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「酒乱」スキルで異世界生活!? 記憶をなくしたら勇者になってました  作者: あいだのも
第二章 アルブジル熱帯雨林
19/74

第十九話 生まれを憎むな

確かにこの国の居心地は悪い

俺たちに奴隷制度になじみが無いからだろうか


俺たちの任務

街の外にある家畜の世話と

近くの魔物の殲滅だったが

留守の農場でも奴隷が働いていた


俺たちの任務内容には

彼らの監視も含まれている


家畜と一緒の部屋に住まわされ

逃げられない様

足かせと鉄球が付いている

家畜以下の扱いを受けていた


しかも狡猾というか

人間の性というか

奴隷の中に階級が存在しているらしく

働く内容自体は変わらないが

下の階級のやつは上の階級のやつの

鬱散晴らしに使われている


キリヤも獣族の女の子が叩かれているのを見ると

直ぐにでも飛びだしそうになるので

俺とフローレンで必死に止める

という場面が何度もあった



無事に任務を終え、報酬を貰いキャンプに帰ると、

『氷の刃』のスグルドたちが合流し、宴会が始まった



「なぁスグルド

なんでこの国を拠点にしてるんだ」

俺が尋ねると、スグルドは重い口を開いた


「魔王軍に対抗するには

人間が纏まらなくてはいけない

それなのに人の内部で格差社会を作って

別の生き物の様になっている」


確かにそうだ

今日の任務を経験して思った

この国の人間の敵は魔王ではない

何とは言い難いが

人間の性みたいなものだろうか


「嘘だな」

突然、フローレンが冷たく言い放った。

「博史、教皇の闇を暴くくらいだ

この男の事位わかるだろう

普通のやつはこの国に留まりたがらない

上層部の観光だけ楽しみ

下層は見向きもしない」


「な、ににお」

氷の刃の人達が立ち上がり

フローレンに詰め寄ろうとするのを

スグルドが手で制する


フローレン…

俺はそんな目で見られていたのが

いや、全然わからないし

教皇の件だって、結局何があったのかはっきりしないのだが…。


「そちは獣族だね

この国は獣族を奴隷として扱ってる

正直良い気持ちではないだろう」


スグルドの言葉に、フローレンは静かに答えた。

「確かに、私は幼い頃

この国のジャングルの奥に生まれ

拐われ、奴隷になり、姫に拾われ、今ここにいる

別に恨んではいない」

初めてフローレンの過去を聞いた

サラリと語るには、壮絶だ

昼間の物乞いの子供たちへの態度も、これで合点がいった


「…そっか

やはり、そちたちは凄いな…」


「この国の酒場はどこにあるんだい

腐ったような話は嫌いだ

あたいはそっちで飲んでくる」

ブランがイライラしたように立ち上がった


「あ、ああ、悪いね

辛気臭い話をしてしまって

少ないけどあるよ

ギルドの近くにあるけれど

下町だから女性が飲むなら

上層で飲んだ方が良いかもね」


「マリリンも行くー

ブラン一人だと

絶対に迷子になるしー」


「ま、迷子…

あたいは迷子になんかならないよ!」


「折角だしー

シューティングスターの女子会しようか!

