1.神経衰弱
「あー暇、人類滅ぼそっかなー」
そんな恐ろしいことを口にするのは、私達が支える魔王様だ。
魔王様は、椅子にダラけたように腰掛け、眠そうな目をして口をポカンと開けて、天井を見つめながら呟いていた。
とても覇気の無い姿だが、その力は本物で、人類を簡単に滅ぼすことが出来る。
「はっ。しかし、今度はまたどうして滅ぼすのです?」
魔王様が人類を滅ぼそうとしたのは、一度や二度ではない。気まぐれで、何度も滅ぼそうとしていたのだ。
「いや、だから暇だからな……」
魔王様にとって暇というのは、人類を滅ぼす上で最もポピュラーな理由だ。
退屈だから滅ぼす。
退屈だから暇つぶしに滅ぼす。
退屈だから、暇つぶしに人族を滅ぼす。
もう頭のネジが全部ぶっ飛んでるかのような理論だ。
「暇でしたら、私とカードゲームしませんか?」
「カードゲーム?」
「はい、トランプという玩具があるのですが、これを使って様々な遊びが出来るのです」
懐に忍ばせたトランプを取り出して、魔王様にお披露目する。
54枚のカードを空中に走らせて、掌に戻って来るように演出する。
これで掴みはバッチリだろう。
「なんと⁉︎ それは面白いのか?」
「面白いかはそれぞれ感想は異なりますが、私めはとても面白かったです」
「ほう、ロキが言うのであれば間違いなかろう! 早速遊ぶぞ!」
魔王様は椅子から飛び起きると、小さな体で向かって来る。
魔王様の姿は、人類でいうところの十歳くらいの少女。カチューシャでツノを装備しており、普通の人でないと分かるのだが、見た目は完全にお子様である。
しかし、秘めた力は本物であり世界で最も強い。
しかも変身を三回もすることが出来て、ダメージリセットも変身の度に行われている。
私の知る限り、勇者相手に三度目の変身をしたことは無い。
その前に決着が付いてしまうのだ。
それだけ魔王様は強い。
「して、何をして遊ぶのだ⁉︎」
「では、神経衰弱をいたしましょう」
「しんけいすいじゃく? それはどういう遊びなのだ⁉︎」
私は神経衰弱に付いて説明をする。
トランプをシャッフル、裏面にしてテーブルの上に並べる。同じ数字を二枚引き当て、最後に多くのトランプを持っていた方が勝利である。
違う数字を引き当てたら相手に順番が回り、当てたら続行という簡単なルールだ。
「では我から行くぞ!」
「どうぞ」
魔王様がトランプを二枚ひっくり返す。
1と8でハズレである。
その二枚を手元にやって、次を裏返そうとする。
「……魔王様」
「なっなんだ⁉︎ 別にズルしてないぞ!」
「カードをお戻し下さい。ゲームはルールを守ってこそ面白いのです。イカサマは、ゲームを台無しにする不正行為。決してやってはなりません」
「むぅ……。悪かった、少しムキになってしまった」
魔王様はカードを戻して、再び別のカードをひっくり返す。
「魔王様……」
「なっ、なんだ⁉︎ 別にズルしてないだろ⁉︎」
「次は私の番です」
「おっ、おお〜そうか、それは悪かったな」
こいつ確信犯だな。
そう思いつつも、一枚目のトランプをひっくり返す。
すると8が出た。
さっきあそこにあったなと手を伸ばすと、魔王様の顔が映った。
その顔はハワハワしており、あーあーと何か言いたそうにしていた。
なんだかおかしくなって、つい間違って隣のカードをひっくり返してしまった。それは3で、ハズレだった。
「馬鹿めロキ! 8はここだー‼︎」
当たりを引いて嬉しそうだ。
続いて引いたのはハズレだったが、一組取れて満足そうだった。
この後、二組ほど魔王様の手元に行き、残りは私が獲得した。
「ぬわーーーっ⁉︎⁉︎ もう一回もう一回! 次は負けん!」
負けず嫌いの魔王様は、何度も挑んで来た。
その度に、完膚なきまでにカードを奪い取り勝利する。
だが、そろそろ夕食の時間になったので、わざと負けて終了にする。
「はっはっはー‼︎ どうだ! 我の力を思い知ったかー‼︎」
「ええ、流石は魔王様です。おみそれいたしました」
高笑いをしつつ「そうだろうそうだろう」と勝ち誇る魔王様。
そんな魔王様のお腹がグゥ〜と鳴り、「夕食にいたしましょう」と進言して本日を終える。
「なあロキ、明日も遊ぼうな!」
楽しそうに笑う魔王様を見て、当分は人類の滅亡は無さそうだと確信した。




