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「リーベミオ!! どうしてなの! 貴方はとっても優しくて、優秀な子でしょう。なのに、どうして」




 扉の向こうで公爵夫人である母親の必死な嘆き声を聞く。



 部屋の中にいるリーベミオは、耳栓をして誰も居ない部屋の中で一人椅子に座っている。



 ――彼女はとあるパーティーで、暴れた。

 それはもう乱心令嬢と呼ばれるだけの狂いっぷりをあえて演じた。



 リーベミオ・ロベルダはおかしくなってしまった。嘘か真か分からない状況で人々はリーベミオのことを噂した。そういう噂の一つが出回っただけで、王太子の婚約者という立場の彼女のことを蹴落とそうとする者達は多くいる。

 だからそれこそ、あることないこと噂されていた。




 リーベミオは、そのことは把握していた。彼女はまだ七歳で、自身の諜報員などは持ち合わせていない。誰も味方が居ない状況なのにそれを知っていたのは他でもない家族や侍女達から言われたからだ。



『あなた、こんな風に噂されているのよ? もっと私の妹としてしっかりしなさい』

『リーベミオ、どうしてなんだい。君はずっとレリオネル殿下と婚約してから頑張っていただろう』



 そう、姉や兄に声を掛けられ、最初は嘆かれた。だけどリーベミオが全く態度を改める気がないのを知ると彼らの目は益々冷たいものへと変わっていった。

 自慢の妹であったリーベミオ・ロベルダが、出来の悪い家族とも認めたくない妹へと変化していったのだ。

 姉や兄はリーベミオのことを最早外には出したくないと思っており、妹だと認めたくないと思っているだろう。




 それこそパーティーでのやらかしから、一度も彼らはリーベミオに会いに来ていない。

 両親はこういう状況でもリーベミオに話しかけてくる。特に母親は、今のように嘆いてばかりだ。



(……お母様もさっさと諦めて欲しい。レリ様のふりをしたあの人は、婚約解消をすぐに受け入れたらしいのに)



 リーベミオのおかしさを知った王家は、ロベルダ公爵家からの婚約解消の申し出をすぐに受け入れた。レリオネル・ユウディスのふりをした何かはそれに反発もしなかったと聞いている。



(私のレリ様なら……私に会いに来てくれたはず。ただ受け入れたりはしなかったと思う。あの人にとって婚約者は私じゃなくてもいい)




 リーベミオにとって、レリオネル・ユウディスは特別で他に変えられないものだった。彼女の王子様にとってもきっとそうであっただろうとは思っている。……それが自分の思い違いだったらリーベミオは悲しいと思うけれど、それではリーベミオにとってはレリオネル・ユウディスはたった一人の特別だった。

 リーベミオ・ロベルダは乱心し、その結果婚約は解消された。




 そう、新聞などにも記載されているらしいと彼女は知っている。

 完璧だった公爵令嬢が落ちぶれたことで、それを面白がっている人が一定多数いることをリーベミオは知った。




 下位の使用人の中に落ちぶれたリーベミオに周りの噂を知らせることを楽しんでいるものがおり、わざわざ新聞も渡してきたりしていた。公爵令嬢であるリーベミオにそのような真似をするのは、本来ならありえない処罰されるべきものである。

 しかし彼女が周りから見て、落ちぶれてしまい、公爵家の中でも疎まれているからこそそんなことをしても問題ないと勝手に判断しているらしい。





(……お父様もお母様も私に元に戻って欲しいと悲しんでいるご様子だけど、私のことをなるべく聞きたくないとも思ってそう。前だったらそういう私に対してそんな態度をしていた使用人がいればすぐに注意がいったはずだもの。それに私付きの侍女達も今は嫌々私についている感じだもの。表面上は笑顔だけど、裏で悪く言っているのを知っているもの)




 リーベミオはその変化に対して、驚きはすれど、それ以外の感情は特に抱いていない。

 それは彼女が信じてくれない家族に対する期待をやめてしまったからかもしれない。家族は自分を愛していて、信じてくれる。そう期待していた頃の彼女がこういう状況に陥ったならばきっと悲しんだことだろう。




「リーベミオ!!」





 外からの自分を呼ぶ声も、周りの反応も――全て受け止めた上で、彼女は特に無感情だった。





 それよりも重要なのは、彼女の王子様に関することなのだ。

 自分のことを信じてくれない家族や周りなどよりも、彼女の大切な王子様を取り戻すためにはどうしたらいいかというのをずっと考えている。

 立ち止まっている暇など、彼女にはないのだ。




(どうしてレリ様が居なくなったかとか、本当にレリ様を取り戻すことが出来るかとか……そんなことを悩んでいても仕方ない。なんでもいいから手がかりを見つけないといけない)



 時折、大切な王子様が居ない事実に泣き出しそうになるけれどそんな暇などないと彼女は自分を鼓舞するのだった。



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