男の子たちは上に行かない方がいいだろうしねー」


「悪い、私も上町は苦手なんだ」


「あら、フローレン残念ー」

女子たちは、そう言って街の中へと消えていった




俺らはいつも通り

街の外れのキャンプで飲み始める


「この国にも独自の酒はあるのか」

とチェンマンがスグルドに聞くと

彼は葉巻に火をつけながら答えた。


「あるよ

でもロマネンドの酒と大分違うよ

どこの家も果実酒を漬けているんだ

階級の低い家ほどある

葉巻もそう

ジャングルの原住民が持ってきたんだ

折角だから飲んでみなよ」


「ほう興味深い」



――――――――――――――――――――――


明け方

気が付いたら

全裸に剥かれ、正座している

『水の刃』のパーティ

それらを取り囲む

シューティングスター

遠巻きから見ている

アルブジルの人たち


…何があった…

いや、明らかに良くないことが

起こっているのだけは分かる


「なぁキリヤ

何があった?」


「博史気が付いたか

今回も派手にやったな

とはいえ博史どうするか

この状況」



――――――――――――――――――――――

【昨夜の回想】




昨日果実酒を貰って飲んでいただろう

初めはスグルド達と楽しく飲んでいたんだが

一人、また一人とアルブジルの住民が集まっていき

大宴会が始まった


その中の民衆の一人が叫んだ

「この国はひでぇんだ!

税は高くて

生きていくだけで精一杯なんだ!

富裕層は優遇され

俺たち貧困層は一生貧困のまま!

酒やタバコ、ドラッグに溺れなきゃ

生きている心地がしねぇんだ」

その一言を皮切りに


「そうなんだ…もうやってらんねぇよ!」

「この国の政治は腐っている」

「未来なんてないんだ」

と民衆の愚痴大会が始まった


そしたら、博史が拳を空高く突き上げ、歌いだしたのだ

「それなら一緒に

これから一緒に殴りに行こうかー

それ、やーやーやーやややや」

前世の歌に、言葉に、民衆が熱狂してしまった


「お前らシューティングスターが加勢してくれる!」

「武器を持て!今までのうっ憤を晴らすんだ!」

「金に汚い政治家たちを皆殺しだ!」

「革命だぁああああ!!」



「ま、待つんだ」

スグルドが制した


「なぜ止める!

