表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「酒乱」スキルで異世界生活!? 記憶をなくしたら勇者になってました  作者: あいだのも
第六章 自由の国アメリコ
58/76

第五十八話 絶望は突然に

※ここから少しシリアスが続きます。でも安心してください、また飲んで暴れます。


独房でサクラから国の真実を聞かされた博史。

彼の心には、恐怖と共に、かつてないほどの怒りが燃え上がっていた。

「…それで、あんたはどうしたいんだ? 俺に何をさせたい?」

博史の問いに、サクラは静かに、しかし力強く答える。

「計画は二つある。一つは、この牢獄からの脱出。もう一つは、ヴァンパイアの王を討つことや」

「王を討つ…? 奴らを倒す方法があるのか?」

「方法は、ない。だから、創るんや。そなたたちとなら、それができる」

サクラは続ける。

「わっちの占星術が告げとる。そなたたちの力は、この国の歪んだ運命を覆すほどのものと見込んでいる

計画はこうや」

サクラは地図のようなものを床に広げ、作戦を語り始める。

「数日後、ヴァンパイアの王は晩餐のための『供物』を選ぶ。

わっちがそなたを推薦する」

「俺が…供物に?」

「そうや。供物として王の元へ行き、奴の懐に潜り込む。

目的はただ一つ…王の寝首をかくことや」

それは、あまりにも危険で、無謀な計画だった。

「無茶だ。

博史はゴクリと唾をのんだ。自分にそんな大役が務まるのか。

「…なんで俺なんだ? キリヤやフローレンの方が強いだろ」

「奴らは見た目から強すぎる。ヴァンパイアも警戒して、懐には入れんやろう。

じゃが、そなたは違う」

サクラの目が、博史を射抜く。

「そなた隠密スキルを持っているだろう」

確かに牢屋から飛び交う怒号が怖くて使っていた

この前レベルアップさせたスキル『影を歩く』の上位互換『影に溶ける』


「この薬を盛るんや

太陽を克服したヴァンパイアは不死だが

太陽が苦手なのに変わりはない

凝縮した太陽の粉末

これを手に入れるのにどれだけ苦労したことか

これだけが奴を殺す唯一の手段なんや」


「そんな無理に決まっている…」


「大丈夫や、わっちもその場におる

わっちは占いは信用されているが

完全に信用されているわけではない

隠密スキルなしに注ぐのとかは無理なんや

そなたはやつから警戒されることはない

失敗したらわっちが盾になるからその隙に皆で合流して逃げるんや」


「簡単に言うな」


「いや、わっちからしたら大人しく捕まってるそなたらの方が不自然や」


そうなのか…?

