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魔王さまは暇つぶしをご所望です‼︎  作者: ハマ


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19.アスレチック(死の迷宮)

 アスレチックの初級から取り壊すため、魔法を行使する。

 この程度であれば、直ぐにでも解体は可能だ。森も一応再生可能だが、それはリーフにやらせた方が良いだろう。

 魔王城の裏庭の一部は、リーフがデザインしているので、私が再生しても変更する可能性が高い。


 きっと、仕事を終えて戻ったリーフは、ブチ切れながら森を再生させるだろう。そのついでに、モルボへの仕返しを考える姿が目に浮かぶ。


 初級コースを解体すると、次は中級コースに取り掛かる。しかし、そこで待ったが掛かった。


「ロキ殿、ひとつご相談があるのですが?」


「アレス殿、いかがなされた?」


「上級者コース、あれをやらせてはもらえないだろうか?」


「あれを? 殺傷能力は取り除いていると言っていたが、危険な物に変わりはないが……」


 止めておいた方が良いと、それとなく告げるのだが、アレスにはやりたい理由があるようだ。


「リベンジを果たしたいのです」


「リベンジ?」


「昔、モルボの迷宮には苦しめられました。あれを突破出来た時は、それはもう仲間達と泣いて喜ぶほどでした。でも、その成功も、ロキ殿の口添えがあったからだと、先日モルボから聞かされました」


 舌打ちをしそうになった。

 余計なことを言ったモルボを睨み付けると、自分が余計なことを言った自覚はあるのだろう、顔を背けて体を震わせていた。


「あれは気にしないで下さい。モルボの迷宮は無限に増設可能なので、あのまま放っておいたら近隣の国まで影響が出る所だったんです」


 そう言い訳をしたが、やはりというか、アレスは納得していない様子だった。


 私はため息をついて、頑固ジジイに折れるしかなかった。


「分かりました。ただし、夕暮れ時には解体しますので、それまでには出て来て下さい」


「感謝します」


 私はアレスを置いて、魔王城へ戻った。





 勇者アレスは杖を突きながら、上級者コースへ向かう。

 

 アレスは思う。

 この五十五年、勇者として様々な出会いがあった。


 しがない農民で終わるはずだった人生が、何の因果か【道具使い】という様々な道具を扱える特殊能力を発現させてしまい、大きく狂わせてしまった。


 マオトリー教会に保護され、その後、勇者として任命されてしまった。


 怒涛の毎日だった。

 戦い方を教え込まれ、貴族の操り人形にならないよう、様々な事を学ばされた。

 擦り減る精神は、教会の者との交流や将棋をすることで平静を保つことが出来た。体力は、寝れば回復出来たのでなんとかなった。


 いろんなことがあった。


 勇者として旅立つ前に、国王から資金と仲間を与えられた。

 資金はわずかばかりで、宿で十日も泊まれば底を尽きる程度だった。資金が無くなれば、その土地を治める貴族に頼れと言われたが、それに頷くだけで頼るつもりは一切無かった。


