第八十四話 意図せず婚約させられたのでいつか酒で流します
玉座の間には、焦げた匂いと、長い沈黙が漂っていた。
高い天井から差し込む光は鈍く、
崩れかけた柱の影が、戦の爪痕を物語っている。
博史は膝をつき、静かに頭を下げた。
その前で、王が玉座にもたれかかるように座っていた。
かつてのふざけた威厳は影を潜め、
疲れ切った眼差しだけが、彼の歳月を物語っていた。
「……終わったのだな、勇者博史よ
私の目には狂いが無かった」
かすれた声が、広間に響いた。
王はわずかに目を伏せた。
「……あの子は、愚かではあったが、私の息子に変わりはない。
……」
言葉が途切れる。
手にした王笏がわずかに震えた。
「民は、無事なのか?」
「はい。破滅の光は消えました。
建物の損傷は軽微。……奇跡的に、誰も死んでいません」
王はしばし沈黙し、それから深く息を吐いた。
「……不幸中の幸いか」
俺は王に言わなくてはいけないことがある。
魔王討伐後に言うか、酒で記憶が曖昧に許してもらうかと思っていたのだが
魔王討伐が出来るなんて確証はない。
酒も記憶にないと言われたら今度こそおしまいだ。
言うなら、今しかない
「ところで、決して盗んだ訳じゃないんですが、この首飾り…」
この場でしか許しは得ないだろうと思い
ロマネンドを去る際、思いがけず持って行ってしまい
ヴラドと戦ったときに意図せず使ってしまった首飾りを取り出した
「なぁああにぃいい!!
し、しかも、これ、博史、お、お主つかったなぁあああ」
王は今までの元気が無かったのが嘘かのように
カメレオンのように目を見開いて驚愕した
この場で首をはねられるのかと思い咄嗟に身構える
王ははぁはぁと息を切らすと
何か良い考えでも思いついたかのように
冷静になり、静かに座った。
「…博史よ、お主にはクリスを助けるように頼もうと思っていたが
お主がクリスを助けることが責務になった」
「…?」
王が前に進み出ると、侍従が一枚の古い巻物を広げ、そこに刻まれた古い文言を読み上げた。
古文体の断片が、静寂を引き裂く。
「『王女は勇者にこの首飾りを与え、王家は相応の責を負い、
且つ被婚約者もまた、王家に対し義を負う
——さすればこの首飾りの愛は死をも超越する』とある。
――順序は逆になってしまったが、お主は我が息子だ」
「ち、ちょっと待ってください…!
クリスは飲み友なんで助けるのは当たり前なのですが…
結婚や息子だなんて…」
俺には俺の父と母が居る。
特別仲良かった記憶は無いが、死んで初めて
育ててくれたこと自体が有難い事なんだと知った父と母が
「同じ趣味を持つのなら尚良いではないか」
王は博史の言葉を遮り微笑んだ。
その笑みは完全に父であった。
「……お前こそが真の勇者だ。
私はそれを見届けられただけで、もう悔いはない
頼んだぞ、我が息子よ」
こっちの事情も関係なしに
半ば強引に決められてしまった
王の顔は以前のような活気に満ち溢れていた
それこそ、息子と女湯を除きに行くような顔だ
クリスを助けるのは元から決めていた。
まあ、数回飲んだ仲で結婚なんてクリスがOKをするはずもないし
助けてからクリスと一緒に王を説得すればよいか
なにより、あんなに元気が無かった王がここまで元気になったのだから
また元気をなくすようなことを言うのもなんだろう…
「そのことについては、クリスと帰ってきてから
酒でも飲みながら話をしましょう」
そう言い、王の間をあとにした。
俺は王の挨拶を終えると仲間の元へは帰らず
ギルドに向かった
「…キャロットさん…あの…」
彼女とは出発前に飲み屋で別れたきりだ…
彼女は俺を見てくれていた。
受付にいた彼女は、俺の顔を見ると
少しだけ寂しそうに、しかし誇らしげに微笑んだ。
「英雄様のおなりですね、博史さん」
「俺は、ただの酒飲みです」
「ふふっ、存じております。
…いつでも、お待ちしておりますから。
あなたの帰る場所は、ここにありますからね」
その言葉に、俺の胸が、じんわりと温かくなった。
思えば俺の心の支えは何回擦ったか分からない
あのお姉さんの残像であった。
「すみません、感傷に浸ってしまいました。
二階でギルドマスターがお待ちです。
付いて来て下さい」
そう言うと中へ案内し二階へ上がる階段
先導しているキャロットさんのお尻が目の前に現れた
一歩踏み出すごとにタイトなスカートからのラインが浮き出る
スカートの締め付けとズボンの締め付けの差
確かにスカートだけだとお尻のラインが分かって色っぽいはずだ
でもパンツはそこに尻肉の締め付けというスパイスを与えてくれる
ズボンまっ白ではない
でも目を凝らせば色が分かりそうな
そんなことを考えていたら
時空が歪んだのだろうか
瞬間――
博史の足元に、淡い光が走った。
「……っ!?」
お姉さんが顔を上げるより早く、
光は幾何学の紋様となって広がり、
博史の身体を包み込んだ。
「な、なんだ、なにがおこったんだ…?」
博史の視界が白く染まり、
お姉さんもお姉さんのパンティラインも、遠ざかっていく。
「パンティィィ――!」
その声は届かない。
次の瞬間、光は弾け、世界が反転した。
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