第四十九話 寿脱退は笑って見送りたい
ズキリ、と脳天を鈍器で殴られたような痛みが走る。
昨夜の酒が、まだ頭蓋の内側でガンガンと鐘を鳴らしているようだ。
俺はうめき声を上げながら、重い瞼をこじ開けた。
目に飛び込んできたのは、
ステンドグラスから差し込む柔らかな光、
天井まで届く白い花のアーチ、
そして鳴り響く荘厳なパイプオルガンの音色。
鼻腔をくすぐるのは、甘い花の香りと、
かすかに漂う高級そうな料理の匂い。
…ん?
周りを見渡すと、俺はなぜか豪華な式場の、
一番前の席に座っていた。
きっちりとした礼服を着せられ、
胸には小さな花まで挿してある。
気が付くと、結婚式だった。
え、何で?
ハングオーバーか? いや、映画で見る『ハングオーバー』ってのは、
結婚式の前に飲みすぎてやらかして、
式の当日に間に合うかどうか大騒ぎする話のはずだ。
記憶がないまま、気づいたら結婚式の真っ最中って、
どういう状況だよ。
そもそも、誰の結婚式なんだ?
俺は混乱する頭で、隣の席に座るキリヤの肩を揺さぶった。
「おい、キリヤ。何で俺たちはここにいるんだ?」
俺がそう尋ねると、同じく礼服姿のキリヤは、
心底不思議そうな顔でこちらを見た。
「はぁ? 何言ってんだ博史。お前、覚えてねぇのか?
昨日は闘技場の後夜祭で、盛大に飲み明かしたじゃねぇか」
昨日は闘技場の祭りだっただろう。
それは、覚えている。
W・ムーンが優勝して、水月が仲間になりたくて、
それで…それで、後夜祭という名の酒盛りが始まって…
そこからの記憶が、綺麗さっぱり抜け落ちている。
一体、あの後何があったんだ?
そして、なぜ俺は、誰かの結婚式で主賓のような席に座らされているんだ?
俺は、自分の身に起きた、あまりにも理解不能な状況に、ただただ呆然とするしかなかった。
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水月の一件の後、結局また俺らは飲み始めた
そんな中、一人の男 聖剣アレスター・レイヴァン が再び壇上に上った
「私からも一言いいかな」
「なんだなんだ、聖剣、持ち主に振られたから鞍替えか?」
キリヤが煽る
「そんなのどうでもいい!
いや、むしろ、彼女には感謝している
何故なら私はこうして、自分の思いを率直に伝えることが出来るのだから」
レイヴァンは、他の誰でもなく、輪の少し外れで黙々と肉を頬張っていたメイェンタオの前に、真っ直ぐに立った。
彼は、メイェンタオの前に跪き、その手を取った
メィェンタオさん!
私が貴方を守ります結婚してください」
その場にいた全員が、息を呑んだ。
聖剣が、再び一人の武闘家の少女に、求婚している。
「な、なんなのネ
あちきはこのパーティで魔王討伐して
最強の武闘家として生きていくのネ
なぁ博史!」
メイェンタオは、口に含んでいた肉をゴクリと飲み込み、顔を真っ赤にして叫ぶ。
「俺はメィェンタオが女性としての幸せを得る方が良いと思っている」
「確かにフリーレンの時もそうだけど無駄に紳士だよね」
「ひ、博史…」
メイェンタオが、裏切られたような目で俺を見る。
「アレスター・レイヴァン
メィェンタオのどこが良いんだ?
初対面だろう?」
俺は、向き直って男に問いかけた
その口調は、自分でも驚くほど、頑固な親父のようになっていた。
「男が女に惚れる理由なんて
そんなに多くないはずです
一目惚れです」
レイヴァンの答えは、あまりにも真っ直ぐだった。
「そ、それより
何千年といきてきた
それにお前は剣だ
お前にメィェンタオを幸せに出来るのか」
まるで父親が娘の結婚相手を試すかのようだ。
「確かに、老いぬからだ
子をなせる保証もない
だからこそあなたの命つきるまで愛し守ると
我が魂とこの聖剣の名誉にかけて誓います」
「本当に浮気などしないのか」
「ああここまで何千年
このような気持ちになることが無かったです
彼女が死ぬまでたった百年
彼女を越す恋などあり得ないです」
その言葉には、一切の迷いも嘘も感じられなかった。
「うっ…」
思わず言葉に詰まる。
「おもえば彼も一目惚れでしたな
マリー…リン」
「…マリリンへの当てつけかしら」
マリーの目が笑っていない
「私は勇者を理解できなかったですが
ここで彼女に拒絶されたと想像しただけでも
この身が引き裂かれそうになります
恋とは恐ろしいですね」
「博史、水月、残念です
あなた達と共にいけば
世界すらたさやすく手にはいるでしょう」
「いや、買い被りすぎだろ」
「自分を買い被りすぎよけんのくせに
気持ち悪いわね」
水月がレイヴァンを睨む
「おい、お前に勝ったのは俺様だぞ」
キリヤが叫ぶも誰の耳にも入らない
「で、どうするんだ?
顔が赤くなってるぞ」
俺は、真っ赤な顔で俯いているメイェンタオに、最後の問いを投げかけた。
「赤くなってるないネ
ただ、わからないネ」
彼女の声は、震えていた。
「分かった分かったネ!
正直、魔王を討伐しろだノ、
最強の武闘家になるだノ
結局このパーティにいると周りは化け物だらけで何も出来る気がしないネ
結婚してやるねネ
その代わり、あちきが嫌になったらすぐ離婚してやるからネ」
メイェンタオは、ヤケになったように叫んだ。
「メィェンタオも自分の事命がけで助けてくれて
好いてくれるなんて初めてだろ」
「ばか、キリヤ茶化すな
お互い真剣なんだから」
ブランが、なぜか俺の代わりに怒鳴った。
「てか、お前らお前らメィェンタオを何で助けなかったんだ?」
「博史がギリギリで誰にもバレない様に助けると思ったから」
とフローレン
何て言う過度な期待…
「彼女が本気で殺そうとするほどの殺気じゃなかったから治せると思ったのー」
うちの仲間はスパルタだ
レイヴァンは、メイェンタオの手を優しく取り、その甲にキスをした。
「ありがとう。必ず、君を世界一幸せにすると誓う」
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そうか…そんなことがあったのか
それにしても俺らのパーティで一番最初に抜けることになるのが一番最後に入ったメィェンタオとは…
寿退団とはいえ
一番付き合いが短いとはいえ
嬉しいはずが、寂しいものだな
こうして、俺たちのパーティから、最初の離脱者が出ることが決まった。
一番付き合いが短いとはいえ、嬉しいはずが、どこか寂しい。
だが、仲間が幸せになるのだ。
俺たちは、最高の笑顔と、最高の酒で、彼女を送り出してやろうと心に決めた。