 貴族家に立ち寄れば、僕はきっと良い思いが出来ただろう。だが代わりに、使命と自由を奪われてしまう。

 そう教会で習い、仲間のサニアからも注意を受けたので確信が持てた。

 だから貴族との交流は最低限にとどめ、「使命があるので」と言って屋敷から逃げ出していた。


 あとは仲間だが、魔術師のサニア、傭兵のカンダタ、武闘家のシャオリーの三人になる。

 当初この三人は、仲間になる予定ではなかった。

 予定されていた者達は、宮廷魔術師や近衛騎士、凄腕の闘士だったらしいのだが、皆何らかの理由で参加出来なくなったそうだ。


 今なら分かるが、彼が裏から手を引いていたのだろう。


 仲間達との旅は、僕に取ってかけがえのない物だった。多くの苦難を乗り越え、強敵を討ち破り、笑い涙する経験は、間違いなく僕らを成長させてくれた。


 その旅の中で、最も苦戦したのは四天王の一人である土迷葬のモルボ。

 彼が作り出す迷宮は攻略不可と言われており、多くの人々が挑戦して散って行った。


 僕らはそれに挑み、半年を費やして突破した。

 簡単なことではなかった。

 命を狙う数々のトラップを乗り越え、変わる地形を攻略し、迷宮に住み着いた魔獣を討伐して、最下層にいるモルボと対峙した。

 モルボは疲労困憊の僕らを見て、「ちっ瀕死じゃねーか、これで回復しろ」と回復アイテムを渡して来たが、僕らは慎重に吟味して使い、見事にモルボを撃破した。


 モルボ撃破は、人の国々を大いに湧かせた。

 魔王軍四天王の一人を倒したのだ。それはもう、快挙と呼んでいい出来事だった。

 僕らも誇らしかったし、その達成感も言葉では言い表せないほどの物だった。


 だけど、それらが虚構だと知らされた。


「えっ迷宮? あーあれな、ロキの旦那にやり過ぎだって怒られたんだよ。まあ、お前ら強過ぎたからな、あん時は俺も意地になっちまったんだよ。まあなんだ、悪かったな」


 モルボと飲んでいると、とんでもないことを言われてしまった。

 とてもショックだった。

 ……いや、実は薄々気付いていた。

 最後が余りにもあっさりしていたのもあるが、旅の道中、見守られているような感覚があったからだ。

 そして何より、サニアも救われている。


 だからそれほどショックではなかったが、再びモルボの迷宮に挑めるのなら、誰の助けもなく突破したかった。


「アレス、行くのか?」


「ああ、僕なりにけじめを付けたいからね」


 心配する魔王に告げて、僕は歩き出す。

 君達に作られた勇者としての道。

 それを知っても、僕は君達に感謝している。


 僕らが旅をしたのは、魔王国だけじゃない。人が統治する国々を回り、この世界がどれだけ過酷なのかも理解している。

 それでも、この世界が平和を維持していられるのは、間違いなく君達がいてくれるおかげなのだから。



 アスレチックの上級コースは、あの日の迷宮を彷彿とさせる作りをしていた。

 巨大な山に、常に変化する地形。様々なトラップに、魔獣に似たゴーレムまで配置している。


 うつ伏せで倒れているモルボを見ると、こちらを心配するような目で見ていた。


「おいアレス、止めとけ、このコースは、クリアさせる気がなくてっ⁉︎ つっ、作ったんだ。くっ⁉︎……あの時の、迷宮より、危険だぞっ⁉︎⁉︎」


 痛風で苦しみながら告げるモルボは、見ていて痛々しかった。

 でも、モルボの言葉のおかげでやる気が漲って来る。


「これで証明出来る」


 これをクリアすれば、あの時の僕らはロキ殿の助けがなくても、モルボの迷宮を突破出来たのだと証明出来る。


「本気で体を動かすのは何年ぶりだろう?」


 僕は上着を脱いで、仕込み刀である杖を脇に抱えて歩み出した。


 上級コースの入り口。

 一歩踏み出すと同時に、横からスポンジ製の壁が迫って来る。その範囲は三十メートルはあり、何もしなければ二秒後には潰されるだろう。

 僕は縮地でその範囲を抜ける。


 抜けた先で矢が飛んで来るが、仕込み刀を払い全てを切り落とす。


「殺傷能力は無くしたんじゃ……」


 矢にはしっかりと矢尻が残されており、殺意が宿っていた。

 もしや、この程度では傷を負わないというモルボ基準で残されていたのだろうか?


