第十八話 噂に流されると裏切られる
テッシンと名乗る謎の男に襲われ、命からがら生き延びた俺たち。
しかし、パーティの雰囲気は驚くほど普段通りだった。
まるで昨夜のトイレ事件の方が、よっぽど重大事だったかのように。
旅は続き、熱帯雨林に入る前
小さな農村で物資の補給を済まし
遠くからでも見える山の方へ歩いていく
道の草木の背丈が徐々に高くなり
どんどん熱帯雨林の中に入ってく
道は舗装されておらず
赤土の道路が広がっていた。
太陽の光が木々の葉に遮られ
薄暗い緑のトンネルのような道が続いていた
周囲にはさまざまな鳥や昆虫の鳴き声が響き渡り
その音が一層の神秘的な雰囲気を醸し出していた。
 
雰囲気は美しい
旅行とか観光客が行けるような場所ではない
かなり贅沢な体験だが
熱帯雨林と聞くと危険なイメージがある
猛獣はもちろん、毒虫、底なし沼、暑さ
心配していたが
「マリリン虫大嫌いなの」
と広範囲でバリアを常に張っていて
案外快適に過ごせた
魔法があると
こうも楽勝だと思っていたら
「マリリンがいて良かったな
虫に刺されるだけで熱が出たり
最悪死んだりするから」
とほら吹きのミジムが言っていた
俺の心配は間違ってはいないらしい
熱帯雨林を5日ほど歩いたころ
木々を切り開いて作った街かわ現れた
「ここがアルブジル熱帯雨林の国だ」
熱帯雨林の中心に築かれた
神秘的な街
大樹の根元と枝の上に広がっている街は
階層構造で
木の上に吊り橋でつながれた家々が並んでいた
下層では市場が開かれ
南国の果物や香辛料が並び
その香りが通りを満たしていた
彼らの顔に家族や役割を示すペイントが施されていた
街の前の門の所に居た
短髪の剣士がこっちに寄ってきた
国境警備とかで
もめ事にでもなるのかと思ったら
気さくに話しかけてきた
「やあ、みどもは『氷の刃』のスグルド
そちらは『シューティングスター』だろう?
すごいね!
魔王軍四天王を倒すなんて」
いきなり手を差出し握手を求めて来た
「『氷の刃』って…受付のキャロットさんが言ってた
スキル無しのパーティーか」
「博史、『氷の刃』のスグルドって言ったら
剣の腕で知らないものはいないぞ
パーティはAランクだが
スグルドはSランク冒険者と比べて
遜色がないって言われてる
ロマネンド王国の期待の星だ」
と珍しく緊張気味に熱く語る
悪ノリのボリス
いつになく興奮した様子で熱く語る
どうやら、スグルドのファンらしい
「そんな、やめてよ…
受付のお姉さんも
そんなこと言わなくても
初期スキル無しでも
地道に頑張ってるだけなんだから」
照れくさそうにしている
「へぇー『氷の刃』って意外と謙虚なんだ」
キリヤも感心している
「身の程を弁えているだけさ
みどもは今ここを拠点にしてるんだ
よかったら町を案内するよ!」
「ありがたいけど
見ての通り
俺たちは大所帯
宿は取らず
キャンプで過ごすんだ」
「そうか
リーダーはそちだろう?
冒険者ギルドには
リーダーが顔を出した方が早いからな
連れていくよ
道中色々聞かせてくれよ」
とスグルドはキリヤの顔を見て言う
「いや、リーダーは博史だ」
「君か!意外だな!
