15.プール
マオファス遊園地。
首都でも端の方に建設されているが、広い土地を利用した遊具が所狭しと設置されている。その中には、夏場限定で開放されるプールがあるのだが、侮ることなかれ。
そのプールの広さもさることながら、夏場だけしか使えない遊泳設備が大量にあり、とても一日で遊べるような場所ではないのだ。
男性陣(財務室と合わせて四人)は早々に着替え終わると、雑談しながら女性陣を待っていた。
「ですので、マオファスとマオテンを繋ぐ道を増設すれば、税収アップが見込めます」
「他にもマオイレとマオツーの国道の整備をしておかなければ、野良の魔獣が侵入してしまうかもしれません」
「下水設備の老朽化が目立ってきています。先日もマオスリーで地盤沈下が起こっており、他の地区でも同様の事故が起こる恐れがあります」
「承知しました。明日現地に赴き確認後検討いたします」
財務の三人との会話は、とてもリフレッシュ出来るものではなかった。とはいえ、彼らの意見は魔王国運営の参考になるので、無視するわけにもいかない。
彼らと真剣に話をしていると、女性陣が更衣室から続々と現れた。
「お待たせ」
最初に出て来たのはサリーだ。
ビキニを見事に着こなしており、そのプロポーションをとても魅惑的に引き立たせていた。
会計の三人から「おおー‼︎」と歓声が上がる。
「どう、似合います?」
次に出て来たのはキンコさん。
普段はスーツ姿の彼女だが、サリーに負けないくらいのプロポーションの持ち主で、布面積多めの水着が大人な魅力を引き出していた。
会計の男三人から「おおー!」と歓声が上がる。
その後に、財務室の女性陣とメルツが現れて、会計の男共は「来てよかった」と幸福を噛み締めていた。
最後に魔王様とシロ、リーフが現れるのだが、
「待たせたな」
「ごめん、浮き輪膨らませてた」
「あんれ、どげんかしたとですか?」
男三人はスンとしており、「じゃあ行きましょうか」と何とも失礼な態度を取っていた。
因みに、魔王様はスクール水着に近い作りで、シロは単純に胸が無い。リーフは、諸事情により全身を覆う水着を着用している。
とりあえず、失礼な三人の頭を叩いて、「では行きましょう」と声を掛けて移動する。
荷物を置くと、私を除いた皆は流れるプールに飛び込む。
他にも大勢の客がいるが、流れるプールの幅は広く接触する恐れは無い。
「あれ? ロキさんは行かないんすか?」
「私は荷物番です。メルツも行って来てはどうですか?」
「いいんすか? でも……」
「大丈夫ですよ、サリーからビールも貰ってますし、一人で楽しむのに問題ありませんから」
「そうすか……後で代わりますっす!」
そう言いながら、メルツは魔王様を追ってプールに飛び込んだ。
全員いなくなったのを確認した私は、荷物に結界を張って取られないようにすると、パラソルとピーチチェアを取り出し、横になってビールを片手に店で購入したおつまみを楽しむ。
「ふふっ、これが私の至福の時間」
バスの中も良かったが、炎天下の中、パラソルの下で冷えたビールを飲むというのも、これまた最高である。
そんな私の至福で最高の時間だが、数人が接近して来たせいで邪魔されてしまう。
「ねえねえ、お兄さん一人?」
声の方に目を向けると、若い魔族の娘が二人立っていた。
「やばー、この人めっちゃかっこいいんだけど〜」
「一緒に遊ばない? 私達二人だけなんだよねー」
「遠慮しておきます。これでも、子供がいますので」
「えーうっそだー、いいじゃん遊ぼうよー」
「お兄さんタイプなんだよねー、私達と遊んだら良いことあるかもよ」
近付いて来る小娘達。
こういう経験は初めてではないので、軽くあしらう手段は心得ている。
