第十三話 マリーの憂鬱
私が生きてきた中で『今』は悪くない
朝街の宿で目を覚まし、パーティメンバーと任務に出掛け
日銭を稼いで帰ってきて酒を飲み
好みの男と熱い一夜を過ごす
私は今までこのような生活は送ってこなかった。
当然自身の過去に後悔は無い
特に目標も無く、志も無く生きるのも心地が良い
何より仲間達が良い
博史は勇者になれる器なのに謙虚で偉ぶらず
富、名声、名誉より、ささやかな日常を大事にしている
私には今まで分からなかった。
何かを得れば何かを失う
散々経験してきたはずなのに
そんな簡単なことが分からなかった
自分なりに何か状況を良くしようと
常に動いていた
でも、全てが裏目に出る
その裏目を良くしようとして、また裏目に出る
私が駄目駄目だったのかもしれないが
そもそも世の中そうゆうものなのだと
博史のお陰で今になって気付けた
ブランを見ていると昔の私を思い出す
特殊な環境で育ち
世の中に絶望し
自分を絶望から救ってくれた人に出会い
その人のそばに居たいと思う
今はブランの近くにいるから
ブランが可愛く応援してしまう
今思えば、もっと彼の事を見ることが出来たのでは、と思ってしまう
後悔がないと言ったけれど
こんなことを思ってしまうなんて
いや、違う
例え生まれ変わったとしても
同じ結果になったとしても
私は同じ選択をする。
だからこそ『今』がとても心地よい
酒場の皆
博史が求めている日常がそこにある
ただ、楽しく生きる
それがどれほど難しく、尊いことなのか、私は知っている
仕事、家族、恋人、友人、隣人、国、世の中、生活、災害
嫌な事の一つや二つは抱えているし、
人はえてして、嫌なことにばかり焦点が当たりがちだ。
それでも私達は死ぬまで生きていかなくてはいけない
それぞれの事情を抱えながら
皆が楽しく飲んでいる
それって本当に凄い事だと思う
もちろん私の目的は他にもある
あ、忘れていたキリヤはクズだ
そんな誰しも受け入れてくれる酒場が
私を受け入れてくれない
「マリーまたそんなのとお酒飲んでいるのかい」
一人でテーブル席に座りながら男を物色していると
隣にジョッキを片手にしたブランが座ってきた
「ブラン、美味しいものを飲んで
美味しいものを食べたら
幸せになれるのよぉ」
「げぇぇええ
甘ったるいし
太るから嫌だ」
ケーキとお酒のマリアージュを
誰も理解してくれない
「酒のツマミといったら、塩辛いものだろう?
よくそんなので酒が飲めるな」
博史が私の前にヒレ酒を持ってきて座る
博史は転生者
尊敬できる部分は多いが
魚のヒレを焼いて酒に入れて飲むように
度々奇行に走る
キリヤは遠くで
女のけつを追っかけて周っている
博史はむっつりだけど
キリヤと違い人には迷惑をかけていない
キリヤはそろそろ一発、ド突いた方が良さそうね
「博史くんこそ、それ美味しいの?」
「飲むか?」
といい差し出してきた
ブランがえっ…って顔をしている
「マリリンにそんな渋いお酒は似合わないわ」
「はははは何言ってんだ
オバサンにお似合い…ぐぎゃ」
遠くからキリヤの声が聞こえたから潰しておく
追いかけられていた女の子たちが
潰れたキリヤをガシガシと蹴っている
博史は渋いと言われて少し落ち込んでいる
彼もまだ20そこらの若造だからね
渋いと言われるのは嬉しくないのだろう
私はお酒を口に含み、飲み込み
少し苦みが残る口の中にケーキを放り込む
この苦みと甘味のマリアージュが
何とも言えない幸福感をもたらしてくれるのに
ブランと博史が「うええええっ」て顔をしてみてくる
「ちょっとー、そんな顔して見ないでよねー
マリリンも良い気持ちじゃ無いんだからねー」
「ごめんごめん
どうしても甘い物と酒が合う気しなくてな」
「博史くん試してみる?
ルサーリカ、勝手にカトラリー貰うわね」
ブランに気遣って
新しいフォークとグラスを魔法で手元に引き寄せる
博史は疑いの目を向けながら
ケーキを一口パクリと食べ
酒をちょびっと飲む
「お、意外と甘いと苦いで相まって良いな
酒も苦みと香りが強い蒸留酒だから甘い物に合うのか」
「でしょー
博史くんは分かってくれると思ってたのよ
どうブランちゃんも」
「あ、あたいは駄目だって!
太るんだから…」
ブランは酒よりケーキに興味がありそうだけど
我慢しているならこれ以上は勧めない方が良さそうね
「マリー、確かに美味しいけど
ケーキは一切れしか食べられないぞ」
うんうんとブランも大きく頷いている
「え、何で?
美味しいものはいくらでも食べられるのに」
ブランが何か言いたげな顔をしている
「いや、ケーキなんて一日に二切れ食べたら
甘ったるさで気持ち悪くなるだろう?
合わせるのは良いけど
どう考えても、酒が余るだろう」
「そうなの?
マリリンはお腹いっぱいになるまで食べても
太らないし、気持ち悪くならないから」
それを聞くとブランがぷくっと膨れた
博史のスキル
本人は何も言ってないが
酒を飲むと記憶を無くし強くなる
そんなスキル今まで聞いた事が無い
おそらく固有スキル
固有スキルなんて私も持っていないし
他に一人しか居なかった
ほとんどの人が固有スキルって言葉自体知らない
ブランとキリヤ私と博史
その気になれば、魔王とやり合う事が出来る
私は私の決着を、付けなければいけないのかもしれない
その時まで一時も長く
この時間が過ごせると祈っている
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