第二十三話 節度のルサーリカ
とある国のとある場所
祈りの場
天井は高く
黒曜石で作られた尖塔が
天へと突き刺さるようにそびえていた。
壁には奇妙な紋様が刻まれ
ほのかに赤黒い光が漏れ出していた。
光はまるで生き物のように脈打ち
壁の影を奇怪な形に揺らしていた。
「さささささうぎゃああ」
拷問器具のハンマーで潰される魔人
中央には巨大な祭壇があり
黒い大理石で作られたその表面には
血のような赤い液体が塗り込まれていた
祭壇の上に金と骨で飾られた偶像が鎮座していた
礼拝堂の隅には異端の書物が積まれ
古びた羊皮紙に文字が刻まれていた
悪魔の契約を交わすための呪詛や
禁忌の儀式が細かく記されていた
「ああ主よ神よ
何故ユーはミーに試練を与えるのですか
ああそう、ユー様はいつもそうでした
慈愛、愛に満ちていて
うるさいガジェットの
貴様の目ん玉をジュルッと食えば
ユーの元に赴いて
生贄になって
腐った思考を
ミーの頭に取り替える事ができますか?
mamamama」
全身を潰されたガジェットと呼ばれた魔人
グチュグチュと音を立てて元の人の姿に戻り
跪づいた
「異常者どもよ」
機械のようなモノの隣
シューティングスターを襲ったテッシンが立つ
「あら、ユーには言われたくないわ
人でありながら人を殺しまくり
魔王軍へ下った異質テッシン
ミーにはユーの行動が理解出来なくてよ
何故奴らを殺さなかったの?
ああ、わかっている
ラブァヴゥを込めたミーへの試練だと言うのね
mamamama
ラァッヴゥ
ミーがガジェットにグジュグジュするのは
獅子が我が子を谷に突き落とすからなのよぉおお」
「…ワレは無駄な殺生を好まぬ」
「どの口がいうのかしら
ミーらがあばらばるるるあぁ
おっと、興奮し過ぎたわ
ミーがぐちゃぐちゃかああああにしてやりまぁすmamamamaaaaaaAAああああアアア!!」
アルブジルを出てすぐ
ルサーリカが熱を出して倒れた
ルサーリカは戦闘員ではない
慣れない長旅
疲れが溜まっていたのだろう
「大事にはならないけど
安静にしてくっちゃね」
マリリンが魔法をかける
「マリリンさん、色々と私がやらなきゃ」
「大丈夫ルサーリカ
あたし達に任せてゆっくり休みなさい」
ブランが胸をぽんと叩く
その言葉に不安げな表情を浮かべるルサーリカ
そして直ぐに食糧が枯渇した
「なんで食糧がねぇんだよ」
悪ノリのボリスが喚く
「フェフチェンコ
お前つまみ食いしただろう」
「キリヤ、なんでも俺のせいにするなよ
お前が狩ってくればいいんだろ」
「こんな魔物しかいない所で
何を狩ればいいって言うんだ」
アルブジルを出てから
動物に会っていない
会うもの会うもの
どれも異形の魔物
この緑が無い岩肌がむき出しの道と
次の目的地である
迷宮都市の魔力のせいらしい
仲間内で
もめ始めてしまった
パーティ解散の原因第一位が色事
第二位が報酬の取り分
第三位が方向性の違い
第四位が食糧の枯渇だ
そもそも食糧の枯渇自体起こることが少ない
かなりの危機状態である
食糧…
異世界もので魔物を狩って食べるという物語がある
「魔物を食べてみないか」
俺の言葉に一気に皆の視線が集まる
「そんなバカな、気持ち悪すぎる」
「この際背に腹は代えられないだろう」
「い、魔物って食べれるのか…?」
「チェンマン、いけそうか」
「やらなきゃ皆死ぬんだろう」
口で言うのは簡単だ
魔物を狩るのはリスクがある
身体を動かすために
エネルギーを補給しなくてはならない
こちらから狩りに行くにしても
相手が分からない
そう何回もチャンスがあるわけではない
こうゆう時は民主主義で話し合いだ
話し合いは長引いた
獣系の魔物なら食えそうとか
絶対に液体の魔物は食いたくないとか
そんなことより腹が減っただとか
皆の意見が割れた
最終決定を俺に託されたので
次に出た魔物を食うことにした
スライムだろうが
オーガだろうが
アンデッドだろうが…
運任せ…
狩りにくのではなく待ち
フローレンのマーキングも無くした
幸いなことに?
