第七十五話 雷光
戴冠式の当日。
幾千もの旗が風に翻り、
香水と焼き菓子の匂いが入り混じる。
金糸で縫われた旗には新しい紋章――
第一王子と教皇が並び立つ姿が描かれていた。
楽団が高らかに奏でる。
一部民衆は歓声を上げ、王国の「新たな夜明け」を信じて疑わなかった。
そして多くの民衆が窓際のカーテンの隙間から事の成り行きを見守っていた。
俺たちはその群衆の中に紛れ、それぞれが配置についていた。
リザリーが情報を整理しながら耳に囁く。
「……警備は “転生者”と反王国の冒険者だけです」
「他には居ないのか
転生者なら見えてる。中央の式台だな」
視線の先、絢爛な王冠と金の装飾が光を反射していた。
第一王子の隣には、教皇。
そのさらに隣に――場違いなまでに華美な服を着た“転生者パーティ”が立っていた。
「ねぇー見て見て、この服、いくらすると思う?」
派手な金髪の女弓使い美似意が、ひらひらと裾を翻す。
「す、すごい高そうだね……」
控えめな少女――魔法使いメイが、おずおずと返す。
「また、男に買わせたのか?」
筋骨隆々の戦士が呆れたように言う。
「私から“買って”なんて言ってないよ?」
弓使い、美似意はにやりと笑う。
「ご飯を一緒にしただけで、勝手にプレゼントしてくれたんだもん。
“君の瞳は宝石みたいだ”って言われちゃった♪」
「……そりゃ、その先も求められてるだろうな」
戦士が苦笑し、
「そんなことないよー。すっごく紳士的な人だったもん!」
「そ、そうなんだ……すごいね、羨ましい」
が小さく呟くと
勇者、理人はすかさず笑顔で言った。
「だめだよ、羨ましいなら行動あるのみ!
スピさん、いや、スピルバーグさんも言ってたでしょ?
“夢を見ろ、動かなきゃ始まらない”って!」
「う、うん……そうだね」
「気にしちゃダメだよ。
いろんな人がいるんだから」
魔法使いが笑いながら髪を整えるその姿を見て、
美似意は心の中で小さく吐き捨てた。
(……ったく。なんで私が“地味な弓使い”で、
あんな女が“花形の魔法使い”なのよ。
普通、逆でしょ……)
その嫉妬の熱は、笑顔の奥でじりじりと燃えていた。
広場のざわめきがさらに大きくなる。
王子が立ち上がり、群衆に手を広げた。
「民よ――今日、我らの国は新たな時代へと歩み出す!」
歓声が沸き起こる。
教皇が祈りの言葉を唱え、転生者たちは誇らしげに胸を張る。
だが、俺の胸の中には別の感情が渦巻いていた。
その華やかさの裏に、血の匂いがした。
やがて、第一王子が立ち上がり、高らかに宣言する。
「これより、我が戴冠式を執り行う! そして、この国を悪しき魔王(の脅威)から救いし、真の勇者『雷光』に、王家代々の栄誉を授ける!」
その言葉に、民衆から割れんばかりの歓声が上がる。
その時だった。
「―――その戴冠式、ちと待ってもらおうか」
どこからともなく響いた声に、会場がざわめく。
声の主は、いつの間にか式台の真下に立っていた、キリヤだった。
「おい、何あいつは勝手に動いているんだ…」
「作戦と全然違うだろう」
シューティングスターの面々も動揺する
「何者だ、貴様!」
王子配下の兵士たちが、一斉にキリヤに槍を向ける。
「…君たちが、シューティングスターだね」
勇者、理人が、兵士たちを手で制し、面白そうにキリヤを見下ろした。
「戴冠式をぶっ壊されちゃ、僕たちも構わない。
折角だから、余興と行こうじゃないか。
アリさん、アリストテレスさんは言った「人間は社会的な動物である。」
僕たち勇者が、君たち英雄に、力の差というものを見せつけてあげるよ」
「おい、待て!」
俺が、人混みをかき分けて前に出ようとする。
「遊びじゃねぇんだぞ!」
「君が同じ転生者の博史さんですね。
大丈夫ですよ」
勇者、理人は、俺を一瞥すると、自信満々に言った。
「君は僕の力を疑っているのかい?」
彼は、右手を天に掲げた。
すると、その手の中に、眩い光が集まり、一振りの美しい剣を形作った。
「ああ、この神から授かった神剣と、この技…『ジャスティス・セイバー』! これこそが、僕が勇者である証さ!」
光り輝く剣と、それっぽい技名。その演出に、民衆は再び熱狂する。
「…そのスキルって…」
キリヤが、自分の剣をまじまじと見つめながら、呟いた。
「俺様の『ジャスティス・ブレイド』と似てやがるな…。
ってことは、俺様も勇者ってことか?」
キリヤは、何かを閃いたかのように、ニヤリと笑うと、観客席にいる一番可愛い女の子を指さした。
「よーし! そこの姉ちゃん! この勇者である俺様が、君の隅から隅まで、べろべろさせてくれぇ!