お前も国王側なんだろう」

民衆の一人が問いかける


「…ああ、そうさ

富裕層側の人間でもある

有名人が来たから

流れで革命なんて起こされたら

たまったもんじゃない」

酒の力かあっさり白状した


「『シューティングスター』

一騎打ちで勝負を付けよう

俺らが勝ったら

大人しく引いて帰ってくれ」


「『水の刃』

名声は表向きで

裏ではシコシコ狡い事で小銭を稼いでいた

許せん」

彼らのファンだった悪ノリのボリスがやる気満々

とはいえ普通の会話に下ネタが入ってしまう


「あんたらなんかスグルドの出る幕じゃない」

相手は氷の刃

紅一点

女流剣士のチチャキカが

ボリスに対して出てくる


あ…とキリヤが何故か寂しい顔をしている

逆にボリスがやる気とは裏腹に

渋い顔をする

ボリスの悪ノリは口だけで

女の子にはめっぽう弱い


しかもボリスはロマネンドの任務で

取り残されて大泣きしていた

そこをマリーにつけ込まれたんだが

シューティングスターの心配がボリスに集まる


「ヤァアアアア」

ボリスが剣を抜く前

チチャキカが甲高い声でボリスに切りかかる

ボリスは鞘で剣を弾く


「くっ」

チチャキカが切り込まれない様

距離を取るもボリスは追っていない


「女だからって舐めてるのかぁあ」

再び切りかかる

チチャキカの剣を躱し

鞘をチチャキカの額に当てる


「このやろぉ」

「止めろ!」

「ですが、先生、私は」

「お前の負けだ」

スグルドがそう言うと

チチャキカは大人しく下がった


シューティングスターの中で

一か二番目に実力が劣るボリスが

手を抜いて勝てる相手

次のフェフチェンコ

フローレンにも全く歯が立たなかった


「もうこっちの勝ちが決まったようだけど

どうする?先生っ」

キリヤがスグルドに問いかける


「…そちが其方に勝ったら

他の者とも相手をさせてくれ」


「いいねっその心意気!」


だが武伝流免許皆伝を誇るスグルドでさえも

キリヤに遠く及ばなかった


キリヤは弄ぶかのように

鞘すら握らず

手刀でスグルドの服

全てを切り裂いた


スグルドは圧倒的な実力差を目の当たりにし

裸のまま土下座で降伏した


とりあえず反省の意を表す為

男どもはリーダーのスグルドと同じ格好にした


唯一の女のチチャキカにも

脱ぐように強要するキリヤ


この展開を見越し

スグルドの服を切り裂いた事に

クズっぷりが伺える


「筋を通せ」

フローレンもチチャキカに詰める


逆にその他の人達は止めている

俺は脱いでほしいと思いつつ

脱ぐべきでないと発言し


思考と言動の矛盾を感じていた


「確かに決闘に負け

皆が辱めを受けているのに

女だからって舐めているのか

と言ったからには

私も筋を通すべきね」

と上着を脱ぎ

シャツを脱ぎ

ズボンを下ろし

下着姿になり

正座した

おしゃれとは無縁の

鍛えた女流剣士の身体

腹筋が割れてはいるが

胸やお尻など

脂肪が付くところには付いている

下着は使い古した布本来の色

全く色気がない事が逆に良い


「博史、筋を通している女をジロジロ見ない」

フローレンから至極正しい

お叱りを受けてしまった

キリヤはというと

すでに潰されていた

キリヤにはマリーの呪いでも

仕込まれているのだろうか


さて本当にこのまま革命戦争に行くのか

ってところだ。



―――――――――――――――――――――

【回想終わり】


民衆は『氷の刃』を潰したぞ

とばかりに行く気満々

逆に俺らは酔いが覚めてきて

行く気がなくなってきている


てか、おれのせい?

俺がふざけて

チャ〇アス歌ってしまったから

こうなっているのか…?

父親世代の名曲ここまで影響力があるとは…


「それでどうする、博史」

どうするったってどうすんのよ

革命戦争なんて巻き込まれたくないさ…

とはいえ…

一緒に酒を飲んだ友が

こんなに劣悪な環境に

って知ったら放っておけない気持ちもある。


「フローレン

意見を聞かせてくれないか」

フローレンは仲間だ


彼女が辛い思いをしてきたのは

この環境を見ると想像がつく

フローレンが同じ境遇だった

民衆を放っておけないのなら

手を貸したい

俺は何も出来ないが


「私が決めていいのか」


「ああ、お前が一番彼らを理解できるだろうし

手を貸したいと思うなら俺らも手伝う」


「私は…

手を貸さない」


「!?」

国の人達の目線がフローレンに集まる

同族を裏切者のような目で見てくる人もいれば

革命だといきり立って

後が怖いと動揺している人もいる


「この国のやつらは

結局他力本願だ

強い奴らが来たから手を借りて自分は戦わず

自分の意見だけを通したいなんて

都合がよすぎる

こいつらも同じだ」

氷の刃の連中も渋い顔をしている


やつらも初めは

この国を改善しようとしたのだろう

証拠に今でもギルドと良い関係を築いている

でも結局は自分たちの無力さを知り

長い物に巻かれてしまった

そして当初の目標より

自分が良い生活が出来ることを望んでいる

それは俺もよく分かっている


「…意外だ」

とキリヤがびっくりしたような顔をしている


「なんだ、私がこいつらに同情し

手を貸すと思ったのか」


「いや、他力本願なんて難しい言葉知っていたんだ」


「…私のモルモットになりたいのか」


「フローレンのは一方的に刺されるだけ

俺様の望む形じゃないからやめておく」


「私もお前は好みでは無い」


「話は纏まったな

これ以上面倒ごとに巻き込まれる前に

次の国に行こうか」


「えーマリリンこの国の男抱いていないんだけど

回復魔法も使ってないんだけどぉ」

女子会を終えたマリー達が帰ってくる


「フローレンが手を貸さない

って決めてくれたから守るよ」


「はぁーい」


「最後にスグルドに忠告だけ

あまり悪い事し過ぎるなよ」


スグルドは顔を青くして

「わ、分かりました」



この国がこれから多くの犠牲の上に

自分たちの力で変わっていくのはまた別の話である



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