第四十三話 聖剣の聖剣は聖剣だった
闘技場の前日、俺たちは闘技場の掃除の任務にやってきた。
観客席には無数の酒瓶や食いカスが散乱し、むせ返るような熱気と汗の匂いが染み付いている。巨大な闘技場を目の前に、悪ノリのボリスが「ここで戦うのかー!血が騒ぐぜ!」と叫び、その声が空っぽの観客席に虚しく響いた。
歴代の王者たちの銅像が立ち並ぶ
「キリヤは掃除なんかしないかと思った」
「相棒、俺はしないぜ」
何を言っているんだこいつは
「じゃあなんだ、闘技場の下見か?」
会場を使った戦術などないだろうが…
「ああ、下見さ!
いつどこで女の子をひっかけられるかわからないからな
個室トイレと物陰はチェックしとかなきゃ」
そんなクラブみたいなこと…
思えば居酒屋行くとすぐにトイレ行ってたな
使ったことないだろうが
そんな下世話な話をしていると、掃除を監督していた年配の職員が、深いため息をつきながら近づいてきた。
「あんたたち、シューティングスターだろ
ただの客寄せパンダだ
どうせ最後は剣星様が勝つ
茶番だよ」
「はぁ!?おい、ババア俺様の試合が茶番だと?」
「ああ。剣星様は、存命中は決して負けないわ。
聖剣の力で
あんたら、見たことないだろう
近頃の若い衆は知りもしない
ここ20年程、剣星様は鞘から抜いてすらないわ」
職員の言葉は、この国の闘技場が抱える「光」と「闇」を俺たちに突きつけた
ただの力比べではない、興行としての側面
そして、絶対王者である聖剣の存在
剣の力で勝つってどんなだよ…
漫画みたいに剣を抜いただけで相手が吹き飛ぶとかか…
そんなチート無理だろう…
「燃えるネー
戦いとはそうでなきゃネ」
「女がどうこうっていうのはどうなんだ?」
「女の子を抱くのは
恐怖を乗り越える手段としてだけでなく
勇者は騎士としての最低限の嗜みみたいなのもためされるわ
一回戦に勝ったらその夜から毎晩女性と一緒に夜を過ごすのよ
それで失格になる人もいるらしいの
あれは最高だあったわー」
年配の女性が頬を赤らめながら言う
この女性も娼婦の経歴があるのだろうか
「うおおお最高じゃねぇか
騎士の嗜み、俺様も有るに決まっている」
皆が溜息をつく
「キリヤ、やってやるネ、剣星とやらをぶっ飛ばしてやるネ」
「美しい女性があまりぶっ飛ばすとか言わない方が良いと思うな」
「ア?」
振り返ると全身白い鎧に身を纏い
腰に中二なら誰しも憧れるような大剣を携えたイケメン男が立っていた
「お久しぶりですマリーさん」
「あら、私の事はマリリンって呼んでよね
そう、貴方が」
「はい
聖剣アレスター・レイヴァンです
君たちは来週の闘技場に参加されるのかな?」
「だからなんだ?八百長で負けろとでも言いたいのかー?
けっ、聖剣ってことは沢山女を抱いているんだろうな
ご自慢の聖剣様でよぉクソが!」
キリヤが食ってかかる
「いや、違うんだ
女性のお相手はお互いに好意が有ったら必然だと思うけど」
キリヤの挑発に答えるというよよりも
「な、ああな、剣のくせに…
まさか本当に…」
本音で言っている感じがする
天性の陽キャ
凄い良いやつなのは分かる…
だからいけ好かない
「あちきあいつ嫌いネ」
メィェンタオの一言に
口を肴のようにパクパクさせながら
言葉にならない程落ち込む剣星
是非今日はうちで食事をしていって下さい」
「お前、ここに住んでいるのか?
明日戦うやつの飯なんか食えるかよ」
「あ、いえ、そういうつもりじゃあ」
「万が一毒を盛られてもマリリン解毒するから大丈夫よー
そんなことよりマリリンお腹ペコペコなのー」
――――――――――――――――――――――――――――
気が付いたら美しい裸の女性が眼の前に
「え、え貴方誰ですか…?」
「ちっ冷めたわ…
なんで私の担当がこんなヘタレ野郎なんだ」
バンッと扉の音を立て出て行ってしまった。
どうゆう状況だったんだ…?
周りを見渡すと
天井は高く、装飾が施された金と深紅のシャンデリアが柔らかな光を灯している。
床には贅沢な赤い絨毯が敷かれ、歩くたびに柔らかく沈み込む。
部屋の中央には豪華な彫刻が施された大きなテーブルが置かれ、
その上にはすでに高級なワインと果実が用意されていた。
「まるで王宮の一室みたいだな……」
博史が居た寝室には天蓋付きの巨大なベッドがある。
窓の外には、闘技場の一部が見渡せるバルコニーがあった。
奥には、まるで小さな温泉のような大理石の浴場が設けられている。
湯気が立ち込める浴槽に香り高いハーブが浮かべられている。
昨日は確かレイヴァンが泊めてくれて
もしかして、今の子は剣星が気を効かせて
情熱と欲望の街だし
だとしたらもったいない事をしたかもしれない…
久しぶりのベッドでゆっくり先ほどの事が行われたことを妄想して
果て
たっぷり寝られるかと思ったが
必要以上に大きい部屋に不安感が募り
大して寝れなかった
朝、起きた時目の前に居た女性が起こしに来てくれた
「出てください」
その声の調子は、どこか事務的で冷たかった。
闘技場の中央に集められた
そこには仮面を被った小柄な人とキリヤも居た
「き、キリヤ、何があったんだ?」
「さて、波乱万丈の今大会
また波乱が起こってしまった
博史選手とキリヤ選手は非紳士的な夜の好意により
騎士の資格が無いと判断され失格
よって、決勝はW・ムーン選手VS残虐絶倫ゼファー!」
ブーイング交じりの歓声が沸き起こる
「はぁ…?
決勝…?
負け…?
今日一回戦じゃなかったのか」
「博史…ずっと記憶無いのか
一回戦は昨日で
闘技場で試合の前から飲んで
試合後祝勝会で飲んでいたからな
丸二日の記憶が無いわけんだな
一昨日の事から話してやる…」
 




