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「酒乱」スキルで異世界生活!? 記憶をなくしたら勇者になってました  作者: あいだのも
第八章 転生者による反乱のロマネンド

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第七十二話 強くなるのと身体を鍛えるのは別


俺の心は、まだアメリコのあの夜から抜け出せずにいた。

酒を飲めば記憶を無くし強くなる


しかし、酒が無くては誰も守れない

そもそも、記憶を無くしている間は本当に『俺』なんだろうか…


酒に頼らずとも大切な人を守れるくらいの力が欲しい


ある夜、焚き火の前で、俺は、柄にもなくキリヤに頭を下げた。

「…キリヤ、頼む。俺に、戦い方を教えてくれ」


「はぁ?」

キリヤは、驚いて目を見開く。

「お前、ここまでの敵を殆ど瞬殺しているだろう

最強じゃねぇか。今更、何を…」


俺は、叫んでいた。

「あの力は、俺の力じゃねぇ。ただの暴走だ。俺は、俺自身の力で、シラフのままで、二度と仲間を失わないくらい、強くなりたいんだ!」


「俺様がお前に教えれる事なんて何もねぇよ

そんなことより飲もうぜ相棒!」





その夜

用を足しに一人でトイレに行ったとき、暗闇から、一つの影が音もなく現れた。

水月だった。彼女の息は珍しく乱れていた。


マリーからの事前情報が無ければ、水月は鍛錬の後だと勘違いしてしまうだろう。

ある意味鍛錬なのだろうが

今はそのことじゃない…


「み、水月…俺を弟子にしてくれ!」


「…強くなりたいのか?」

水月の、氷のような瞳が、俺の心の奥底まで見透かすように射抜く。


「…腕立てだろうと、素振りだろうと、いくらでもやってやる」


「…漫画の読みすぎだ」

水月は、ふっと鼻で笑った。

「求めているのは、筋肉ではない。『倒す』ための、技術だろう」

彼女は、俺の前に立つと、静かに、しかし有無を言わせぬ響きで言った。


「ど、どうすれば大切なひとを守れる?」


「私は大切な人の守り方は分からない

脅威や敵意を跳ね除ける事がそれにつながるのなら

私は教えれる」


「お、教えてください!」



特訓は意外なものだった。

それは、俺が想像していたような、根性論の筋肉トレーニングとは全く違っていた。


「まず、思考をしてから、止める」


「はぁ?」


「相手が何をしたいのか感じ取って、それに対して反射で動けるようにするのよ」

水月が指さす方に小さなトカゲがいる


「捕まえろってことか、よーし」

スキルでトカゲの死角から回り込み

とびかかるもトカゲはするするっと岩の下へ行ってしまった


「駄目ね」

そう言うと水月は足元に居たバッタの羽と足を折り

別のトカゲの視界に放り投げた

水月は獲物に夢中になっているトカゲを簡単に捕まえた


「これが気…

気を逸らすって事よ」


「な、なんか卑怯じゃないのか?」


「他の人がどう言おうと勝手だけど

卑怯というのは弱者の言い訳よ

使えるものはすべて使わなくてはいけない

身体が強い事と倒す事は=じゃないのよ」

水月は、一切の武器を持たず、ただ俺の前に立つ。

「これから、いつでもいいから私に触れなさい

それで合格よ」


「触れるって…俺の力じゃあ倒せないよ…」


「刃物を持てば、急所はさらに増える。

だが、素手でも、人の体には、触れるだけで死に至る急所が、これだけある」


彼女は、俺の体の、首筋、脇の下、鳩尾、内腿…様々な場所を、指先で軽く、しかし的確に突いていく。

そのたびに、全身に電気が走るような、鋭い痛みが突き抜ける。


「強く突く必要なんてない

触れるだけ、これが、『倒す』だ。」


「う、ぐぐ…

軽くって…水月、闘技場の時もそうだけど、軽くが軽くないじゃないのか…」


「いや、今回は『軽く』よ」

水月が俺の腕をつん、と指先で突くと

急所を突かれたような全身にに電気が走るような

鋭い痛みが突き抜けた


「細く、鋭く、通す

鍛錬を重ねればどこでも急所に出来る」


俺は立ちあがろうとして水月の腕に触れようとした

水月はそれを相手にもしない

「そう、あなたのやりたいことの筋は間違っていない」


それからの彼女の動きは、まるで幽霊のようだった。

音もなく、予備動作もなく、滑るように移動する。

俺は、その動きを必死に目で追うが、全くついていけない。


ついていけない…

だから考える…


こうして見て見るとやっぱり水月の動きは凄い

無駄がないから、触るだけであれだけの力が伝わるんだ


トカゲで教えてもらった

触れる事だけに集中してはいけないんだ

動きを思考を真似て…


仲間たちが寝静まった後、俺は一人、その日の動きを反芻するように繰り返していた。


それから、水月がそっぽを向いている時、ご飯の時、昼寝の時、事をなしてるとき…はやめておいたが、全く触れれる気がしない

隣で皿を洗っている時などに偶然触れてしまったすら起こりえない


(…無理だ。俺には、才能がない)

