④
「ふふっ、ここに例の女神が居るのね!」
「リーベ、遊びじゃないんだよ?」
リーベミオとレリオネルは、デーヴィの話を聞いてすぐさま頷いた。
レリオネルからしてみると彼女が危険な目に遭うのは嫌だと思っていたが、それでも本人が「レリ様と一緒に生きていきたいの」と笑顔でいうので断ることなど出来なかったのである。レリオネルは、随分彼女に甘い。それも惚れた弱みであると言えるかもしれない。
精霊たちに連れられて、彼女たちは件の女神が居ると言う場所まで案内されている。
――女神を殴りに行くという、大層なことをやらかそうとしているにも関わらず通常運転である。その様子にデーヴィも含む精霊たちはおかしそうに笑っている。
リーベミオという少女にとってみれば、神だとか精霊だとか――信仰対象である彼らはその他大勢でしかない。大切なのはレリオネルだけであり、女神と呼ばれる存在も自分からレリオネルを奪おうとした不快な存在である。
そしてレリオネルにという少年にとってみても、一番大切なのはリーベミオである。自分のことを取り戻そうと動いていた少女。ただただ自分のことを愛してくれている大切な少女。彼女が望むならとこうして女神を殴りに行こうとしているあたり、こちらも大概である。
さて、彼らが訪れているのはとある湖のほとり。そこから件の女神が居る場所へ行けるということで、向かっている。
――その神様の領域、所謂神界と呼ばれるような場所に足を踏み入れてもリーベミオとレリオネルはいつも通りである。
「向こうからしてみれば私たちは不法侵入者かしら? でもその女神が悪いわよね? 私からレリ様を奪おうとしたのだもの。レリ様のことを取り戻せたから良かったものの取り戻せなかった可能性も十分あったわけでしょう? 私はそうなればレリ様と一生会えないなんてことになっていたかもしれないもの」
リーベミオの目は笑っているが、笑っていない……といった少し恐ろしいものだ。
きっと女神に対して色々と思うことがあるのだろう。
神の領域に足を踏み入れた彼女たちは、ずかずかと進んでいく。
その件の女神に対しての崇拝するような気持ちはないのだろう。
「リーベミオもレリオネルも、全然臆してなくて面白いね?」
「神界に訪れるというだけでも足がすくむ人も多いのに」
同行している精霊たちにはそう言って笑われる。
「精霊たちはこうやって神界に人を案内することも多いの?」
「ううん。全然!! そもそも神様にお目にかかれるような存在っていうのは、何かを成し遂げた凄い人間ばかりだもん。リーベミオ達みたいに、殴りに行こうとする人なんてまずいないよ」
精霊の一人にそんなことを言われる。
リーベミオはその言葉に少し考えてみる。
(確かに神様などの逸話に関しても、人が関わっているのは基本的に神に認められるだけの功績を残したとか、それか神を怒らせたかとかそういうことが多い気がする。そもそも神が関わるような事態が起こることはほとんどないだろうけれど)
だからこそ、こうやって神様を殴りに行ったり、物申したりしようとしているリーベミオとレリオネルというのは本当に珍しいと言えるだろう。
「貴方達、何者ですか!」
――リーベミオ達が神界を歩いていると、その場に美しい女性が一人現れる。真っ白なワンピースを着た神秘的な雰囲気の女性。
美しい絹のような金色の髪を持つ存在。
……その存在感から、神なのだろうなというのがリーベミオには分かった。
真っ先に気になったのは、こんなに綺麗な人を前にすればレリオネルが見惚れてしまうようなそんな美しい見た目を持ち合わせているから。
ちらりとリーベミオがレリオネルのことを見ると、特に見惚れた様子はなくほっとする。
「レリ様」
「どうしたの、リーベ」
「あの人、綺麗だけどレリ様が見惚れてなくてほっとしたの」
「そうなの? 僕はリーベっていう一番綺麗な女の子が傍にいるから、他の人なんて目に映らないよ」
「……レリ様!!」
リーベミオは嬉しそうに笑って、レリオネルの手を握っている。こういう場所じゃなければ迷わず抱き着いていただろう。
どちらにしても、イチャイチャしていることには変わりがないが……。
「なぜ、私のことを無視していちゃついているのですか!! 失礼な人間たちですわ!!」
それにしてもなんていうか、あまりにも品がないとリーベミオは感じてしまう。
新米の、神としてはまだなり立ての存在だからこそなのかもしれない。何にせよ、こうしてレリオネルと仲良く喋っているところを邪魔されてしまうのはリーベミオには不快である。それはレリオネルにとってもそうだったらしい。
「煩いわ。貴方のせいで私は多大な被害を被っているの!! だというのに、レリ様との会話まで邪魔するなんて」
「貴方のせいで僕はリーベと触れ合うことが九年も出来なかったんだ。文句を言わせてもらうよ」
……リーベミオも、レリオネルも神相手に容赦をする気がなかった。
その様子をおかしそうに、楽しそうに精霊たちは見守っている。