2.鬼ごっこ
「あ〜、暇、暇暇、暇つぶしに人類滅ぼそうかな〜」
神経衰弱で一週間は持ったが、ついに飽きてしまい魔王様は暇を持て余していた。
椅子の背もたれを倒して、寝そべってダラダラとしており、何ともやる気が無さそうだ。とはいえ、口にする言葉は相変わらず物騒で、とても認めるわけにはいかなかった。
「なーロキ、人類滅ぼしに行こうぜ」
「……それよりも、その椅子どうなさるのです? 職人が長い時間を掛けて作った逸品ですよ」
「え、椅子?」
玉座はリクライニング式ではない。
魔王様が壊して倒しているだけだった。
魔族の職人が、大きな石から掘り出した逸品。取り付けられたクッションも、裁縫職人が最高の素材を使って仕上げた物だ。
一国の王である魔王様に、そんじょそこらの椅子に座らせることは出来ない。見た目がチンチクリンな分、装飾品を充実させるしかないのだ。
そんな大切な椅子を見つめて、魔王様は気まずそうにする。
「えっと、あはは! ……とう!」
魔王様は窓ガラスをぶち破って逃走した。
そのガラスも高いんだぞと言いたかったが、魔王様の姿はすでに遠く……には行っていなかった。外から私をチラチラと見ており、何か期待しているようだった。
「……やれやれ、仕方ないですね」
私は準備運動を軽くすると、割れた窓に向かって飛び出した。
「魔王様お待ちなさい!」
魔法を使って空を飛び、魔王様を追い掛ける。
「ふはははっ! 我に追い付けるかな⁉︎」
空中を駆ける鬼ごっこが始まった。
魔王様は速い。
最強の魔王様なのだから、それは当然のことだ。
だが、私も速い。
力を押さえている今の魔王様より、私は強い。
だから私の方が速い。
のだけれど。
「流石はロキ! だが、これはどうだ?」
無数の魔法を放ち、私を迎撃しようとして来る。
私は舌打ちをすると、回避行動を取る。しかし、中には追撃機能がある物もあり、避け切れない。
きっと、下から見れば無数の光が走る美しい光景に見えただろう。
そんな呑気なことを考えつつ、可能な限り上空に上がり防御魔法を展開して迫る魔法に備える。
魔法が着弾すると、閃光と共に大爆発を巻き起こし、近くの雲を全て吹き飛ばしてしまった。
それほどの威力の魔法だが、私は当然のように無傷である。それどころか、防御魔法にヒビ一つ入っていない。
先程も言ったが、魔王様は力を押さえている。
そのような状態で魔法を放たれても、脅威を感じない。
ならば、どうして上空に来ているのかだが、地上への影響を考慮してだ。
あれだけの大爆発を起こせば、城だけでなく多くの魔族にまで迷惑をかけてしまう。
それだけは避けたかった。
「では、こちらの番です」
私は全身に力を込めて、本気の飛翔魔法を使う。
ドンッ‼︎ と衝撃が走らせ、その場から姿を消した。
地上から空を見上げていた魔王様を見付けると、背後に周りポンッとタッチする。
「あっ」
「捕まえました。次は魔王様が鬼ですよ」
そう告げると、ポカーンとした魔王様の顔が見える。
「では、十数えて下さいね」
即座に姿を消す私。
取り残された魔王様は、あわあわしながら数を数え始めた。
「え? あっアワアワ。あっ⁉︎ いち!に!さーん、しー、ごろくななはちきゅうじゅっ! では行くぞ!」
満面の笑みを浮かべた魔王様は、それはもう楽しそうに追いかけて来た。
空を駆け、山岳地帯で魔法を撃ち合い、逃げに逃げ続けた。
最初こそ楽しそうにしていた魔王様だが、中々捕まらない私に剛を煮やしたのか、第二形態に変身して追って来た。
力の増した魔王様に勝てるはずもなく、呆気なく捕まった。
次があるなら、ほどほどにしてあげようと反省した。




