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第九話 女の嘘は許すのが男だ

お金が無くなってしまった


「キャロットさん

また金が無くなってしまった…

Eランク任務ある?」

折角の美人さんとの会話なのに

毎日同じことしか聞けていない


「あら、王女から大金貰ったって聞きましたけど

もう使い切っちゃったのですか?

博史さんって意外と破天荒なのですね」

うふふとキャロットさんが可愛く笑う

手で口元を隠す仕草にドキッとする

お姉さんの手は細く長く

でも男の俺とは違って小さく

掌は若干の湿度を帯びているようだ

骨ばっていない手は柔らかそうに見える


手はひんやり冷たいのだろうか

握ってみたい衝動に狩られる

女性の手に振れたことがないから分からんが


「お、おねぇさんのその顔に俺のBi…」

ドォンとまたマリーの魔法?の腕がキリヤを床へと沈めた。

「ビ…?」


「ああ…キャロットさん

何でも無いんです

それで任務は?」

マリリンに吹き飛ばされるキリヤを見て、我に返る


「教皇の護衛任務です」


「嫌よ、マリリン帰る」

マリーはそう言うと、扉をバンッと開けて帰って行ってしまった


「教皇の護衛って絶対Eランクじゃないでしょ…」

キリヤと二人になってしまった

キリヤが強いのは知っているが

教皇の護衛なんて、二人では不安だ


「ランク指定はなく

教会の祭司さんが是非博史さんたちに、やって欲しいと指名してまして

護衛とは名ばかりで、教会が人手不足だから、雑務をやって欲しいみたいです」

教皇にとって俺らの印象は決して良くないはず

それなのにわざわざ指名して来るなんて、絶対に裏がある


「祭司って言うと、あのタヌキと一緒にいた真面目そうな人か」

キリヤが本人の前でも同じことを言わないか、本気で不安になる。


「なぁキリヤなんか嫌な予感がするんだが…」


「何言ってんだ博史

相変わらずだな

あ、お姉さんこの任務受けます」


「おい!」


「大丈夫だって

あの教皇ぐらいだったら、目を瞑っていても勝てるからな」

あながち自信過剰って訳でもなさそうだが

しかし、俺は今マジで金がない

このタガ―を売って金を作りたいが売れない

この任務を受けるしかないのか



渋々教会に行くと、祭司が丁寧に出迎えてくれた

「お待ちしておりました、博史さん

本日はよろしくお願いします」

祭司は40代後半といったところか

白髪交じりの髪に、目の下には深いクマがある

綺麗に身なりは整えられているものの、疲れ果てた様子であった


「祭司さん、よろしくお願いします」


「なんだーまた『貴方に信仰心はありますか』なんて

くどくど説かれるのかと思ったぜ」

キリヤが天を仰ぎながら煽るように言う。


前世でも駅前、最悪自宅まで宗教の勧誘があったので

道中歩いていて声をかけられても、特別な感情は無かったけど

ウザいと思う人も多いだろう


とはいえ、自分の信仰をバカにされるのは頭に来るはずだ

特に祭司のような上役は、信仰心が強くなければ出来ないはず

信仰心が強ければ強いほど怒りも強くなる

不安がいきなり的中したと思っていると


「私も街中で勧誘活動をするのは、どうかと思っていたんです」

意外にも大人な対応をしてくれた


「だろー、止めさせてくれよ」

「申し訳ないのですが、勧誘活動は報酬も無い個人の活動であって

教会の祭司といえども

迷惑にならない程度に控えてください、位にしか言えないんですよ」

当たり障りのない返し


「そっかー、祭司も大変なんだな」


「ええ、ですので今回依頼を出させて頂いたのです」



任務内容は単調な雑務だった


図書庫の掃除、整頓

教会内の掃除

書類の整理

共用の部屋以外には入ってはいけないとの事なので

廊下が中心の掃除場所


単調だし、掃除の必要などあるのかという位綺麗になっていた


今までの中で一番簡単な任務だった

教皇の護衛って名目だが一度も会わず終わった

ただの雑用って言ってもいいのかってレベルだ

特別教皇になど会いたくも無かったので良かったが


「ありがとうございました」

と報酬を手渡され

中身を確認すると4万モンも入っていた

普段のEランクの10倍