 もしそうだとしたら、人である僕が受けたらタダでは済まないだろう。


 緊張感が増した上級コースを、僕は慎重に進んで行く。





「アレス遅いなぁ」


 勇者アレスが上級コースに挑戦してしばらく経った。日も傾き始めており、ロキが定めたタイムリミットが迫っている。


 心配そうに魔王とシロが待っているが、一向に戻って来る様子はない。


「音もしなくなったね、アレスさん大丈夫かな?」


 少し前まで爆発音や重量物が衝突する音が響いていたが、それも聞こえなくなっていた。

 これ本当に殺傷能力無いのか? とモルボに尋ねるが、「大丈夫だっ⁉︎ ……おっ……かすり、傷、負わねーよっ⁉︎⁉︎」と言っていたので大丈夫だろう。


 しかし、それにしても遅い。

 失敗した場合は、脱出ポットで運ばれてくるらしいのだが、それも稼働した形跡が無い。


 もしかしたら、迷宮のトラップ以外で不慮の事故が……。そんな想像が浮かび、シロは決断する。


「……魔王ちゃん、私アレスさん探してくるね」


「シロちゃん……うん! 気を付けてな!」


 心配した魔王だったが、シロも四天王の端くれ。その実力は本物だと、魔王も十分に理解していた。


 シロを送り出した魔王は、「無事に帰って来いよ」と二人の無事を祈った。


 それから数秒後、


「ニャーーッ⁉︎⁉︎ イヤーーーーッ⁉︎⁉︎ 何これ何これ⁉︎ イーニャーーーッ⁉︎⁉︎」


 上級コースから悲鳴が上がり、脱出ポットが排出された。

 その脱出ポットの中には、ボロボロの姿で目を回しているシロの姿があった。


「シロちゃーーん⁉︎⁉︎」


 一体誰がこんなことを⁉︎ あのれ許せん! と間違いなく張本人であるモルボを睨む。


「モルボ! 痛風の八つ当たりに、よくもこんなことを! お前は我を怒らせた!」


「待て待てっ⁉︎ 何もやっ⁉︎ てないからっ⁉︎ トラップだっ⁉︎ てかすり傷……も? あっ、やっちまってるわこりゃ」


 モルボは説明する。

 どうやら、トラップの殺傷能力無効化を地底人使用にしていたらしい。

 頑丈さが取り柄と言ってもいい地底人は、家が爆発する威力でも、かすり傷程度で済んでしまうのだ。


 そんな頑丈基準で作られたトラップは、かつて迷宮で使われていた物と遜色ない性能を発揮していた。


「このアンポンタン野郎! アレスがやばいではないか⁉︎」


 急いで助けに行かないと⁉︎ と動きだそうとすると、上級コースの頂上から大爆発が巻き起こった。


「なっなんだー⁉︎⁉︎」


 爆発した所を見ると、ミノタウロスを模した大きなゴーレムが立ち上がっていた。手に持った巨大な棍棒を叩き付けると、強烈な衝撃と突風が吹き荒れる。


 おいおい、あんなの地底人でも死ぬんじゃないか?


「やっべ、あそこまで行くと思ってなくて、解除してなかった」


 テヘペロしながら言うモルボに殺意が湧いた。


「おいモルボ! 早くあれを止めろ! アレスが死んでしまうだろぉ〜‼︎」


「おっおい⁉︎ 揺らすな⁉︎ おっ⁉︎ あーーーーーーっ⁉︎」


「聞いているのか⁉︎ 早く止め……モルボ? おっおい……モルボーーーーッ⁉︎⁉︎」


 魔王の揺りによって、泡を吹いて気を失ったモルボ。

 これではアスレチックの機能が解除出来ない。


「……仕方ない、少し本気を出すか」


 今のままでは、あのアスレチックはクリア出来ない。

 ならば、力を一段階解放してやればいい。


 魔王は変身するべく、全身に力を込める。


「はあーーーっ⁉︎ なんだぁー⁉︎⁉︎」


 気合を入れて、いざ変身! というところで、轟音と共にミノタウロスの腕が切り落とされた。

 驚いてアスレチックの頂上を見てみると、ミノタウロスに斬り掛かる存在がいた。


「あれは……アレスか⁉︎⁉︎」


 刀を持った老人が駆け抜け、大きなミノタウロスを切り刻んで行く。

 ミノタウロスもゴーレムなだけあり再生しようとするが、その端から切り落とされてしまい、追い付いていない。


 しかもである。

 アレスは更に勢いを増して行き、ミノタウロスを細切れに切り刻んでしまった。


「おーー⁉︎ アレスめやりおった!」


 ミノタウロスが形を失い、粉々に砕け散る。

 その散りは光を宿し、ある文字を形作る。

 

 『上級コースクリア‼︎』


「おおー‼︎ やったなアレス‼︎」


 アレスの悲願達成を祝福して、今晩はパーティでも開こうかなと思案する魔王だった。





 まるで古びたネオンのように発光する文字。

 オールド感漂うその文字を見て、アレスはほうと息をつき、その場に腰を落とした。

 体力が限界に達して、動けなくなったのだ。

 若い頃なら、どうということはない運動量でも、年老いた体では、少々堪えた。


 それでも、アレスの顔には笑みが浮かんでいた。

 目的の達成。

 仲間達との戦果が、思い出が嘘ではないと証明された。


 この悲願達成を噛み締めていると、突然現れたロキに話し掛けられる。


「お疲れ様でした。満足しましたか?」


「はい、これで僕達は本物だったと証明出来ましたかね?」


「何を今さら。あの日、あなたを見て資質を見出したのは私です。私が認めた時点で、アレス殿、貴方は本物の勇者だったんですよ」


「……なんと言いますか……とても傲慢な言葉ですね……」


「ええ、でも真実ですから」


 まるで己が神であるかのような、愚かで傲慢な言葉。

 それなのに、何故か納得してしまう自分がいるのをアレスは自覚する。


「ロキ殿、あなたは一体……」


「さあ、もうタイムリミットです。晩餐会の準備も終わっていますので、身を綺麗にして来て下さい」


 ロキが手をパンッと叩くと、アレスは姿を消してしまった。

 向かわせたのは、メイド達が待っている風呂場。

 ついでにシロも送って、綺麗にしてもらおう。

 モルボは……放置でいいだろう。この惨状を招いた責任を追求しないだけ、良かったと思ってもらいたい。


「さあ、お片付けしますかね」


 ロキは、魔王がやって来るのを横目で見ながら、魔法を使いアスレチック場の解体を開始した

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