俺が無駄な戦いを避けようっていったからなのか


「パーティーが始まったらぐちゃぐちゃになる

その隙に隠密スキルさえあればこの薬を奴の飲み物に入れるんや」




それから数日後。独房でサクラに匿われていた俺は、元の牢屋へと戻された。

俺が戻ったのを見計らったかのように、看守がやってきて、一枚の赤い札を俺の牢に投げ入れた。

供物選びの知らせだ。


そして俺と共に俺をいじめてた番長格の男も選ばれた

「そして、俺と共に、あの俺を辱めた番長格の男も選ばれた ひっ…なんで俺が…

下の奴から選ばれるんじゃなかったのか…!?」

今まで威張り散らしていた男は、腰を抜かし、情けない声を上げる。

取り巻きだった連中は、彼からさっと視線を逸らし、むしろ嘲笑を浮かべている者すらいた。

これが、力だけでのし上がった者の末路か。


「博史はん大丈夫や

わっちがついておる」

サクラが、震える俺の肩をそっと叩いてくれる。

その温もりと人ならではの湿り気に

俺はなんとか平静を保っていた


「供物よ、こちらへ」

独房の扉が開き、仮面をつけた看守が俺を促す。

俺は黙って立ち上がり、長い廊下を歩き始めた。

壁の松明が、俺の影を不気味に揺らしている。

連れてこられたのは、巨大な謁見の間だった。

天井からは、血のように赤い宝石を散りばめたシャンデリアが吊り下がり、床には黒い大理石がどこまでも続いている。

空気はひんやりと冷たく、甘く腐ったような香りが漂っていた。

そして、広間の奥。

幾段もの階段の上にある、骨で装飾された玉座にがあった



そこには、俺と番長の男、ヤクに溺れて虚ろな目をした狂人風の男、

そしてただ怯えて小刻みに震えている子供のような男の、四人が連れて来られた。

そこへあるマントのようなスーツを着た男が

ゆっくりと入ってくる

年の頃は三十代半ばだろうか。

陶器のように白い肌、血のように赤い唇、そして、すべてを見透かすかのような、夜の闇を宿した瞳。

あれが、この国を支配するヴァンパイアの王か。

王は玉座に腰かけ優雅に足を組む

「我が名はヴラド

今宵貴様たちは我が晩餐の『彩り』となる

だが、何も恐れることは無い」


「こ、殺されるのに恐れるななんて…」

番長の男が、歯をガチガチと鳴らしながら言う。


「供物達よ

余は 感謝しているのだ

だからこそ 絶頂の快楽をプレゼントしよう」


その時、ぶつぶつ独り言を言っていた狂人の男が

いきなり奇声をあげながら襲いかかった

「ころぁころこらのろころころほことらぁぁぁぁぁ!!!」


「ああ、憐れ…」

王のマントが生き物のように変形し、鞭のようにしなって狂人の男の首を刎ねた。

ゴトン、と生々しい音を立てて、男の首が俺たちの足元に転がってくる


「ひっ」

皆が目を背ける

俺は、吐き気を必死にこらえた。これが、絶対的な強者の世界。

これが、俺がこれから挑む相手…。


「大丈夫だ

この供物の魂は安らかに 黄泉の国に送られた

なんと羨ましい

…さて、余興は終わりだ

供物は大事に扱わなければならぬ

私がそちらにいく時に備えて」

王がパン、と手を叩くと、豪華な食事と、芳醇な香りを放つ酒が運ばれてきた。


「好きに食べ、飲み、舞ってくれたまえ」


「そ、そんな毒でも入っているのだろう!?」

子供のような男がブルブル震えながら問い質す


「私が毒味してもよいのだが

如何せん死ねぬからな」

そういうとサクラを指差した


「どちらを毒味すれば良いかしら?」

サクラは今までの明るい口調ではなく

おしとやかな口調、振る舞いで子供のような男に聞いた


子供はおどおどと豪華な料理の一つを指差す


サクラは美しい所作でその料理をスプーンで一口取ると口にいれて飲み込んだ

何もないようにそのまま佇み


そのスプーンでもう一口分取ると

「次はあなたが食べてみますか?

それとももう一度私が食べましょうか?」

と聞いた


「そ、それはお前が食べたやつだろ…!」

と顔を赤くしながら聞くと


「失礼しました…

しかし、毒見ならば私のスプーンで食べた方が安心出来るかと

他のスプーンの毒見もなさいますか?」

え、もしかして俺もサクラと間接ディープキス出来るのか…


「そ、それで良いよ…」


「そうですか」

サクラはスプーンで料理を男に食べさせる


「美味しい」

男は顔を赤くし俯きながら答えた


パンパンパン

ヴァンパイアは愉快そうに手を叩く

「天晴れだ、サクラ!

人の欲望は美しい!

さぁ皆も飲んで、食べるが良い」


サクラがあーんをしてくれるのかと思い

期待してサクラを見ると

サクラは顎でクイッと合図した


作戦を実行しろという合図だ

とりあえず怪しまれないように

目の前に注がれたワインを飲む

…葡萄ジュースだ…

一瞬がっかりしたが

この葡萄ジュースの美味しさに頬が弛む


「どうだ、旨かろう

この料理はすべて一級品だ!

