第二十二話 儀式の手順は守らなくてはいけない
着々と歓迎と儀式の準備が進められる
村の中央広場
焚き火が燃え盛っていた
周りには村の長老や子供たちが集まり
楽器を奏でながら歌い踊っていた。
村の中央広場の祭壇があり
その周りには色鮮やかな布や花が飾られていた。
広場では村の女性たちが
伝統的なダンスを披露しており
優雅な動きと美しい衣装に見とれていると
キリヤが立ち上がった瞬間潰れた
広場の中央には新鮮な果物
香ばしい肉料理
色とりどりの野菜が並べられていた。
日が暮れてくると
ハヨォーヨは祭壇の前に立ち祈りを捧げた
白い羽根で作られた美しい冠をかぶり
長い儀式用のローブをまとっていた
村の巫女が現れ
祭壇の前に進み出ると
天に向かってハヨォーヨに続き
祈りを捧げ始めた
巫女の祈りに続き
村の人々も静かに頭を垂れた
俺らも彼らに倣うように頭を下げた
巫女は祭壇に置かれた穀物の束を手に取り
焚き火の中に投じた
焚き火は一気に燃え上がり
夜空を明るく照らした。
「なんだなんだ
前夜祭だってのに
こんなに派手にやんのか?」
キリヤが言うと
祈祷を終えたハヨォーヨが祭壇から降りてきて
「すー
まぁねー
明日は儀式で
祭りどころじゃなくなるからー
はぁーい
それじゃあ皆も飲むよー
かぁーんぱぁい
ぷはぁー」
――――――――――――――――――――
翌朝
辺りは儀式の後
皆が雑魚寝で寝ている
今回は何もなかったようだ
「よぉ下痢ピーの博史、起きたか」
キリヤが目が覚めた俺に話しかけてきた
「下痢ピー…?」
何故俺の二つ名が下痢ピーになっている…?
いや、確かに俺はお腹が弱めで下痢っぽいのが多いが
そんな俺の便情報なんて誰にも流していない
まさか、俺の便が水っぽいせいで
トイレに突っ込んだ時に全身に擦り付いたと気付いたか…?
いや、あれは小のせいだ俺の大が水っぽいせいではない…
「…何故俺の便を知っている…?」
――――――――――――――――――――
【昨夜の回想】
村の人々もシューティングスターの面々も
楽しく飲んでいた
「なぁハヨォーヨ
これは何の意味があるんだ?」
悪ノリのボリスが祭壇に上り
祭壇の上にあるモノ指して聞いている
「こら、ボリス降りてきなさい」
ルサーリカが子供を叱る母親のように言う
「すぅー
それはねー
魔除け意味だよー」
「じゃあこの煙は?」
「この葉巻の濃い煙さ
刺激が強くて
獣族は一気に飛ぶんだよー
おいらたちはシャーマンは
それを完全にコントロールする事が
修行なんだよー」
「そうなのか
スンスン
俺にはただの香り付きの煙にしか感じないけどな
どれ、フローレン嗅いでみろよー
強くなれるっぽいぞー」
そう言うとフローレンは驚異的なジャンプ力で
悪ノリのボリスの隣に来て
クンクンと煙を嗅いだ
「あっ…」
ハヨォーヨは止める間もなく
嗅いでしまったフローレンを見て
諦めの声を出した
フローレンのダークチョコレート色の毛並みが
みるみるうちに白く変わり
眼も赤く変わり
その美しい姿に見とれている間もなく
「うおっあぶねぇ」
キリヤの真横を槍が通り抜けた
「刺す♥
刺す♥
刺させてぇええ♥」
真っ白の毛並み
頬が興奮でピンク色に染まる
「おい、本当に理性が無いのか
普段のフローレンと変わんねぇぞ」
「すー
あー
いや
ここまで…
儀式は徐々に変化を見ていくもの
だったんだけどねー
ま、なっちゃったものは
しょうがないねー」
無責任に
いや全てを受け入れたかのように
ハヨォーヨは言葉を発する
「束縛」
ブランが魔法をかけ
魔法の輪がフローレンの腕周囲を捕えようとした
瞬間
フローレンは獣のような四つん這いになり
魔法の輪をすり抜けた
「速すぎる」
「ボリス達も下がれ!