実力順じゃないのか」
スグルドが得意げにそう言うと
周囲のスグルドの評価が
大した事なさそうだという雰囲気になった
確かに実力で言ったら
マリリンが一番上だしな
「ご指名だし
俺様も博史とギルドに言ってくらぁ
代わりにお願いなマリリン」
実力を買われているようで
いい気になっているキリヤ
「いいわよー」
ご機嫌なマリリン
男連中にマリリンと言われた事が
余程嬉しかったのだろう
街に着いたら
ギルドに俺が行かなきゃいけないのか…
知らぬ土地で一人で行くのも不安だな
マリー…いやマリリンに毎回ついてきてもらおうか
この国の生活水準はあまり良くない
上層はロマネンド王国のように栄華だが
下層は土と藁で作られてる小さな家が並んでいて
屋根は穴だらけ
雨が降ればすぐに浸水してしまう
家族全員が一つの狭い家で
身を寄せ合って生活していた
下層の一本裏道を覗くと
スラム街のような雰囲気
ボロボロの衣服をまとい
疲れ切った表情をしていた。
道の脇に小さな市場があった
そこに並ぶ商品は乏しい
腐りかけた野菜や少量の穀物
数匹の痩せた家畜が売られていた。
売り手たちは痩せ細った身体をしている
いたるところ
獣族が奴隷として働かせられていた
それだけでない
ここは酒や喫煙だけでなく
ドラッグのようなものまで萬栄している
稀に下層の裏道で
ゾンビのような足取りの輩が歩いていた
そんな下層にある冒険者ギルド
巨大な根が地表を這うように伸び
苔に覆われていた
木の幹には古代の文字や絵が彫り込まれ
昔のこの国の名残を感じさせた。
下層の中でもここはまともな建物だ
「千里の道も一歩から
アルブジルの冒険者ギルドへようこそ
あ、スグルドさん
貴方のお客さんですか?」
ロマネンド王国のお姉さんと
同じような顔、口調
違うのは
ここは熱帯雨林で暑いからか
ロマネンド王国のお姉さんの服装より
胸がはだけている
はだけた胸に緑色のブラが見える
ロマネンドの時は
一瞬チラッと見えるのに感動したが
見せブラだと
そこまでの感動は無かった
てか、もしかすると国によって
受付のお姉さんのブラは違うのか
「お姉さん
ここは暑いね
一緒に俺様の暑い物をジュルっと…」
と、ここでマリリンの鉄槌が落ちて来た
スグルドは目が飛び出たような表情をしている
そりゃあいきなり人が潰れたらそうだよな
慣れてしまった俺が異常なのか…
マリーは設営組でここに居ない
何か感じ取りマリーが落としたのか
マリーが俺らを監視しているのか
キリヤが下衆い事を言ったら
自動で落ちてくるのか
俺も下手なことを言うと
殺されるのでは…
「すみません
お姉さん驚かせてしまって
他の国に来るのは初めてなんですが
何か手続きがあるんですか?」
「いえ、とくには無いですよ
ギルドとしては知らせてくれると
任務を割り当てやすくなるので
ありがたいですが」
受付のお姉さんは
驚いた顔から
仕事モードの顔に戻す
流石プロってやつだ
「簡単めな任務を
まとめて受注しようと思っているのですが」
「噂には聞いています
大所帯のパーティですもんね
ですが申し訳ないのですが
この国は今ほとんど任務の受注が無いのです」
「そうなんだ
この国はお金持ちが
冒険者と専属で契約を結んでいるから
余りギルドに任務が降りてこないんだ」
スグルドが説明してくれた
確かに一見しただけでも
明らかな格差社会
俺は日本から出たことが無いから
実際の所は分からないが
ネットなんかの情報だと
こうゆう国は汚職やら賄賂やら
萬栄しているのだろう
「スグルドさんのパーティは実力があって
それでもギルドを通して受けてくれているので
こちらとしてはありがたいのです
あ、シューティングスターの皆さん
今受けれる任務は二つですね
中層部の老夫婦のおつかい任務と
街の外で留守の家畜の世話の任務です」
2つの任務を受注し
来た道を帰っていく
後ろから肩をトントンと叩かれた
振り返ると
少し汚れたシスターの服を着た女性が
一冊の本を持って立っていた
「あなた方は聖地ロマネンド王国から来られたのですね
神の国のお人
救世主信仰についてお聞かせ願いますか?」
俺の頭の中に?が巡る
俺が転生した国は神の国だったのか?
てか、この国にも宗教勧誘があるんだな
危うい宗教じゃ無いだろうな
とか思っていると
「はーい!
