11.鬼ヶ島
四天王のリーフはドライアドだ。
精霊の中でも特殊な種で、数は少なく、知恵ある者と積極的に関わりを持とうとする。
緑と共にありながら、緑を破壊する人や亜人、魔族に興味を持つという相反する特徴を持つ。
それがドライアドという精霊である。
リーフはそんなドライアドの中でも、特に強い力を持っていた。
最もたる例は、その場にいるだけで周りを緑で埋め尽くしてしまうということだろう。常に意識していなければ魔力を抑えられず、気を抜けば周りを一気に侵食してしまう。
「ごめんなさい、またやっちゃいました〜」
訛りの強い口調で謝罪するリーフを見ながら、魔法で緑を除去していく。
「構いません、いつも気を張っておくのは大変でしょう。この程度ならば、迷惑に入りません」
リーフが居眠りをしていると、魔王城の一室に緑が芽生えてしまったのだ。
居眠りを咎めるべきかも知れないが、つい先程まで休み返上で治安維持に駆り出されていたので、責めるべきではない。寧ろ、よく働いてくれたと褒めてやるべきだろう。
「とはいえ、力が増して来ていますね。力を抑えるアイテムを探しておきましょう」
「ええんですか⁉︎ ありがとうございます」
せめて休むときくらいは、力の制御を忘れさせてあげよう。魔王様の相手でも気を張っているだろうし、楽にさせてやりたい。
早速、財務室室長のキンコさんの元に向かう。
「国庫にあった《魔封の腕輪》は、おおよそ五百年前に紛失したと記されていますが……」
「……そうでした」
そうだ。当時の四天王の一人が、力を暴走させるタイプだったので、魔封の腕輪を渡したのだ。
引退した後も、彼の力を制御する目的で貸し与えていた。
「すっかり忘れてましたね」
使わないアイテムなので、そのままにしていたのだ。
じゃあ、別の物で代用を……、
「あら、どこにあるのか分かっているんですね? じゃあ、さっさと取って来て下さいこの野郎」
「……はい、今すぐに」
キンコさんの命令で、取りに行くことになった。
◯
五百年前の四天王の彼は、鬼族だった。
鬼族は魔王国でも端の方、海を隔てた鬼ヶ島を拠点にして生活している。
鬼族は強い。肉体強化と種族固有の鬼爆魔法を使い敵を圧倒する戦闘民族だ。
そんな鬼族が暮らす鬼ヶ島では、常に強さを求め戦いが繰り広げられており、老若男女関係なく強者に挑もうとする。
魔王国でも生粋の戦闘狂、それが鬼族である。
私が最後に訪れたのは二百年前。
住民の顔ぶれは変わっているだろうが、気性はきっとそのままだろう。
「はーい、こちら鬼ヶ島ツアーとなっております」
鬼族のガイドさんが旗を振り、観光客をフェリーに乗船させる。
のんびりとした雰囲気だが、これは何かの罠だろうか?
つい二百年前は、私の姿を見るなり襲って来たというのに、今では頭を使って戦うようになったのだろうか?
「もう間もなく鬼ヶ島に到着いたします。皆様の来場を歓迎して、島の者が催し物を準備しております。是非、甲板に出て島の方をご覧下さい」
催し物? なんだそれは?
他の乗客と共に、私も甲板に出る。
もちろん警戒は怠らない、以前も船を出た瞬間に襲われたことがあるから。
島の方で、凶悪な量の魔力が集まっている。
「まさか、遠距離攻撃⁉︎」
鬼族が⁉︎
俄には信じ難いが、あれだけの魔力が集まれば、この距離でも船を落とすのは可能だろう。
急いで防御結界を張ろうとして、その動きを止めた。
理由は、鬼ヶ島の魔力の向きが、真上を向いていたからだ。
一つの魔力の玉が上がる。
空高く上がった魔力玉は、空中で赤い色を放ちながら弾けた。
「おおーーっ‼︎」
観客から歓声が上がる。
「これは……鬼爆魔法を使った花火?」
まさかそんな、そう思い島の方を見ていると、次々と魔力玉が上がり花火のように弾けては消えて行く。
昼間だというのに、その花火はよく見えて、とても美しかった。
全ての花火が上がり終わると、乗客は自然と拍手を送る。
素晴らしい物が見れたと、感謝の思いを込めて拍手をする。
かくいう私も、拍手を送っていた。