俺らでも手に余るぞ!」
キリヤがそう言うと
ガギィイン
鈍い金属音が鳴り響く
フローレンがボリスの頭を貫くところ
マリーの盾魔法で防いだ
「危ないわねー
マリリン何もしないつもりだったけど
これだとマリリン手加減出来ないよー」
いつもキリヤを焼いている稲妻が走ると
フローレンは飛びのいた
フローレンが稲妻を避けるために走り回る
フローレンの足元を激しい稲妻が駆け巡っている
稲妻の速度と
フローレンの速さは大差無いが
フローレンの方が若干速く
隙を狙いながら走り回る
マリリンは経験で先読みをしている
「マリリン!
手伝う」
ブランがフローレンの行く先
先回りするように
束縛魔法をかけていく
流石のフローレンも
足や手に稲妻が掠り始める
「おっしゃジャスティス」
ブランとマリリンに進路を阻まれ
誘導させられた先
キリヤが光る剣を振りかぶる
激しい光と稲光が交差し
一面を真っ白に染め上げる
光が落ち着くと
フローレンを庇い
マリリンの稲妻をタガ―で弾き
キリヤの剣を白羽取りする博史がいた
「フローレンは女の子だ
女の子は傷付けちゃ駄目だ」
「刺す♥」
博史はフローレンの槍を軽く躱し
槍の柄を掴むと
あっという間にフローレンの槍を取り上げた
フローレンは体勢を崩したまま
博史の顔面に回転しながら
飛び蹴りをかまそうとするも
またもや躱し
飛んだフローレンの軸足を掴むと
あっという間に地面に制圧してしまった
その光景にパーティの皆が
目を点にしている
「すー
きみすごいねぇー
ぷはぁー
うん
想定外だったけど
儀式は完了だね」
ハヨォーヨは二人にゆっくりフラフラと近づいていき
フローレンにお香のようなものを嗅がせると
フローレンの姿は元に戻り
眠りについた
「そ、そんな簡単に戻るんだったら
儀式の意味あったかい?」
ブランがその場に座り込みながら
声を漏らすように言う
「すー
あったよー
すー
ひとつ
獣化で暴走したら
止めなきゃいけない
すー
ふたつ
獣化は無意識に
その人の欲望を特に強める
戦士としての力が必要なのに
食欲や睡眠欲が強く表れる人は
戦士になれないからね
すー
みっつ
皆に見られている神聖な場で行う事で
戦士として認められる
ざっとこんなものかなー
おっと
儀式は最後まで行わなきゃねー」
ハヨォーヨはそう言うと
祝詞のようのを唱えだした
「フローレンはどこか静かな所で
安静にしていいのか」
「すー
まあ、いいよ
戦士をあまり気遣うことないから
いつもはこのまま寝かせとくんだけどねー」
宴会も終わり
皆がそこらじゅうで寝静まる中
便意で起きてしまった
いつもはキャンプの近くに
(男用)トイレがある
でも、ここは獣族の集落
トイレを集落内に作ることが出来ず
獣族の習わしで
集落の外
大自然どこでもぶっぱなすらしい
女性陣は男性陣が知らないところに
マリリンが結界を張って
トイレを作っているだろうが
いやらしい意味ではなく
俺も使わせてほしい…
一人で異世界の集落の外に出るの
めっちゃ怖い
キリヤを起こそうかとも考えたが
あいつの事だ翌日に
「おい、博史は一人で
おしっこもいけないらしいぞー」
とか
「博史のうんこは音が
びちゃびちゃの下痢ピーだぞー」
とか言って茶化して来るに違いない
この前のトイレ騒動で
うんちまみれになったキリヤは
パーティの面子には名前でなく
うんちって言われている
俺を自分と同じ所まで落とす
チャンスと考えるかもしれない
影を歩くスキルで
目立たず行って
なにかあったら大声で叫ぶ
これで何とかなるだろうか
ヤバい、便意が強くなってきて
思考が出来なくなってきた
何かあったら大声で叫ぼう
下痢ピー野郎と言われようと
命には代えられない
俺はスキルを使い
集落の外へ出て
生き物の気配がなさそうなとこを探し
ぶっぱなした
ふう…なんとかなりそうだ
と思いズボンを上げた矢先
近くの茂みでガサゴソと動いた
おい、嘘だろ…
声を出す準備をした瞬間
茂みから顔の数センチ横
やりが飛んで来た
「うおっ」
「ん?博史か?
