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10/13 二話目
「女神……?」
「……楽しんでいる?」
リーベミオとレリオネルは、訝し気な表情を浮かべる。
なぜなら、女神などという存在についてリーベミオとレリオネルは関わったことがない。精霊という信仰対象である存在も――こうして出会い、交流を持つまでは実在しているかどうかを二人は把握できていなかった。
それが今度は神様が実在するということまで聞かされたので、驚くのも無理はない。
「そう。この世界を生み出した神たちというのは、存在している。そしてその神は基本的には人の世には関わらない。それは私達精霊と同じである」
「神様って、人に関われないようになっているのですか?」
「関わらないようになっているのに、僕には関わったと……?」
デーヴィの説明を聞きながらも、リーベミオはレリオネルにべったりとくっついている。もう二度と離さないとでもいう風に、その手を離す気はないようである。
「だからこそはた迷惑な女神なんだよ。神になってまだ間もないからこそ、そういうことをやらかす。自分の見たいものを見られればいいときっと思っているのだろう。レリオネル・ユウディスの体を現在使っている魂に力も与えているようだ」
呆れた様子でデーヴィがそういうのを見るに、神の中でもレリオネルの事に関わっている女神は困った存在なのだろう。
「他の神に連絡を取ってリーベミオとレリオネルのことは伝えてある。神の迷惑な行動の被害者であり、それによって人生が明確に変わってしまったものであると」
そう口にしながら、デーヴィは笑みを浮かべている。
デーヴィにとってはリーベミオとレリオネルの存在は面白いもので、だからこそ今の状況さえも楽しんではいるのだ。
「それで……? その迷惑な女神については分かりましたけれど、私がレリ様と一緒に歩めるようになるとは?」
「そう焦るな。もう少し話を聞け」
本題はまだかとでもいう風に逸る様子のリーベミオに、デーヴィは宥めるように言う。そしてそのまま続ける。
「神たちは件の女神にご立腹だった。元々、神たちは矮小な存在であるその新米の女神をよくは思っていない。何かしらやらかしていることに対して、呆れた気持ちを抱いていた。だけど神たちが女神を放置していたのは、取るに取らない存在だったからだ。だからといって放置していたからこそこういうことが起きてしまったと、神たちは君たちに謝罪をしたいと言っていたよ」
告げられた言葉は現実味がなくて、リーベミオもレリオネルも驚いた表情である。
いきなり神たちが謝罪をしたいと言っていると告げられても頭に入ってこないのは当然だろう。
「それでだ。リーベミオ、レリオネル、件の女神に物申しに行ってみないか?」
「え? 女神に? そんなことが出来るのですか? 出来るのならば私のレリ様に何をしてくれているのと殴りたいですが」
デーヴィの言葉にリーベミオは早口で言った。
彼女はレリオネルを取り戻せたことを喜んでいるものの、その元凶である存在など許せないと思っている。
相手が女神だと分かった上で殴りたいなどと物騒なことを告げる彼女に、デーヴィは噴き出している。
「リーベ、流石に女神を殴るのは駄目じゃない? せめて口で黙らせる感じにするとかさ」「でも殴りたいわ。だって私からレリ様を奪おうとしたのよ!!」
「うん。僕も怒ってはいるよ。だってそういうことが起こらなければ僕は当たり前にリーベと暮らせたはずだから。ただ、こういう状況になったからこそ……僕はリーベを独占できるんだって嬉しい気持ちもあるんだ。元のままだとリーベは次期王妃として沢山の人達に囲まれることになったでしょ? それに王族という立場のままだったらいつでも自由にリーベと一緒にいるなんて出来ないだろうし。僕はこれからリーベと一緒に居たいだけ居れるんだなとそう思うと楽しみなんだ」
「レリ様……っ!! 私もそうですわ!! レリ様のことを私は独占するから、レリ様も幾らでも私のことを独占して!」
リーベミオはレリオネルの言葉に感激した様子で、べたっとくっついたままである。
女神の話を聞いている最中だというのに、この二人は何処までもマイペースである。
「ははっ、本当に君たちは面白いな。その件の女神を殴るのも、口で黙らせるのも問題はない。神たちはそれぐらいしても構わないと思っているようだ。その女神にとって、取るに足らないはずの人間に説教をされれば大人しくなるだろうということだ」
「いいんですか!? でも私、女神を殴る力ありますか?」
「リーベミオはそれだけの力は持っている。それに私達精霊もその場には同行するから問題ない。レリオネルも私たちが作った体だから、女神に力を振るうぐらいできるだろうしな」
簡単にデーヴィはそんなことを言ってのけた。
……リーベミオはただレリオネルを取り戻すためだけにひたすら力を蓄え続けたわけだが、その力は既に神に通じるものに至っているらしかった。
精霊界でも「もう二度とレリ様を奪わせないために」などといって、魔法などを磨き続けていたのである。
「――それでそれを成し遂げた後に、神が祝福を与えてくれるとのことだ。リーベミオがレリオネルと同じ時を歩めるように」
デーヴィはリーベミオとレリオネルを面白そうに見ながら、そう告げた。