次に現れたのはグリフォンだった
まだ動物みがある
「メシィイイイ」
キリヤの剣筋一線でグリフォンが真っ二つになった
「バカヤロー!
食えるように狩れ
真っ二つにしたら内容物が飛び出るだろう」
そう言いながら
チェンマンが真っ二つになった
グリフォンに包丁を入れていく
「どう?食えそうか?」
博史が聞くと
「ああ、幸い
胃も腸も空っぽだったし
胆嚢や腎臓は避け
真っ二つになったから
そこは大丈夫だ
筋肉も見たところ赤みがかっていて
哺乳類系の動物の筋肉だな
これだけ見たら美味そう…ではある
臭いは…
臭い事は臭いが
獣臭さだな
アンモニアとかの
変な臭いは今のところないな」
「あたい等の前に現れたってことは
こいつも相当腹が減っていたんだね」
ブランは気の無い事を言っている
ブランが何でもオーケーと言わなきゃ
こうはならなかった
ルサーリカが管理していたときは
酒で酔っぱらい
つまみを欲しいと言っても
必ず断られる
ブランは全てOKを出してしまった
ブランだけのせいじゃないが
管理をするといったのはブランだ
ブランに責任がある
「酒はあるしな
臭み消しにも
気の紛らわしにもなる
時間はかかるかもしれねぇが
食えるまでには持っていく」
俺たちは直ぐにキャンプを設営し
チェンマンは調理を始めた
果実酒で煮込み
塩と香辛料で味を整える
「お、意外といけるかも知れないぞ」
チェンマンが味見した声が聞こえる
そのまま宴会に入り
初めは皆美味いと言いながら
食べていた
しかし、気が付いたら
ほぼ全員が食べていたのを吐いてしまっていた
「すきっ腹でいっぱい食ったからか…?
いや飲んだからか?」
「いや、この感じ…
身体が拒絶している」
振り出しに戻ってしまった
そこで誰かが言った
「酒は水じゃねぇ
果実や穀物から出来ている
栄養があるはずだ
お腹が空いているのは
飲み足りないからだ」
アホみたいな理論
お腹が空き
頭が働いていない連中には
全うな意見に思えた
目が覚めるとまだ深夜だった
皆がまだ寝ている中
せっせと一人の女性が後片付けをしている
『節度のルサーリカ』
彼女がいるから大きなもめ事も無く
今までやってきたと言っても過言ではない
「ルサーリカ
もう起きて大丈夫なのか」
各個人から運営費用の徴収
買い出し等のお金の事
そしてバカどもが騒ぎ
犯罪にまでなりそうな事は止める
特にキリヤとボリス
一線超えるスレスレまでいく。
『節度』というだけあって
彼女が酒で騒いでいるのを見た事が無い
キリヤなんかは楽しまなくて
何が楽しいのかとか
皮肉混じりに言っていた
皮肉ではないにしても
俺も何故ついて来たのか疑問だ
非戦闘員
ただ俺らのお守りをしてくれ
面倒なことや嫌われる仕事を率先してやる
彼女は国でのんびり安全に暮らしていた方が
俺は良いのではと思っていた
そして今
周りは寝静まり
二人になってしまった
正直気まずい
俺が女性と二人きりになる事なんて
滅多に無いということもある
だが、彼女の事が全然わからない
何を話せば良いのか
ここにいる奴らの簡単な話題だと
何の酒が好きかとか
好きな酒をじゃあ飲むぞ!