流石に割が良すぎて不安になる


「大した事してないのに、こんなに貰って良いんですか?」


「ええ、今日はとても助かりましたから」


「博史、良いって言ってんだから

ありがたく貰って飲みに行こうぜ」



―――――――――――――――――――――――――――――



気が付いたら朝、いつもの酒場

ブランが隣に居てもたれかかってスヤスヤ寝ていた


ブラン…

俺の装備を全部かっさらっていったのに

なぜか怒りや憎しみではなく

愛しさ?憐れみ?のような不思議な感情が湧いていた


「おう、博史起きたか

昨日のこと覚えてねぇんだろ

ブランのおとだがな…俺が言うのも何だが

許してやってくんねぇか?」

キリヤが珍しく人のことを気遣っている

余程のことがあったのだろうか…


「ブランのこと別に怒って無いよ

昨日のこと覚えてないが

何があったんだ?」



―――――――――――――――――――――――――――――――――

【昨夜の回想】


また、例のごとく俺らはいつもの酒場で飲んでいた

マリーと勤務終りのフローレンと飲み会から合流していた


博史「よっフローレンが刺す♥」

一同「刺す♥」

キリヤ「飲む♥」

一同「飲む♥」

「もっと酒を持ってこーい!」


「おお!獣族のねぇちゃん

衛兵ってお堅い仕事なのにいい飲みっぷりじゃなぇか」


「フローレンあんま無理しないでね」

「なんだマリリン私がこんなで潰れると思っているのか」

「あら、この間マリリンに飲み比べで負けていたから心配してあげたのに」

「ヴヴヴヴヴ勝負だマリリン」

「望むところよ」



いつものコールで宴会が盛り上がる中、博史が急に叫んだ。

「おかしぃいいい!」


「なんっだ、博史急に…」


「キリヤぁおかしいと思わなかったか

広いわりに人が少ない教会本部

空き部屋だらけ

子供の手形」


「子供の手形なんてあったか?

教会に居た子供じゃねぇのか?」


「いや違う!

あの教皇が自分の子なら表舞台に出さない訳が無い

こう言うところの教会っていうのは

必ず裏で悪いことをしているんだ

教会の闇を暴くぞ!」


「あら、良いわね面白そう、乗った

フロちゃんも行くわよね」

と珍しくマリーが乗り気に

酔ってマリーにゴロゴロニャンしているフローレン


悪ノリのボリスも「おっしゃ、いこうぜー!」と乗ってきた

またも大所帯で、教会へと向かった。



教会に着くと

まさに夜襲を受けてるところだった


「ほら言ったことか!

ここまで執拗に狙われているのは

裏で悪いことをしてるからだ!

義賊に加勢するぞ!!」


「うおおおお!」

前回は教皇に加勢して

今回は義賊に加勢する

酔っ払っている俺らには矛盾を唱えるもの等誰一人いなかった


フローレンが突き刺し

エリリンは敵味方関係なく

己の欲求でヒールをかけている。

このような場で致命傷を負うものが一人も居なかった


というより教皇側の兵の数が明らかに少ない


義賊と共に進んでいくと

教皇の間にまでたどり着いた


そこではブランが教皇の頭に銃口を当てていた

「ひ、博史…」

ブランはこっちを見ると一瞬躊躇ったような顔をしたが

直ぐに教皇の頭に銃を押し付けた


「ブラン…」


「こ、殺さないでくれぽ…

そ、そこの獣族の女、王女の護衛だろう

早くワシを助けるんだぽ」


「お前嫌い、刺す♥」

フローレンは酒と欲求で理性が保てず

今にも教皇を突きそうな姿勢を取る


「ひっ」

フローレンの迫力に教皇がたじろぐ


博史がフローレンを止め

「ブラン…説明してくれないか」


「すまない…弟が病気っていうのは嘘だ」

ブランは申し訳なさそうに謝った


「やっぱり嘘だったのか?

盗賊だから狡い真似しやがって」

周囲に居た酒場の連中が罵声を浴びせる


「その話をしてるんじゃない

何でこんなことをしているのか?だ

まあ、大方教皇がお前の弟でも誘拐したんだろうがな」


博史がそう言うと、ブランはびっくりした顔をして

「な、なぜそれを!?

いや、博史に隠し事は出来ないな…

そうだ、お前の言う通り、10年前、弟は教皇に誘拐された」


「ち、大きくは違わないが、

これには訳があるんだぽ」

教皇は命乞いをするように

必死で博史に語り掛ける


「ほう、どんな訳だ?