俺様は可愛い子ちゃんちゃん教です
でも君の脇の下から滴る汗を
一筋に舐めれるところまで
舐めさせてくれたら
改宗も考えちゃうかなー」
よくAVとかエ〇い話に出てくるあれだ
宗教勧誘の人を逆に襲うやつ
相手も警察沙汰にしたくないから
無かったかのように丸く収まるやつ
お世話になっておりました
案の条シスターの子は
何を言っているのか分からず
混乱している
「あーあれだ…
俺たちは確かにロマネンドから来たけど
宗教には無縁だ
降臨祭もただの祭りとしか捉えてないんだ」
スグルドが手慣れた感じで受け答えする
「降臨祭ってなんか聞いたことあるな…
あ!この前タヌキが辱しめを受けたやつか?」
「た、タヌ…まさか教皇様の事を…%’&$$&’&’$’%*」
博史の言葉を聞くと
シスターは狂ったように怒り
言葉にならない声をだし始めた
「お、おい博史、
何だこの女の子
いきなり怪物みたいになったぞ」
キリヤもびっくりし
走って逃げ出す
「ぎゃしきょjrt&%$」
もう何の言葉を発しているのか
分からない
追いかけてくるのを必死で撒いた
「はぁ…はぁ博史さん
駄目だよそんなこと言ったら
人は信じているものをバカにされたら怒るんだから」
スグルドに軽く説教される
確かに
俺に信仰とか
そう言うのは無縁だったから
理解は出来なかったが
人ってあそこまで変われるのか…
てかあのタヌキ
ちゃんと信者が居たんだな
一度パーティに戻り
請け負った任務を振り分ける
ブランは家畜の世話が出来ないため
ブランはルサーリカとチェンマンと
おつかい任務に即決
マリリンは疲れたから
またお留守番とのこと
フローレンとキリヤと俺で
街の外の任務になった
「マリリンがいない中
街の外に出るからな
塗っておけ」
フローレンから塗りクスリを渡される
この国には獣族が多い
この国にゆかりがあるのだろうか
本人が話さないのを無理に聞く事でもないが
薬を塗りながら
任務に向かう道中
服の裾をチョンチョンと引っ張られた
また宗教勧誘か…
と思い振り返ると
子供の獣族が手を差し伸べていた
「お腹空いた」
物乞いにあげてはいけないと
知識では知っていた
「そうかそうか
ちょっと待ってろ」
隣でもキリヤが同じ状況
キリヤは何かあげようとすると
「やめろ!」
フローレンがとめた
「なぜだ!こんなに可哀そうなのに」
「一度あげたら
際限なく付きまとわられるぞ」
知識では俺も知っていた
でも、実際に目の前に
そういう子がいると
断ることは出来ない
「お兄さんたち強いの?
僕たちを助けて」
子どもたちが涙目で訴えかけてくる
俺は突き放すことも
手伝えることも出来ず
どうしていいか分からず
立ちすくんでしまった
「ふざけるな
そう言えと大人に言われたのか?」
珍しくフローレンが怒声を上げる
子供たちはびくりと固まり、
走り去っていった。
「すまない
声を荒げてしまったな」
「いや、俺も見ず知らずの人に
助けを求められても
助けるのはいけない
と知ってはいたが
いざ自分を頼ってくる子どもがいると
何も出来ないな…」
「あいつらはそうやって良心につけ込んで生活している
子どもが涙目で大人に助けを乞えば
何かしてくれると知っているからだ
親は何もせず寝て起きて酒飲んで
子どもがそうやって稼いでいるんだ
そして自分も子どもを産んで
子どもに働かせる
もしくは奴隷として売り払う」
「なんだそりゃ酷いな!」
「酷いと思うのは
他人事だからだ
当事者にとってはそれが『普通』なんだからな」
フローレンの言葉が胸に突き刺さる
「そんな顔をするな博史
やつらは酷いと言われ同情され
それを元に言い訳して生きる事が『普通』なんだから
自分たちは可哀そうなやつだ
と本気で思っているなら
命を賭ければ変わる術自体は
いくらでもあるんだから
結局は愚痴を言っていて
も今のままが良いと思っているんだからな」
「あの変人フローレンが
訳分かんないことばっか
言っているぞ」
キリヤが茶化すと
「そうだな…
忘れてくれ」
とフローレンは軽く微笑んだ
 