気配が無かったから
動物かと思ったぞ
刺さ♥らなくて良かったな」
茂みからズボンとパンツを下げた
フローレンが現れた
獣族の女性の下半身がどうなっているのか
お尻としっぽの境目はどうなっているのか
フローレンの露出の多い服を見るたび
想像し興奮していたが
いざその場に出くわすと
仲間のなんて恥ずかしくて
見れたもんじゃない
直ぐに視線を外し
「お、おい履いてくれ
フローレン」
「おっと
失礼した」
フローレンはパンツとズボンを
まとめて上げた
「履いたぞ
このあたりは魔物が出ないだろうが
一緒に帰るか?」
フローレンが居たら
命の心配はない
が
流石に意識してしまう
俺の下痢ピー見られてないよな
「ふ、フローレンは
あそこで何していたんだ?」
「ああ、おしっこだ」
「ご、ごめん」
「何故謝る
私の方こそ見苦しい物を見せてしまって
悪かったな」
「女性はマリーの結界内に
トイレがあるんじゃないのか」
「ああ、だが私は習性というか
習慣というか
休むときは周囲をマーキングしないと
落ち着かないんだ
人より犬だろう?」
道理でキャンプ中
魔物に夜襲で襲われる事がないのか
「いや、そんなことないよ」
「そういえば
博史ありがとう
お前が私を傷付けないように
止めてくれたんだろう」
「いや、覚えてないから
お礼言われても困るよ」
「いいや、しかも
仲間としてだけでなく
女性だから傷付けないって言われて
ちょっと嬉しかった」
「俺そんなこと言ってたのか
恥ずかしいな」
「まあ、私も好きで冒険者やってるから
傷は誉れだし
普段は普通にしてくれ」
門の前でブランが待っていた
「二人でどこ行ってたんだい?」
「ああブラン
心配してくれたのか
私のマーキング中
博史にばったり会ってな」
「男女で連れションかよ」
ブランは少し不機嫌そうに
集落の中に入っていった
「なんか
誤解されてるみたいだな
私が誤解解いておくから」
「大丈夫かよ」
「ああ、まかせとけ」
――――――――――――――――――――――――――――――――
出発の時
「すー
フローレンー
どうだ具合は?」
「ああ、
以前より良い感じだ
昨晩も目覚めてから
酒を飲んだが
欲を抑えれている感じだ」
「すー
そうだろうなー
お前はきちんと戦礼を受けたのだから
ところで君たちは
魔王を倒しに行くのかー?」
「うーん、そうなるのかな」
「すー
そうかー
後ろを向きなさい
皆に戦神のご加護が有らんことを」
「なんだ、ハヨォーヨ
おっぱい触ってたりしてたくせに
らしくないな」
「すー
ぷはぁー
おいらは一流のシャーマンだからなー
ほれ
来ると分かっていても
触れる」
ハヨォーヨはフローレンの胸を自然に触る
「刺す♥」
とフローレンの串刺しになり
「マリリン
治す―
あぁあん」
とまた傷が治った
「よく分かんねぇな」
キリヤがそう言い
不意打ちで
フローレンの胸に手を伸ばすも
マリリンの鉄拳に潰される
「お、教えてくれー
師匠ー」
潰された所からキリヤの切実な声がする
「すぅー
おいらは才能があるやつしか
弟子を取らないんだよ」
「そんな、このお、俺様に才能が無いのか?」
「すー
ぷはぁああ
全く無いね」
「茶番はいいから
もう行くぞ世話になったな」
そう言うとフローレンは背中を向けた
「すー
ああ
あ
そうだお前にも」
ハヨォーヨが手をかざすと
博史の右手の人差し指に
指輪のような模様が現れた
「指輪…?」
「すー
まあ、そんなような物だ
それは君が死んだとき
継承したい者に自然と継承される
幾千年経とうとも
おいらたちの部族は
その模様を持つ者を歓迎する」
「何故、それを俺に?」
「すー
さあ、何でだろうな
おいらにはそうすべき感じがする
としか言えない
ぷはぁー
実際今回も役にたったんだしなー」
マリリンの方を見てそう言う
「すー
君たちも
こんなところの近くを通ることは無いと思うが
いつ来てもおいらたちは歓迎するからな
フローレン」
「何故私を名指しで」
「同族だからだ」
「私には帰るところがある」
「すー
そうか
気を付けてなー」




