夜がながれる
生ぬるい夜風が
わずかに俺の躰をつつみ
その日の残り香を
すっかり奪っていく
おまえは何もかも奪う
俺は何もかも奪われる
夜がくるたび
こうして無臭となる
思想の匂いなど かけらもない
ゲルマン紙幣が俺の財布に貯まるたび
言葉をすっかり奪われる
そして車窓には
夜がながれる
夜がながれる
おまえはそれを望んでいたのか
もしかしたら そうかもしれない
言葉を奪われること
肉体が滅びゆくこと
精神の墓標を望んでいたのは
まぎれもない 俺自身だ
だから
車窓を見つめるネクタイ姿の男の内奥で
音楽のように 夜がながれる