その混乱を鎮める為、ある国の宰相が教祖となり世界に広めたのがきっかけだった。


 長いこと続いている女神マオトリー教会だが、これまで腐敗により落ちぶれたことは一度もない。

 もちろん、中には生臭坊主のような輩はいたが、敬虔な教徒により粛清されていた。

 しかも、災害や戦争により行き場を失った者達の受け皿となっており、その勢力は今なお拡大中である。


 そんな素晴らしい女神マオトリー教会だが、一部の者からは疑問の声が上がっていた。


 本当に女神はいるのかと。


 教義では、世界に厄災が現れたとき姿を現すとされているが、その厄災という物が何なのか分からなかったのだ。


 女神マオトリー教会では、八百年前と六百年前、そして三百年前に現れたとされるが、これまでに災害が起こったこと以外は何も記録されていなかった。

 

 そんな疑問もあり、世代が進むに連れて信徒は懐疑的になっていた。





 いつも通り、魔王様の暇潰しに付き合って、シロの家族を気遣い、メロウに人の国とあまり関わるなと注意し、サリーには連絡が取れるようにしておけと注意し、リーフには森を破壊された怒りは分かるが、地底都市を侵略するのは辞めろと説得した。


 リーフが地底都市を侵略しようとした理由は、モルボが庭の森をアスレチック場にして破壊したのが切っ掛けだった。


「あんの、森がえれーことになったのってぇ、モルボさですよね?」


 生まれ故郷である森を傷付けられてリーフは、かなり切れていた。

 せめて、モルボが謝罪するか元に戻す努力をしていればよかったのだが、それを怠ってしまった。

 私も一応説得したのだが、


「だでん、モルボさ四天王辞めてるじゃないですか? それって魔王様に対する挑戦状ですよね? ねえロキさん?」


 と途中から訛りが無くなり、ガン開きになった目で迫ってきたので、強くは言えなかった。


 それに、やるにしてもモルボに対してだけと思っていた。それが、地底人全てを敵に回すつもりだとは、誰が予想出来ようか。


 あと、メロウだが、反乱を起こしたメルツ帝国の王子がクーデターを成功させた。

 その一助にメロウがいたかは分からないが、メルツ帝国から国交の要請が来ており、頭を悩ませている状況だ。


 特定の人の国との国交は、争いの火種となる。


 近々、新たな勇者が任命される。

 そんな中で、魔王国と国交を結べば、間違いなく他国から攻め込まれるだろう。


「頭が痛いですね……」


「何だロキ、悩みごとか?」


 悩みの中心人物でもある魔王様に心配されてしまった。

 今は大人しくシロとぬいぐるみを作っているが、飽きてしまえば、何をしでかすか分からないのが恐ろしい。


「え? ロキさんに悩みごとってあるんですか?」


「失礼ですね、私にも悩みの一つや二つありますよ」


 シロがとても失礼なことを言う。

 私はそんなに能天気に見えるのだろうか?

 もうちょっと深刻な顔をしながら、日常生活を送った方がいいのかも知れない。


 なんて考えていたのが悪かったのだろうか?


 三百年前に終わったと思っていたことが、再び起こってしまった。


「っ⁉︎」


「っ⁉︎ これは、まさか⁉︎」


「なに、どうしたの二人とも?」


 私と魔王様が突然真剣な表情をし、魔力を漲らせたのを見てシロが困惑している。


 悪いが、説明している余裕は無い。

 直ぐに対処しなければ、世界が危機に陥る。


 とはいえ、この国を空けるわけにもいかない。


 私はハンナに指示を出す。


「ハンナ、早急に四天王とキンコを呼びなさい。拒否権はありません。集まらなかった者には、相応の罰を下します!」


「はっ、はい!」


 急いで出て行くハンナを見送り、千里眼の魔法を使う。


 見るのはかつて神々が暮らしていた天界。

 そこには、破壊された宮殿と荒れた大地があり、あの頃の華やかな面影は無い。


 そんな天界に、ある存在がいた。


 その存在を確認した瞬間、私は千里眼の魔法を切った。

 じっくりと見ると、奴に気取られてしまう恐れがある。そうなれば、戦場はここになってしまうだろう。


「どんな奴だった?」


「四足歩行の黒い獣、大きさは魔王城と同じぐらいです」


「そうか……今回は小さいな」


「油断はなさらないよう、見た目で強さは分かりませんから」


 緊張感のある会話を始めた私達に、唯ならぬ事態を察したのか、シロは黙っていた。


 賢い子だ。

 非常事態なのを察して、邪魔をしないよう気配を消している。


「シロ、申し訳ありません。今は黙って従ってもらえると助かります」


「いっ、いえ⁉︎ 私は、全然大丈夫です!」


「シロちゃんごめんな、ちょっと大変なことになったみたいだ」


「いいよ、私なんて気にしないで! 魔王ちゃん、なんかよく分かんないけど、頑張ってね!」


「……うん!」


 シロの励ましの言葉に一瞬ポカンとした魔王様だが、段々と嬉しくなったのか笑みを浮かべていた。


 十分後、四天王とキンコが揃った。

 最初はいつも通り気軽な感じで入って来たが、私達の雰囲気を察して、何かあったのだろうと真剣な表情に変わった。


「集まってもらって感謝します。現在、早急に対応しなければならないことがあり、魔王様と私は魔王国を離れます。おおよそ一月、長ければ半年空ける恐れがあり、その期間あなた方にこの国を任せます」