言ってみろ?」

ブラン引き金に手をかける


「い、こんな面前で言えるわけないだろう」


「じゃあ死ぬか」

ブランが引き金を引きかける


「分かってる

一夫一妻制にして子供も減らし

他から子供を誘拐して売ることで

利益を得ているのだろう」

博史がそう言うとブランの引き金を引く指が止まる


「き、貴様何者だぽ?」


「弟を売ったのか?」

ブランは教皇に怒りの表情をぶつけ今にも引き金を引きそうになる


「いや、これも真実だけどブランは違うな

若い子がこれだけ大きな盗賊の頭ってものおかしい

教会とブランの家は、裏で繋がってるんだな」

博史の言葉に、教皇だけでなく

ブランも目を見開いた


その時、奥の通路から一人の少年がてくてくと歩いてきた

「あ、お姉ちゃん

久しぶりどうしたの?」


「マルコ!

良かった…無事だったのね

さあ帰るわよ」

ブランは今まで見たことがない

今にも泣きそうな表情を浮かべた


「なんで

僕は帰らないよ」

歩み寄ってきた足を止め一歩下がる


「え…なんで?」

一気にブランの表情が曇る


「ここにいれば美味しいご飯も女の子もいる」

ブランの顔が絶望へと変わる


「分かっただろう?

わしの言ってることは真実ぽ

本来はブランとだけ話すつもりが

ここにいる奴らも口外しなければ

今すぐ立ち去れば許してやるぽ

ブラン、今後とも良い関係を築こうぽ」


キリヤですら言葉が出なかった

何が起こっているのか分からなかった


ブランは魂の抜けたような、抜け殻みたいになり

取り巻きの人達に支えられないと、歩けない状態だった


「はぁ…

黙って見過ごすつもりだったけど

見てられないわね」

マリーが一歩出る


「な、なんだ今度は?

もう良いだろう、今回の急襲も許してやったのにぽ」


「私は愛称マリリン

マリー・イムス」


「な、なんだと?

貴様、その名を語るのは万刑に値するぞ!!」


「ここはマリリンが受け持つわ

君たちは帰ってなさい」


「大丈夫か?」


「ええ、大丈夫よ

マリリンよりブランの事を」


「ブラン、帰って飲もう

愚痴…聞くからさ」


博史がブランの肩を抱き

俺たちは酒場へ戻った。




初めは、皆がお通夜のような状態

誰も何も話すことが無く

ただ酒を飲んでいた


「あたい何も無くなっちゃった

もう生きる意味ない

ごめんね博史、博史の防具ももうないんだ」

今までの事を洗いざらいに話し出した

弟を救い出すため、強い人を仲間にするため、関係を迫ったこと

そのための金を得るため、高い装備を酔わせてゲットしたこと


クリスをさらったのも

教皇を襲撃したのもそのためだと


博史は黙って優しい顔で頷く


「あたい、もう死のうかな」

ブランがそう言うと博史がすっとタガ―を取り出した

ブランがそのタガ―を手に取り自分の喉に突き刺す


周りの見ていた人たちは

まさか本当にやるとは思っていなかったく

止めるのに出遅れ悲鳴をあげる


しかし首を切ったはずのタガ―がブランの皮膚で止まった


ブランがゴホゴホとせき込む

死んだはずが血が出ず痛みだけが残り

何が起こったか分からず

ハッと周りを見渡す


「博史、お前が止めたのか?」

マリーを呼び戻しに行くためだろう

飲み屋の出入口に走ったキリヤも驚いた様子で問いかける


博史は首を横に振りブランの方を向く

「ブラン、どう?

案外、死ぬのって簡単であっけないだろう」


「ゴホっ…お前に何が分かる?」


「ブランの苦しみは分からない

俺なんかが想像を絶するものなのだろう

でも、死ぬ感覚は分かる

俺も死んで転生してこの世界に来たんだからな

自分がどう死んだかもわからない

あっけなくってあっという間さ

今のブランの痛みよりあっけないさ」


「ゴホっ…何が言いたい…?」


「ブーランジェリーは今、自分で首を切って死んだんだよ

そして全て捨てて生まれ変わった

一度死んだことがある身からすれば、この程度の事さ

それでも本当に死にたいんだったら、キリヤの切れる刀を渡すけど」


「おい、博史、俺は渡さねぇからな」


「いや、いい

死ぬのはあっけないか…

なんか馬鹿らしくなった」


「うん、ブランの笑顔

下着と同じで可愛いね」


「博史、最低だな

でも、まああたしも楽しく生きてみることにするよ」

そう言うとブランの垢が落ちたように笑う

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筆者が泣いて喜びます。


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