⑦
10/14 四日目
さて女神を殴り、一息ついた後――別の神がその場に現れる。その神は、リーベミオと同じような黒髪を持つ女性である。その神を見た瞬間、リーベミオの前でこくこくと頷いていた駄女神は慌てた様子を見せる。
「……ど、どうしてこちらに」
「貴方がやらかしたからでしょう。……放っておいた私達にも問題はありますが。ごめんなさいね、リーベミオ、レリオネル。二人の話は精霊たちからよく聞いております。私達も……中身が変わったとしても結局気づかないままで、どうも変わらないだろうなどと思い込んでおりました。まさか、力づくで精霊の元へ辿り着き、それでいて神を殴るだけの力を手に入れるなど本当に想定外です」
その神は、やらかした女神よりも上位の存在なのだろう。彼女はそのままリーベミオとレリオネルの方を向く。
リーベミオからしてみれば、やはり警戒するに値する存在ではある。
真剣な表情で、リーベミオは神を見ている。視線をくっきりと合わせて、全くそらさない。
「全く本当に、面白い子たちです。私を前にしてまっすぐに視線を合わせられる存在がどれだけいることか。それだけ意思が揺るがない証でしょうけれど。人と言うものは本当に面白おかしいものです」
「面白がるのは結構ですけれど、私は……貴方達神々が私達人に好き勝手干渉し、私達と同じような目に遭わせるというのならば気に食わないから抗います」
「ふふっ、それでも構いませんわ。そもそもこの子は別として、私達神々は精霊同様に基本的には人に関わらないものです。だから安心してもらっていいです。本当に心配なら、私達を監視してもらっても構いませんよ。貴方達にはそれだけの力があるでしょうから」
リーベミオがどれだけ不敬な言動をしていても、その神様はにこやかに微笑んでいる。
本気でそういうことをされても問題がないとでもいう風に、穏やかに微笑み、全てを受け入れるような様を見せている。
「貴方がそう言っても、他の神は違うのでは?」
「レリオネル・ユウディス。貴方には特に迷惑をかけてしまいましたね。私たちにとっても、この子がやらかした後に、貴方という存在がこうして残ることは例外的なことでした。結局、私達からしても魂を入れられ、追い出された者は消えることが多いのですよ。それに耐えられるだけの精神状態を持ち合わせていないから。だから……やらかしてしまった後はどうしようもないとそう思い込んでいました」
神は語る。レリオネルの方を見ながら、本当に例外的だと。そんな言葉を聞いて、リーベミオは警戒した様子を見せる。
「それで、例外だからレリ様を奪うというなら許しません」
「まぁまぁ、そんなに警戒をしないで。そのようなつもりはありませんわ。寧ろ私は貴方達のことを素晴らしいと思っているのですよ? 人知を超えた力に遭遇した時、人は諦めてしまうものですわ。それこそリーベミオ、貴方はただ一人、レリオネルの事に気づいて、その結果周りから孤立したでしょう。それでも――レリオネルを諦めなかった。貴方が居たからこそ、きっとレリオネルは残ったのでしょう。だから、そのまま生きればいいと思いますの」
にっこりとほほ笑む、神。
彼女はリーベミオとレリオネルを害するつもりはない。安心させるために笑みを浮かべるが、二人はずっと警戒をしているのである。
「精霊たちに聞いている通り、リーベミオ。貴方の寿命をレリオネルと同じように伸ばしてあげますわ」
神は微笑む。
レリオネルは、警戒するように口にする。
「それは有難いですが、リーベに何かするようなら僕も抗います」
「本当に警戒心が強いこと。私がそんなことをしてしまったら精霊たちに反旗を翻されてしまいますわ。貴方達は精霊たちのお気に入りですもの。それに私自身も貴方達のことは気に入っているのは本当です。幼いころからの純愛、とても素晴らしいと思いますの。もし私の行いで彼女に不調があるならいくらでも私に抵抗いただいて構いません。お詫びはしなければなりませんから」
神はそう言い切る。
その言葉にリーベミオとレリオネルは顔を合わせて、そして頷く。
神という存在に対しての信頼は特にない。寧ろやらかした女神の件があるので、思う所はある。
しかし共に過ごしてきた精霊たちは笑っている。
それでいて神には敵意がないことは明確に分かる。
だからこそ、リーベミオは「お受けしますわ。私の寿命をレリ様と同じようにしてください」とそう言って微笑んだ。
それはリーベミオにとっては必要なものだったから。
レリオネルを置いて先に亡くなるなんてことは絶対に避けたいと、そう彼女は思っていたから。
それから神は、リーベミオの寿命を延ばした。それは神の祝福とでも言えるものである。
「もしこれで寿命が延びていなかったら、抗議にきます」
「ええ。どうぞ」
リーベミオの言葉に、神は笑った。
「ああ、そうだ。リーベミオ、レリオネル。一つ、人に私は神託を下します。本当に今回はごめんなさい。その気持ちは本当ですので。そしてこの子のことはこれから私たちが責任を持って、監督しますわ」
リーベミオとレリオネルが神界から去ろうとしている最中、神はそう言って微笑んだ。