私は立ち上がり、娘達に笑顔を向ける。すると娘達は頬を染めて、何か期待した眼差しになる。
そして、明確な拒絶を口にしようと口を開くと、浮き輪が飛んで来て私の頭に当たった。
誰だ? と流れるプールの方を見ると、魔王様とシロが半眼になってこちらを見つめていた。
「まおうぶっ⁉︎」
魔王様を呼ぼうとすると、水鉄砲が飛んで来て顔面に直撃する。
本来ならダメージにはならないのだが、魔法で強化した水鉄砲なせいで、顔がかなり痛い。
「一体なにっくっ⁉︎」
魔王様の水鉄砲を手でガードすると、次はシロの方からも飛んで来た。でもそっちは普通の水鉄砲なので、威力は無い。
「ちょっとあんた達なにキャ⁉︎」
「なに⁉︎ イタッ⁉︎ イタッ⁉︎ 水鉄砲痛いんですけどぉ⁉︎」
私から逸れた水鉄砲は、魔族の娘達に向かう。
威力は抑えているようだが、防御出来ない娘らではさぞ痛いだろう。
「痛いって⁉︎ あんたのパパ狙ったの謝るから許して!」
「子持ちかよ⁉︎ それなら先に言えよ‼︎」
先に言っている。
悲鳴を上げながら逃げ出す娘達。
可哀想な気もするが、まあ仕方ないだろう。
「あっスケコマシがこっち見た」
「魔王ちゃんヤバいよ、狙われてるよ」
「ひと聞きの悪いこと言わないでください」
魔王様とシロが悪ノリして言うものだから、周りの視線がキツくなった。
まったく、風評被害も甚だしい。
「どうせ、逆ナンされる為に荷物番に志願したんだろう」
「消去法で私だっただけです」
「言い訳が酷いぞ、無理があると思わないか?」
「無理ではないです。上司と部下を労うのなら、私がやるのが最適だったんですよ」
「怪しい」
「ちょっと厳しいよロキさん」
黙らっしゃい。
確かに、一人の時間を作る為に、あえて荷物番を志願した。しかし、それで文句を言われる筋合いはない。何故なら他の者達は、とても楽しんでいるからだ。メルツに至っては、代わるという言葉も忘れて会計室の者らと楽しんでいる始末だ。
誰かにとやかく言われる筋合いはない。
「とにかく、魔王様達は楽しんで来て下さい。私はここで見ていますので」
そう告げると、プールの中で息を吐き出してぶくぶくと鳴らし、不満気にする魔王様。
「駄目だ、一緒に来い。荷物番って言うけど、結界張ってるなら問題ないだろう?」
「それはそうですが……」
結界は張っていても、誰もいなくなると無防備に見えて、持って行こうとする愚か者が現れるだろう。
とはいえ。
「分かりました、私も行きましょう」
荷物番に私の幻影を置いておけばいいだろう。
私は上に羽織っていたパーカーと短パンを取り、その姿を皆に見せ付ける。
「なっ⁉︎ なぜブーメランパンツなのだ⁉︎」
「にゃ⁉︎ ヤバいよ⁉︎ ヤバい人がこっち来てるよ⁉︎」
「失礼な、私は単に自分の身体に自信があるだけです」
ボディメイクを意識して作り上げた肉体。
この肉体はある意味、私の作品だ。
TPOは弁えているので、普段さらすつもりはないが、こういう場所に出るならば開放してやるのも悪くはない。
現に、周囲の女性陣からの視線の熱が増しており、男性陣からも憧れの視線を向けられている。それだけ、この肉体が支持されている証でもある。
つまり、魔王様達の方がおかしいのだ。
「では参りましょう」
「ぎゃー⁉︎ 変態が来たー⁉︎」
「逃げろー‼︎ 魔王ちゃん逃げろー‼︎」
流れるプールを爆速で流れて行く魔王様達。
それをゆっくりと追う私。
私との追いかけっこは、プールの監視員から注意されるまで続いた。
その後は、ウォータースライダーに長蛇の列が出来ていたので、メルツが水で新たなウォータースライダーを作り出したり、リーフがプールの水を飲み始めたり、サリーとキンコさんが酔い潰れたりしたが、とてもリフレッシュした一日になった。