 私の言葉に、皆が動揺しているのが伝わって来る。

 質問する時間を与えてやりたいが、そんな時間は無い。

 それにこれは、決定事項なのだ。ここにいる以上、拒否権は無い。


「魔王代理をキンコ、貴女に任せます」


「待ってください⁉︎ いきなり呼び出されて、何を言われているのか、まるで理解出来ません! それに何ですか、私が魔王代理って……」


「ここに在籍する者で、この国を一番理解しているのはキンコです。ならば、貴女に任せるのが適任だ。そして、この命令に拒否権はありません」


「拒否権は無いって、そんな、横暴な……」


 すまないが、今任せられるのはキンコだけだ。


 三百年前までなら、今のような状況が起こることを想定して魔王の代理となる者を育成していたが、その必要も無くなったと思い育てていなかった。


 失敗だった。


 こんなことになるなら、魔王代理の育成は継続するべきだった。


「ねえ、一体何が起こっているの? まるで理解出来ていないんだけど……」


 サリーが聞いて来るが、答えることは出来ない。


「申し訳ありませんが、詳しくは説明は出来ません。ですが、一つだけ。世界は今危機に瀕しています。それを解決する為に、私達が行かなければなりません」


「それって、まるで……」


 言葉に詰まるサリー。

 もう、これ以上の説明は出来ない。それに、時間も無い。


「魔王様、お時間です」


「そうか……。皆の者、我が帰るまで留守を頼む」


 私は魔王様の肩に手をやると、転移魔法で天界に飛んだ。





 咲き乱れた花が舞い上がり、瓦礫と化した建物が散りへと変えられて行く。


 城のように大きな四足歩行の獣は、天界を駆け巡り、全身から振動を発生させて全てを破壊しようとしていた。


 恐らく、ここから出たいのだろう。


「今回のは弱そうだな」


「先ほども言いましたが、油断なさらないように。あの【星喰い】がどのような能力を持っているのか不明ですから」


「分かってるって、じゃあ行って来る」


「お待ち下さい! せめて変身してから行って下さい!」


「ええー」


 不満そうにしているが、これは遊びではないのだ。

 今の状態では、闇の衣があっても一撃で死ぬ恐れがあり、第二形態でも持つか分からない。最低でも第三形態まで変わらなければ、星喰いの前には立てないだろう。


「仕方ないな……あっ、気付かれたようだぞ」


「私が時間を稼ぎます。その内にお早く」


「倒してしまってもいいんだぞ」


「私が倒すには、数百年掛かるのはお分かりでしょう」


 私は前に出ると、多重結界を発動して星喰いを捕らえる。

 この程度では、一瞬しか足止め出来ないが、私の場合はそれで十分だ。


 魔王様に変身機能があるように、私にも一度だけ変身することが出来る。


 いや、元の姿に戻るだけか……。


 私の種族は、神族。

 この世界が生まれたのと同時に生まれた生命体。それから分裂して生まれた種族が、我ら神族。


 今では、純粋な神族は私と五柱しか残されていない。

 罪深い神族は、世界を守る役目を忘れ、生命を弄んだ挙句、滅んでしまった。


 私達は、その生き残り。


 力を解放して、罪深い本来の姿に戻る。


 人型なのに変わりはないが、この身から溢れ出す力が脳を焼く。純白の布が現れ、身を包む。腕と頭部には黄金の装飾が現れ、この身に嵌る。

 武器である杖と片手剣を持ち、私は星喰いに向かって歩いて行く。


「私はこの姿が嫌いなんです。この姿に戻したあなたに手加減はしません」


 杖を前にやり、迫る星喰いを遠くへと吹き飛ばす。飛ぶ星喰いの真上に転移すると、短剣を連続して振りその身を斬り刻む。


 衝撃が天界を駆け抜け、辺り一帯を破壊してしまう。


 だが、これでは終わらない。

 この程度で終わるのなら、そもそも魔王様に頼ったりはしない。


「クアッ!」


 星喰いが唸る。

 杖を構え、結界を幾重にも張り巡らせる。

 星喰いより振動が発せられ、結界に衝突すると大爆発が巻き起こった。


 これが地上で起こっていれば、魔王国は跡形も無く消えていただろう。


 それほどの攻撃を繰り出す星喰いの横に立ち、杖を振ってその身を遥か上空へと跳ね上げる。


天十握剣(あめのとつかのつるぎ)・刹那」


 短剣を振り、星喰いを夢幻の世界へと落とす。

 夢幻の世界は、永遠とも呼べる時間が一瞬で過ぎ去る世界。そこで永遠に切り刻まれ、精神が崩壊するのだが……。


