⑥
10/14 三話目
「貴方は、レリ様の顔に心当たりはない?」
リーベミオは女神に対して、冷たい瞳を向けて問いかけた。
今のレリオネルの姿は、その魂の形。だからこそ元の姿とほぼ同じものである。
それを見ても、女神はぴんとは来なかったようだ。
「美しい青年だとは思いますが、私に何か関わりが? レリというの――」
「貴方がレリ様をレリ様と呼ばないで。レリ様をね、レリ様って呼んでいいのは私だけなの」
「ひぃ」
レリオネルのことを覚えていないこと、それでいてリーベミオだけの名前を呼んだことにリーベミオは怒っている。……女神からしてみればなんとも理不尽な話だが、リーベミオからしてみると、目の前の女神は敵である。
その様子を見ながら、精霊たちは楽しそうにくすくすと笑っている。
「僕はレリオネル。……貴方がはた迷惑な行いをしたせいで、僕とリーベは大変なことになったんだから」
「リーベと……ひぃ」
「僕のリーベをリーベって呼ばないで。リーベミオって呼んで」
「は、はい」
はたから見たら……というより実際問題、面倒なカップルである。
女神からすれば、レリ様とリーベという呼び名が互いだけのものだというのも知らないので、こういう態度になるのも当然なのである。
「ええっと、レリオネルとリーベミオという名前は分かりましたが、私の行いで迷惑とは……?」
訳が分かっていないという女神に、二人は目を吊り上げる。
「本当に自分の行いがどれだけ周りに迷惑をかけたか、分かってないなんて。本当にデーヴィ達に聞いたとおりに貴方はまるで遊びか何かのように、人間の人生を狂わせている」
その橙色の目が、じっと女神を見る。女神はそれでも理解しない。
「……貴方は九年前に、異世界の魂を僕の体に入れただろう。それで、僕を本来の体から追い出した。そうであると僕は精霊たちから聞いている。そのことに心当たりはないのか?」
何も理解していない、女神に分かりやすくレリオネルは説明をする。
「異世界の魂……? はっ」
女神はその言葉を聞いて、はっとした様子を見せる。何かに気づいた様子で、おそるおそるとでもいう風にリーベミオとレリオネルの方を見る。
「え、いや、確かに……。私はとある王子の体に異世界の魂は入れましたけど。ええええ? 追い出された魂が、まだ消えてなかった? 目の前にいる? 見た目は本当に似ているけれど、ええええ?」
「なに? 消える予定? 私のレリ様が? 何してくれているの? 私のレリ様を完全に消そうとしていたの? はぁ?」
「ひぃい。えええと、基本的に体を離れた魂は、そのまま消えるか天にかえることが多いのですよ。私がこれまで入れ替えとかした時もそうだったし」
「……貴方、今回だけではなく他にも何回もやっていたのね? 最低だわ。人のことを玩具か何かだと思っているのかしら? はぁ、本当にこんな駄女神を放っておいた神たちにも責任はあるわね。本当に、私のレリ様が消えることがなくて良かった。私はレリ様が居なくなっても無理やり取り戻す気だったけれども、それでもやっぱり帰ってきてくれて本当によかった……」
女神を詰めた後、レリオネルの方を見てリーベミオは柔らかい笑みを浮かべる。
「うん。僕も消えなくてよかったよ。もう二度とリーベに会えないなんてことがあったら悲しくて仕方がなかったから」
「私も……。だって私はレリ様にもう会えなかったら生きている意味なんてなかったから」
そうしてまた二人の世界に入りかけていたが、そこまで口にして女神の方に視線を向ける。レリオネルに向けていた視線とは全く違う。ただただ、汚物を見るような瞳。
「女神、貴方の行いで私はレリ様を失いかけたの。その罪が分かるかしら」
リーベミオにとっては、それは大罪である。
許すまじ行為。それを行っておきながら、のうのうと生きていた女神に苛立ちしかない。
「私はね、私のレリ様を奪う存在を許せないの。それに貴方がこれまでもこんなことをやらかしていたことは許されないことだわ。貴方が神であり、人という存在がどうでもいいとそんな風に思っていたとしても――それを私は許さないわ。私のようにこうやって物申しにくる人間が居なかったのかもしれないけれど人を甘く見るのではないわよ!!」
リーベミオは怒っているのである。それこそ憤怒しているといっても過言ではない。
……これだけ殴りに殴ったが、まだまだ殴り足らないぐらい鬱憤が溜まっている。
「これまでの被害者がいるだろうから、私は貴方も、他の神々も――正直言ってどうしようもない連中だとそう思ってならないわ。私はレリ様を取り戻すことが出来たけれど、それは結果論でしかない。これからまた同じようなことをするというのなら、私は何度でも貴方を殴るし。私が死んだ後も神がそういうことを出来ないような仕組みを私はこれから作ってみせるわ。好き勝手なんてさせたくないもの。分かった?」
「……はい」
リーベミオは、それこそその女神だけではなく他の神々にも反旗を翻すような言葉を口にする。
その威圧を受けた女神はそのまま頷くのであった。