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「婚約を解消しよう」




 一か月ほど、リーベミオは籠って、あまり誰とも喋らずに思考していた。




 ロベルダ公爵領に戻ってきてから、彼女はずっとその調子である。枕をぎゅーっと抱きしめて、天蓋付きのベッドに寝転がっているリーベミオはぽつりとつぶやいた。





 その間にレリオネル・ユウディスの姿をした何かは、リーベミオに手紙を送ってきた。

 その筆跡も、書いている言葉も……彼女の王子様のものでは決してなかった。

 当たり障りのない書き連ねた言葉たち。それは当たり障りのないものでしかない。これまでリーベミオはいつもレリオネルからの手紙を心待ちにしていた。だけど、こういう状況になったからこそ……そんな手紙など、どうでもいいと思ってしまった。





 周りは散々、態度を改めるようにとそればかり口にしていた。

 リーベミオが、こういう態度をするのは彼女がおかしくなったからだとそんな風に思われてしまっているのである。





 さて、もしかしたらしばらくすればレリオネルが帰ってくると期待していた。でもそれはおそらくないだろうと思った。もし戻ってくるなら、レリオネルの方から何かしら接触があるはずなので、その時はその時だと考えた。



 リーベミオはレリオネル・ユウディスのふりをした何かと関わらずに過ごしていきたいと思っている。このまま愛しい王子様のふりをした何かに婚約者として過ごすのは嫌だった。

 だからリーベミオは婚約破棄をする計画を立て始める。




(まともな方法じゃ駄目。王太子の立場の人と、婚約を解消したいと言っても頷いてはくれない。お父様とお母様も私が一時的におかしくなったなんて噂しているから)




 リーベミオは、一人、思考し続ける。



 自分の考えを整理するために計画を紙にでも書き留めようか……というのも一瞬頭をよぎったが、そんなものが見つかればリーベミオの望む婚約解消への道は途切れてしまうだろう。

 彼女は幼い頭を一生懸命稼働させ、どのようにすればレリオネル・ユウディスの姿をした何かと婚約解消が出来るだろうかと……計画を練り始める。



(……誰かに助けてもらいたい気持ちはあるけれど、駄目だわ。私の考えも、私の気持ちも、お父様達だって分かってくれなかった。だから……他の誰かに言ったところでもっと状況が悪くなるだけ。下手したらお父様達に密告されてしまうわ)




 ――意図的にレリオネル・ユウディス王太子殿下との婚約を破棄しようとしているなどと知られてしまえば、それは拒否されるだろう。齢七歳の娘がそれだけ頭が働くということを知れば、彼らは王妃になるべきと判断するかもしれない。

 それも悪意があるものではなく、善意で彼らはきっとリーベミオにそう言うだろう。




(きっと私の計画を知ったら私がただの気まぐれで、一時的にそう思っているだけと思われてしまう。そして私のためを思ってなんて口にして、そのまま婚約者であることを強要されると思う)




 ひと月の間、リーベミオは家族が自分の気持ちを分かってくれるのではないかと期待していた。




 大好きな絵本で、話し合いをした結果分かり合う物語があった。

 字を覚え始めた当初からずっと呼んでいるその絵本の主人公のように、話せば分かり合えるのではないかとリーベミオは思っていた。



 だから言葉を紡いだ。

 けれどその言葉は家族にだって、周りに仕える侍女達にだって届かない。交流を持っている貴族の子供達からの手紙も最近は途絶えている。……それは両親が幾ら緘口令を敷いていたとしても少なからず噂になっているというのはリーベミオにも分かった。




(……お友達だと思っていた令嬢達も、私の言葉を聞いてはくれない。寧ろおかしくなった公爵令嬢に対して関わらない方がいいと思っているのだろうなぁ)




 リーベミオには友達と言える存在が多くいた。それは公爵令嬢という彼女の立場に寄ってきた存在が多いが、それでも会話を交わすことで少なからず互いのことを心配できるような関係性にはなっていたはずである。




 それか本人たちはリーベミオに関わりたいと思っていても、きっと親が止めている場合もあるだろう。

 王侯貴族たちにとってそういう評判は重要なものなのだ。少なからず今の現状が公爵令嬢としてのリーベミオの傷とはなっている。それが分かっているからこそ、彼女の両親は現状を外になるべく出さないようにしているのだ。





 リーベミオは一人である。

 誰かに相談なども出来ない。現状、頭にある計画を誰かに知られるわけにもいかない。

 リーベミオの計画は、彼女の頭の中でひっそりと練られていく。




 王太子の婚約者。その立場はこの国にとって特別なものだ。その立場にリーベミオが収まることが出来たのは公爵家の血筋であるという点と、彼女自身が優秀であったこと、そして他でもない本人たちが望んだからだった。

 幾らでもレリオネル・ユウディスの婚約者の座を望む者は多くいるのだ。それこそリーベミオやロベルダ公爵家を蹴落としてでもその地位につきたがっている者も多い。




 それをリーベミオはよく知っている。

 それだけ王太子の婚約者の立場についたリーベミオに、様々な接触をしてくる者達は多くいたのだ。




(こうして、ああして……そういう姿を見せ続ければ、私が王太子の婚約者として相応しくないと判断されればそれでいい。それにそうすれば私の今後のためにもなるわ。益々周りの目は厳しくなるだろうけれど――それでも私はこのままは嫌だから)



 リーベミオは一人、決意をした。





 そしてリーベミオの練った計画は、無事に決行され、そして驚くべきことに成功してしまった。

 その結果、彼女は乱心令嬢として名を広め、王太子の婚約者の地位を辞することとなった。


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