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 両親はリーベミオが周りから心配されることでもとに戻ってくれるのではないか、そして自分の言葉は届かなくても他の言葉は届くのではないかとそう期待しているようだ。

 だけどそうやって誰かが寄ってくるのは、今のリーベミオにとっては本当に面倒なことだった。



 彼女はまだ七歳で、自分の力で何かを成し遂げる力をそこまで持たない。その中で出来る範囲のことを行動していこうとしている。

 その状態で、周りからの介入は本当に要らないものである。



 リーベミオの元を訪れる兄妹のような者達は総じて、彼女に笑いかけられることを望んでいる。

 以前のリーベミオはよく笑っていた。

 それは大好きな王子様の婚約者であること、大切な家族に囲まれていること、毎日が充実していたからである。



 過去のリーベミオは確かに幸福だった。

 だからこそ余裕があり、基本的に周りから反感を持たれることのないように常に笑みを浮かべていることが多かった。

 だけどそれらをする余裕など、彼女にはない。




 彼女にとって一番の幸福の要因であったレリオネルが居ないのだから。そもそも下手にこういう状況で笑顔を振りまいて、まともになったと判断されて婚約者を作られてしまう可能性が高い。

 リーベミオにとってはそんなものは不要である。彼女の王子様を取り戻すことが出来ないのならば誰かと結婚するなど考えられない。




「リーベミオ様、貴方の苦しみは私たちがどうにかします。だから、何を悩んでいるか言ってくださいますか?」

「……出来もしないことを言うのはやめて」



 まだどうにかすると断言しないならよかっただろう。だけど自分ならばリーベミオの悩みをどうにかすることが出来ると、そんな風に思い込んでいる様子に何とも言えない気持ちになるリーベミオである。

 全てが鬱陶しい。

 大事な王子様をどうにか取り戻すことしか彼女は考えられない。彼女の望みなんてそれしかない。それを告げたところで彼らがどうにか出来ることなど一つもないのである。



(……ああ、もう本当に邪魔)



 心配されても、心を込めた言葉も――すべてがリーベミオには意味を成さない。

 そんなことを彼らは全く理解もせずに、ただリーベミオに望み続ける。彼女からしてみれば一方的にそんなことを望まれても、嫌な気持ちでいっぱいになるだけだ。



「私は貴方達の助けなど不要なの。私のためを思うのならば、今すぐその口を閉じていただきたいわ」



 ――何もかも要らない、そう彼女は考えている。

 自分の行動を制限しようとしてくる者など、不要。それでいて愛しい王子様を取り戻すことしか頭にない彼女にとってその行動をおかしいなどという存在達は邪魔でしかない。



「リーベミオ様、どうしてそのようなことを……!」

「私たちはリーベミオ様のためを思って言っているのですよ」

「それが要らないと言っているの。私は貴方達に助けを求めていないもの。貴方達は私の行動を制限しようとしているでしょう? 私はそれが煩わしいの」



 リーベミオはそう口にして、わざとらしく大きなため息を吐く。

 その様子を見た子供たちは傷ついた表情になる。そして屋敷に仕える侍女達は咎めるようにリーベミオを見ている。



(傷ついた顔をすれば、すぐに周りが味方になるものなのね。これじゃあ私が悪いことしたみたい。でも不要なことには変わりないもの。それにこの子たちはこの位で傷ついているのなら、優しいリーベミオ・ロベルダを好きだっただけだと思う。今の私も含めて、私だもの。レリ様が居ないことを誰も信じてくれないこと、私も悲しかった。それには誰も寄り添ってくれないのに、こういう他家の子供には皆寄り添おうとするのね)



 リーベミオはただ冷めている。




 彼女は涙を流す暇があるのならば、前に進まなければならないと強くあろうとしている。だけれども家族が、侍女達が……周りの全てが彼女の愛しい王子様が居なくなったことを信じてくれず、リーベミオをおかしいと言ったことには傷ついていたのは確かだった。

 自分たちに理解出来ないものだから、“おかしくなった”と判断してしまうのは楽だったのかもしれない。

 だけどリーベミオは……少なくとも家族は自分の絶対的な味方で、自分のことを信じてくれるとただ無邪気に信じてしまっていたから、そのことは悲しかった。




「リーベミオ様!! いい加減になさってくださいませ! そのような言動を行い続けると、貴方様の未来は途絶えてしまいますよ」

「ふふ、そう、貴方はそんなことを言うのね? きっと私の為にと、そんなことを思って言っているのよね?」



 リーベミオにはその侍女――幼いころからリーベミオの傍にいたその女性が何を思って声を上げているかしっている。



 リーベミオのためを思って、将来を考えて――そんな言葉を並べてきっとそう言っている。きっとそれは正しい行為だと侍女は思い込んでいる。レリオネス・ユウディスが本物でないと知っていながら、これまでのように慕ったふりをして、王太子妃としての道を歩むことこそがリーベミオの幸せだと思い込んでいる。

 間違った行動を起こしている、リーベミオをただすためにと……侍女はそれだけの行動を起こそうとしている。



(……私の言葉を信じてくれたらそれだけでよかったのに。私は本気でレリ様が居なくなったことを知っていて、それがどうしようもなく嫌だった。周りが私の言葉を信じてくれたら、円満に婚約を解消して、レリ様を取り戻すために私は公爵令嬢として生きたと思う。でも信じてくれなかったから。おかしくなってしまったとその一言で私の本気の言葉を拒絶したから)



 そう、リーベミオが求めていたのは、信じてくれることだけだった。



 あのレリオネル・ユウディスが違うものになってしまっていたとしても、結局王族に対して何かすることは難しいだろう。だからそんなものを家族に求めていなかった。

 ただ信じてくれさえいればよかった。そうすればリーベミオはこんな風に敢えておかしくなったふりなどしなかっただろう。


(――そうね、周りが私をおかしいと言ったから、そう振る舞っているの。おかしくなかった私を、おかしいと拒絶したから。やっぱり要らない)



 リーベミオは目の前で彼女を説得しようと必死な侍女を冷めた目で見ている。



「貴方達は、要らないの」



 それだけ口にして、リーベミオは魔法を行使した。



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