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魔王さまは暇つぶしをご所望です‼︎  作者: ハマ


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15/24

15.プール

 マオファス遊園地。

 首都でも端の方に建設されているが、広い土地を利用した遊具が所狭しと設置されている。その中には、夏場限定で開放されるプールがあるのだが、侮ることなかれ。

 そのプールの広さもさることながら、夏場だけしか使えない遊泳設備が大量にあり、とても一日で遊べるような場所ではないのだ。


 男性陣(財務室と合わせて四人)は早々に着替え終わると、雑談しながら女性陣を待っていた。


「ですので、マオファスとマオテンを繋ぐ道を増設すれば、税収アップが見込めます」

「他にもマオイレとマオツーの国道の整備をしておかなければ、野良の魔獣が侵入してしまうかもしれません」

「下水設備の老朽化が目立ってきています。先日もマオスリーで地盤沈下が起こっており、他の地区でも同様の事故が起こる恐れがあります」


「承知しました。明日現地に赴き確認後検討いたします」


 財務の三人との会話は、とてもリフレッシュ出来るものではなかった。とはいえ、彼らの意見は魔王国運営の参考になるので、無視するわけにもいかない。


 彼らと真剣に話をしていると、女性陣が更衣室から続々と現れた。


「お待たせ」


 最初に出て来たのはサリーだ。

 ビキニを見事に着こなしており、そのプロポーションをとても魅惑的に引き立たせていた。


 会計の三人から「おおー‼︎」と歓声が上がる。


「どう、似合います?」


 次に出て来たのはキンコさん。

 普段はスーツ姿の彼女だが、サリーに負けないくらいのプロポーションの持ち主で、布面積多めの水着が大人な魅力を引き出していた。


 会計の男三人から「おおー!」と歓声が上がる。


 その後に、財務室の女性陣とメルツが現れて、会計の男共は「来てよかった」と幸福を噛み締めていた。


 最後に魔王様とシロ、リーフが現れるのだが、


「待たせたな」

「ごめん、浮き輪膨らませてた」

「あんれ、どげんかしたとですか?」


 男三人はスンとしており、「じゃあ行きましょうか」と何とも失礼な態度を取っていた。


 因みに、魔王様はスクール水着に近い作りで、シロは単純に胸が無い。リーフは、諸事情により全身を覆う水着を着用している。


 とりあえず、失礼な三人の頭を叩いて、「では行きましょう」と声を掛けて移動する。


 荷物を置くと、私を除いた皆は流れるプールに飛び込む。

 他にも大勢の客がいるが、流れるプールの幅は広く接触する恐れは無い。


「あれ? ロキさんは行かないんすか?」


「私は荷物番です。メルツも行って来てはどうですか?」


「いいんすか? でも……」


「大丈夫ですよ、サリーからビールも貰ってますし、一人で楽しむのに問題ありませんから」


「そうすか……後で代わりますっす!」


 そう言いながら、メルツは魔王様を追ってプールに飛び込んだ。


 全員いなくなったのを確認した私は、荷物に結界を張って取られないようにすると、パラソルとピーチチェアを取り出し、横になってビールを片手に店で購入したおつまみを楽しむ。