全てにおいて完璧に凌駕されている


「なぁ、水月、全く触れれる気がしないんだが」


「諦めるのか?」

俺はその言葉を聞いて言葉に詰まった

諦める…耳に痛い言葉だ

前世から、ずっとそうだった。何をやっても中途半端。

また、同じことの繰り返しなのか。


「水月の動き…警戒心すら自然に溶け込み過ぎている

俺もこれを意識してやり続けないと強くなれないけど

水月には決して及ばないということも」

俺が、膝から崩れ落ちそうになった、その時だった。


水月が、静かに言った。

「…趣向を変える。ついてこい」




水月が俺を連れてきたのは、月の光も届かない、森の最も深い場所だった。

そこは、完全な暗闇。自分の手すら、見ることができない。

「…ここで、何をするんだ」

女性に暗闇に連れて来られた事は初めてだ

正常な男なら期待してしまうところだが


「今度は、私が打ち込む」


「 見えねぇのに、どうやって避けろって言うんだ!」


「だから、いい」

水月の声が、暗闇の中から響く。

「お前のその役立たずの『目』を、使えなくしてやる。

目で見えないのなら、他の全てで感じろ。

肌を撫でる空気の流れ、地面を伝わる微かな振動、そして…私の、殺気そのものを」


それは、あまりにも無茶苦茶な稽古だった。

だが、俺にはもう、反論する気力もなかった。

ヒュッ、と、すぐ耳元で、風を切る音がした。

俺は、咄嗟に頭を下げた。頬を、何かが高速でかすめていく。


それから、地獄が始まった。

前後左右、上下、ありとあらゆる方向から、見えない攻撃が俺を襲う。

俺は、ただ必死に、感覚を研ぎ澄ませた。

気を抜いたら確実に死ぬ


そんな緊張感の中

耳を澄まし、肌を立て、地面に意識を集中させる。

何度も何度も、見えない枝に体を打たれた。


だが、徐々に、何かが変わり始めていた。

暗闇に、目が慣れてきたのではない。

俺の感覚が、暗闇そのものに溶け込んでいくような、奇妙な感覚。

(…右)

思考ではない。ただ、感じた。

俺は、体を左に捻る。

俺がいた場所を、一瞬遅れて、鋭い風が通り過ぎていった。

(…上)

屈む。

頭上を、何かが薙ぎ払う。

(…左、いや、フェイントか…! 本命は、足元!)

跳ぶ。

足元を、枝が高速で薙ぎ払っていくのが、気配で分かった。



どれくらいの時間が経っただろうか。

思考は、ない。

ただ、全身の神経が、暗闇の中に張り巡らされた蜘蛛の巣のように

あらゆる情報を捉えていた。


そして、俺は「視た」。

暗闇の向こうで、水月が、次の一撃のために、息を吸い込む、その瞬間を。

それは、目ではない。心の目で、捉えた光景だった。


(―――今だ!)

俺は、地面を蹴っていた。

狙うは、水月の気配の中心。


彼女が、迎撃のために枝を振りかぶる、その一瞬の隙。

その隙に俺は一切の思考を捨てていた

ただ気付くと俺の手が、彼女の、その冷たい手首を、そっと、掴んでいた。

「……」

森が、静まり返る。


俺の、荒い息遣いだけが聞こえる。

「…ギリギリ合格点ね」

彼女は、俺の手を振り払うことなく、静かに続けた。


「捕まえただけで安心しない事ね」

鳩尾に完全に見えなく意識を刈り取るギリギリの重さの攻撃をくらい

その場にへたり込んだ。


「ゴホッゴホ」

体はあざだらけでボロボロだった。

だが、俺の心の中には、これまで感じたことのない、確かな達成感があった


もちろん、水月は相当手を抜いてくれていた

あの水月が打つ前に息を吸い込むなんてしない


だが、今までの水月意外の戦闘を振り返ってみると

全ての相手が少なからず打つ前に打ち込むという意思があった


トカゲの時と同じだ

水月レベルの人がこの世界にいるのか分からない

だが、触れれる。


そして、水月の動きを見て覚え

この間に自分で試した

急所なら触れるだけで利かせる鋭さは習得できた


シラフでも戦える

その自信が生まれた




「良かった」と思ってくださったら

是非ブックマーク、★★★★★をお願いします。

筆者が泣いて喜びます。


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