そして気が付いたら
楽しくなって記憶を無くす
コミュ力より酒力だ
彼女に酒の誤魔化しは通用しない
とか、色々と考えていると
彼女の方から話してくれた
「私、このパーティにいていいのかな?」
神妙な空気が流れる
「何で?」
「私は面白い事出来ないし
戦えないし」
「…俺はルサーリカがいるから
このパーティは成り立っていると思う
ルサーリカがいなかったら
絶対に酷いもめ事が起こっているし
皆が嫌がる仕事をやってくれるのは
本当にありがたいと思っている。
でも、正直ルサーリカが
なんでここまでついてきてくれたのか
疑問だった」
ルサーリカは少し悩み
「私…にぎやかな所に居たいんだ
一人だと暗くなってしまうから」
「性格の違いなのかな?
俺にはよく分からないや」
「うん
そう言ってくれる方が
気が楽だわ
私ロマネンド王国の外れ
小さな集落で生まれ
結婚し
子供も生まれ
幸せだった
でも、私がロマネンド王国に
用事で行っていた数時間の間
魔族に襲われ村は全滅
あの日の事
今でも鮮明に覚えている
まだ生暖かい血まみれの息子が
冷たくなっていく触感
切り刻まれた夫の死体
ずっと後悔していた
なんで私は出掛けてしまったんだろうって
家に居なかったのだろうかって
魔族を憎んだ…
でも、気が付いたら
お腹が減っていた
自分が食べるために冒険者になって
私には魔族を殺す力なんて無いんだと悟って
毎日無気力な日々を送っていた
そんな時気を紛らわすため飲んでいた酒
行きつけの酒場に博史が現われ
バカみたいにはしゃぐ姿に
自然と笑みがこぼれ
涙がこぼれた
思えばその時初めて泣いた
魔族に対する憎しみや苦しみではなく
息子や夫に対する悲しみが溢れてきた
悲しみの涙が憎しみ苦しみを洗い流した
それから冒険者を辞め
酒場で働かせて貰った
時に度を過ぎて
注意することもあったけど
勝手に自分の息子が生きていたら
こんななのかなとか思ってしまった
ごめんね勝手にこんな話して」
「いや、ごめん
俺には分からないから
何て言っていいか分からない」
「ううん
それでいいの
それがいいの
皆が楽しそうにしていてくれたら
私も楽しいから
暗い話をしてごめんね
空が明るくなってきたね
皆が起きて出発する前に
片付けなきゃね」
「俺もやるよ」
と言って立とうとしたところ
肩を抑えられ座らせられてた
「いいの、気を遣わないで
そんなことの為に言ったわけじゃないんだから
ほら、まだ少し寝れるかも
横になっときなね」
「…ああ」
そう言って彼女の言われるがまま横になり
気付いたら皆が起きている時間
ルサーリカに起こされた。
それからこのパーティの何かが変わった訳ではない
過去を打ち明けたことで吹っ切れて
より積極的にパーティに関わるようになった
でも俺にとって彼女は
パーティの中で最も信頼が出来る存在になった
彼女に任せとけば
お金の事で揉めることも無い
彼女のしつこく
嫌われる宴会費用の徴収は…
あれ?
俺ら徴収されてない気がするんだが…?
「ルサーリカ
俺から宴会費用徴収してなくない?」
「大丈夫よ
あんたたち戦闘員のは
討伐報酬から天引きしているから
ちゃんと残っている分は計算してあるからね」
「あ、そっか」
道理で俺はずっと金が無いと思っていた
節度のルサーリカは
今までもこれからも
抜け目なく働いてくれていた
「良かった」と思ってくださったら
是非ブックマーク、★★★★★をお願いします。
筆者が泣いて喜びます。
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