見てろぉ『ジャスティス・ブレイド』」
手の中に、眩い光が集まり、一振りの美しい剣を形作った。
その下品極まりない言葉に、会場が、一瞬、静まり返った。
そして皆が思った、
こいつにだけは勇者を名乗らしてはいけないと
「―――絶対勇者はそんなこと言わない!!」
叫んだのは、勇者、理人だった。
彼のキラキラした笑顔は消え、顔を真っ赤にして、
心底軽蔑した目でキリヤを睨みつけている。
勇者、理人は、顔を真っ赤にして叫んだ後、
ふぅ、と一つ息をついて、冷静さを取り戻した。
彼は、キラキラした営業スマイルを、再びその顔に貼り付けた。
「…まあ、いいだろう。君たちの覚悟は分かった。
だが、ここで戦うのは、お互いにとってメリットがない」
彼は、まるでプレゼンテーションでも始めるかのように、人差し指を立てて語り始めた。
「いいかい? ここで僕たちが君たちを圧倒すれば、民衆は『一方的な虐殺だ』と恐怖を抱くかもしれない。
渋さん、あ、渋沢栄一さんは言った
「人は信用を資本とする。人との信頼なくして事業も人生も成り立たない。」」
「…何が言いたい」
「つまり、場所を変えようということさ。
それぞれのキャラクターが、最も輝けるステージで戦う。
その方が、観客(民衆)にとっても、僕たちにとっても、Win-Winだと思わないかい?」
彼は、そう言うと、パチンと指を鳴らした。
すると、広場に設置された巨大な魔道具のスクリーンに、王都の各地の映像が映し出される。
「本当は僕と同じようなスキルを持つ君と相手をしたいんだけど……」
男は、余裕たっぷりに髪を払う。
「生憎、君はリーダーじゃなくて彼がリーダーのようだね。
だから僕は――彼と戦うことにしよう」
その瞬間、広場にどよめきが走った。
彼の指先が“博史”を指している。
「君は…そうだな、メイさん、相手して下さい」
「え、わ、私…?」
魔法使いのメイは驚き、声が裏返った。
彼女の髪が緊張で揺れる。
「はい、君の魔法なら簡単に勝てるでしょう」
「え、でも…」
彼の口調は甘いが、どこまでも残酷だった。
命を賭けた戦いを、“余興”として扱っている。
「ちっ、そう言う事なら、相棒、奴は譲ってやるぜ」
キリヤはニヤッとした目つきをする。
「待ちなさい、キリヤ一人だと危険だから私も行くわ」
「はぁ?フローレン、俺様が負けるとでも思っているのか?」
「あたしは、博史が心配だからそっちについていくわ」
ブランの声にはわずかな震えがあった。
それを察した博史が、静かに頷く。
その時、後方から低く落ち着いた声が響いた。
「彼とやらせてくれないかしら」
振り返ると、水月がゆっくりと歩み出ていた。
漆黒の髪が揺れ、瞳は冷たく冴えている。
「珍しいな水月、自分からそんなこと言うなんて」
「前世で彼とは試合が組まれていたの
――そして私を殺した男よ」
一瞬、場の空気が凍る。
「水月を殺せる男だって…!?そんなに強いのか」
「正確には近代兵器を使った殺し屋に殺されたんだけどね
こいつの家が財閥で八百長を持ちかけられたんだけど断ったわ
試合で殺されると思い、数十人の殺し屋に殺された」
「数十人って…映画の世界かよ
てか、なんでこいつも死んでんだ?」
水月はうっすら笑った。
「呪いで道連れにしたからね」
現代社会で呪い殺すって…それこそファンタジーだろ…
「み、水月ぃ!!」
戦士の男が雄叫びのように叫ぶ
「なに?怖じけずいたの?」
「馬鹿にすんじゃねぇええ!
前世じゃ勝てないと思っていたが、今の俺にはスキルがある」
その瞬間、空気が一気に張りつめる。
風が止まり、周囲のざわめきが遠ざかる。
まるで広場全体が、この対峙のために息を潜めたかのようだった。
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