「……やはり通じませんか」


 まともな精神など存在しない星喰いには、この技は通用しない。


 夢幻の世界から解放され、落下して来る星喰いは、こちらに向かって口を開く。

 その口から放たれるのは、天界を揺るがすほどの攻撃。

 それが連続して放たれる。


 私は回避しながら、魔王様の様子を伺う。


 いい加減変身は終わっているはずだが、向かって来る様子がない。

 どうしたのだろうと見てみると、第三形態で止まっており、胡座をかいて観戦していた。


 まあ、そんなことだろうなとは思っていた。


「魔王様、遊んでないで終わらせて下さい」


 転移して魔王様の背後に立つと、後を任せる。

 星喰いは攻撃を止めて辺りを見ており、直ぐにでもこちらにやって来るだろう。


「なんだ? 圧倒してたじゃないか、このままやれば倒せるんじゃないのか?」


「分かっているでしょう、私では星喰いを倒すには時間が掛かる。無限の命を刹那に狩れるのは、あなただけだ」


 私の言葉で、仕方ないなと立ち上がる魔王様。


 その姿は私と似ており、神族特有のオーラを纏っていた。


「それにしても、どうやって侵入したんだ? 次元の狭間は、三百年前に結界で閉じたのではないのか?」


「それは調査しなければ何とも……。ですが、入れるスペースは小さかったのでしょう。この星喰いは弱い」


「まあ、そうだろうな」


 私の言葉に同意した魔王様は、次の瞬間には姿を消していた。


 星喰いのいた場所で黒い炎、獄炎が上がる。

 獄炎は、対象の生命力を奪って燃え続ける地獄の炎。決して消えることはなく、逃げ延びるには燃えた場所を切り捨てるしかない。


 その上、魔王様は燃える星喰いを氷の世界に閉じ込める。


 暴れ続ける星喰いは、やがて動かなくなり全てが燃え尽きた。


 だが、星喰いはこの程度で死ぬ存在ではない。


 灰から復活した星喰いは、獣の姿から人型へと変わる。

 巨大な姿では、的になると考えたのだろう。もしくは、私や魔王様に姿を似せたか……。


「カかカっ‼︎‼︎」


 星喰いは口を開き異音を鳴らすと、単発の衝撃波が発生し魔王様を襲った。


 避けることは出来ただろう。

 だが、魔王様はあえて受けた。


「ふん、本当に弱いな。何も理解出来ずに入ってしまったのか?」


 衝撃波は顔面に当たり、魔王様の顔から鼻血が出ているが、それだけだった。


「我は弱い者イジメが嫌いだ。今直ぐにこの世界から去るのであれば、見逃してもよいぞ」


 魔王様の言葉を理解しているのか、星喰いは動きを止めた。

 止めて、怒りを爆発させた。


 星喰いの口から、音にならない振動が放たれ、辺り一帯を散りへと変える。

 それを受けた魔王様も無傷では済まず、全身から血が吹き出している。


 それでも、魔王様の優位は変わらない。

 そもそもの地力に差があり過ぎた。


「残念だ」


 傷を負いながらも魔王様は星喰いを掴む。


 そして、最後の変身をする。


 魔王様の第一形態は、人族の子供の姿。

 第二形態は、父親と同じ龍族の姿。

 第三形態は、血を分けられた神族の姿。


 最後の第四形態、本来の魔王様の姿である大人の姿になる。


 紫色の髪がはためき、闇の衣が黒いドレスに変わる。


「ごめんなさい」


 慈愛に満ちた目を星喰いに向け、力を解放する。

 紫色の魔力が星喰いを包み込み、小さく小さく小さくしていき、小さな球体にまで圧縮してしまった。


 星喰いは何も抵抗が出来ない。

 もう、全てを奪われてしまったから。


 魔王様は星喰いの球体を握ると、力を込めて粉々にしてしまった。

 砕けた破片は渦を巻き、魔王様へと取り込まれてしまう。


 これが魔王様の特殊能力。

 覚醒者、先祖返り、神に祝福された者と同じ能力だ。


 私は魔王様の元へと転移する。


 彼女は私を見ると、まるで少女のような笑顔を見せてくれる。私もその顔に懐かしくなり、微笑んでしまう。


「お疲れ様でした、トーリ」


「うん。後はよろしくね、お父さん」

 

 魔王様は、その身を封印して小さな子供の姿に戻ってしまう。


 私は倒れる体を抱き留めて、スヤスヤと眠る顔を見る。


「お疲れ様でした」


 眠る魔王様を労い、私は世界に掛けた結界の調査に入った。 

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