「ふふっ、これが私の至福の時間」


 バスの中も良かったが、炎天下の中、パラソルの下で冷えたビールを飲むというのも、これまた最高である。


 そんな私の至福で最高の時間だが、数人が接近して来たせいで邪魔されてしまう。


「ねえねえ、お兄さん一人?」


 声の方に目を向けると、若い魔族の娘が二人立っていた。


「やばー、この人めっちゃかっこいいんだけど〜」

「一緒に遊ばない? 私達二人だけなんだよねー」


「遠慮しておきます。これでも、子供がいますので」


「えーうっそだー、いいじゃん遊ぼうよー」

「お兄さんタイプなんだよねー、私達と遊んだら良いことあるかもよ」


 近付いて来る小娘達。

 こういう経験は初めてではないので、軽くあしらう手段は心得ている。

 私は立ち上がり、娘達に笑顔を向ける。すると娘達は頬を染めて、何か期待した眼差しになる。


 そして、明確な拒絶を口にしようと口を開くと、浮き輪が飛んで来て私の頭に当たった。


 誰だ? と流れるプールの方を見ると、魔王様とシロが半眼になってこちらを見つめていた。


「まおうぶっ⁉︎」


 魔王様を呼ぼうとすると、水鉄砲が飛んで来て顔面に直撃する。

 本来ならダメージにはならないのだが、魔法で強化した水鉄砲なせいで、顔がかなり痛い。


「一体なにっくっ⁉︎」


 魔王様の水鉄砲を手でガードすると、次はシロの方からも飛んで来た。でもそっちは普通の水鉄砲なので、威力は無い。


「ちょっとあんた達なにキャ⁉︎」

「なに⁉︎ イタッ⁉︎ イタッ⁉︎ 水鉄砲痛いんですけどぉ⁉︎」


 私から逸れた水鉄砲は、魔族の娘達に向かう。

 威力は抑えているようだが、防御出来ない娘らではさぞ痛いだろう。


「痛いって⁉︎ あんたのパパ狙ったの謝るから許して!」

「子持ちかよ⁉︎ それなら先に言えよ‼︎」


 先に言っている。

 悲鳴を上げながら逃げ出す娘達。

 可哀想な気もするが、まあ仕方ないだろう。


「あっスケコマシがこっち見た」


「魔王ちゃんヤバいよ、狙われてるよ」


「ひと聞きの悪いこと言わないでください」


 魔王様とシロが悪ノリして言うものだから、周りの視線がキツくなった。

 まったく、風評被害も甚だしい。


「どうせ、逆ナンされる為に荷物番に志願したんだろう」


「消去法で私だっただけです」


「言い訳が酷いぞ、無理があると思わないか?」


「無理ではないです。上司と部下を労うのなら、私がやるのが最適だったんですよ」


「怪しい」

「ちょっと厳しいよロキさん」


 黙らっしゃい。


 確かに、一人の時間を作る為に、あえて荷物番を志願した。しかし、それで文句を言われる筋合いはない。何故なら他の者達は、とても楽しんでいるからだ。メルツに至っては、代わるという言葉も忘れて会計室の者らと楽しんでいる始末だ。


 誰かにとやかく言われる筋合いはない。


「とにかく、魔王様達は楽しんで来て下さい。私はここで見ていますので」


 そう告げると、プールの中で息を吐き出してぶくぶくと鳴らし、不満気にする魔王様。


「駄目だ、一緒に来い。荷物番って言うけど、結界張ってるなら問題ないだろう?」


「それはそうですが……」


 結界は張っていても、誰もいなくなると無防備に見えて、持って行こうとする愚か者が現れるだろう。


 とはいえ。


「分かりました、私も行きましょう」


 荷物番に私の幻影を置いておけばいいだろう。


 私は上に羽織っていたパーカーと短パンを取り、その姿を皆に見せ付ける。


「なっ⁉︎ なぜブーメランパンツなのだ⁉︎」

「にゃ⁉︎ ヤバいよ⁉︎ ヤバい人がこっち来てるよ⁉︎」


「失礼な、私は単に自分の身体に自信があるだけです」


 ボディメイクを意識して作り上げた肉体。

 この肉体はある意味、私の作品だ。

 TPOは弁えているので、普段さらすつもりはないが、こういう場所に出るならば開放してやるのも悪くはない。

 現に、周囲の女性陣からの視線の熱が増しており、男性陣からも憧れの視線を向けられている。それだけ、この肉体が支持されている証でもある。


 つまり、魔王様達の方がおかしいのだ。


「では参りましょう」


「ぎゃー⁉︎ 変態が来たー⁉︎」

「逃げろー‼︎ 魔王ちゃん逃げろー‼︎」


 流れるプールを爆速で流れて行く魔王様達。

 それをゆっくりと追う私。


 私との追いかけっこは、プールの監視員から注意されるまで続いた。


 その後は、ウォータースライダーに長蛇の列が出来ていたので、メルツが水で新たなウォータースライダーを作り出したり、リーフがプールの水を飲み始めたり、サリーとキンコさんが酔い潰れたりしたが、とてもリフレッシュした一日になった。

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