存分に楽しむが良い!」

そういうとカーテンで隠されていた場所が開かれる

そこには幾つかのベッドの上に女性が寛いでおりお香が焚かれていた

…この匂い、覚えがある


アルブジルやこの牢屋で稀に香ってくる

…麻薬だ


この距離なら軽いタバコを吸った程度しか影響は無いが…

と思っていたらサクラがベッド上に座った


子供のような男は赤い顔でとっとと目の前の料理と飲み物を平らげるとサクラの方へ向かった

サクラは彼を横に座らせると彼の頭を自分の膝へ誘導した

膝枕だ!

頬とサクラの美しい太ももが生身で触れている

う、羨ましい

と、思っていると再びサクラから視線を送られた


ヴァンパイアは満足そうに二人の光景を眺めている

俺はすすっと気配を消し

気付かれるか…と

心臓が、張り裂けそうなくらいに鳴っている。

ドキドキしながら王の背後に回り込むと

スススっとヴァンパイアの飲み物にサクラから渡された薬を入れた


―――入れた!


他の男どもも料理を平らげるとベッドで寛ぐ女性の元へ向かった

彼女らも男どもを受け入れ

キスしたり触れあったりし

次第にヒートアップしていき

欲望のままに絡みだした


あれ、俺だけハブられている…?

俺がそっと元の席に戻り、

安堵し、余裕が出来た

その時だった。

「ああ、そうそう。言い忘れていたが、」

王が、楽しそうに口を開く。

「今回の供物は、特別にもう一人、追加しておいたのだ」


王が指さした先、カーテンの奥で手足を鎖で縛られ、

口には猿ぐつわをかまされ十字架に磔にされていた女性…

ブラン!

え、何で?

マリーたちと一緒にいたはずじゃ…

ブランは目を閉じたまま動かない

俺の脳内に最悪の思考が浮かんでくるが

冷静にブランをみると傷は無い

き、気を失っているだけだよな…


その様子に、サクラの顔からも血の気が引いていた。

「サクラよ」

王の声が、氷のように冷たく響く。


「貴様の謀反なぞ、お見通しだ。

シューティングスターの面々がこの国に入ったのに

貴様の占いに何も出んはずがなかろう?」


王は、俺が入れた薬に気づいているのかいないのか、グラスを優雅に傾けた。

「当然、削れるところから削らせてもらった。この娘のデバフは、

戦闘力は無いが、少々厄介だからな」

王はそう言うと手に持ったグラスの指の力を抜いた

グラスは地面に叩きつけられ

粉々に割れ、飲み物が辺りに飛び散った

く、くそ、気付かれていたのか…


「他の連中は来ぬぞ

勇者のひとかけらは他の娘のけつを追わせ

獣族の女は満月で派手に動けず

一番厄介な太古の姫は獄中にいる老人どもに会わせているからな」



「博史はん!逃げるんや!」

に、逃げる…?

ブランを置いて…?


そんなこと出来るはずが無い

「うおおおおお!!!」

俺はヴァンパイアに殴りかかる


「博史…

博史!!」

ブランが俺の怒号に反応して、ゆっくりと目を覚ますも


ザシュッ、という鈍い音。

王のマントは、ブランの華奢な胸を、いとも容易く貫いていた。

時間が、止まった。

スローモーションのように、ブランの体がゆっくりと俺の方へ傾いてくる。

彼女の口から、赤い血が溢れ出す。その瞳は、驚きと、痛みと、そして…俺への心配の色を浮かべて、

「…ひろ…し…」

彼女は、何かを言いかけたが、その言葉は声にならなかった。


それが、彼女の最後の言葉だった。俺の腕の中で、彼女の体から、急速に温もりが失われていく。その軽さが、信じられなかった。

「あ…

――― うわあああああああ!!!!!」


「臆するでない

貴様もすぐに後を追わせてやる」

ヴァンパイアのその言葉と共に

俺の 胸をマントが貫通し

意識が消失した


意識は闇に落ちていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