②
「レリ様レリ様レリ様レリ様………」
リーベミオはレリオネルの体に思いっきり抱き着いている。そしてその名をずっと呼び続けている。
精霊たちの生成したその体は、元のレリオネル・ユウディスの体と似ている。真っ白な雪のような髪に、夕焼け色の瞳。それこそフィーチャレエや精霊たちが見ていた魂のみの彼の姿そのものだった。
リーベミオが彼を失ったのは七歳の時だった。――今、目の前にいるのはリーベミオと同じ年頃の美しい青年である。身動きが取れないほどに抱き着かれて、それを抱きしめ返している。
リーベミオがレリオネルを心から求めていたということが分かって、それでいて大切な女の子に触れることが出来るのが嬉しくて――レリオネルは思わず泣き出してしまいそうになる。
「リーベ……」
「レリ様……。貴方の声をこうして、また聞けて嬉しい。大好き、レリ様」
「うん。僕も大好きだよ。リーベ。ねぇ、キスしていい?」
「ふふっ、もちろんですわ! レリ様なら、許可なんていりませんもの。幾らでも!!」
リーベミオがそう告げると、レリオネルは優しい表情で微笑み、その頬に手をやると口づけを落とす。彼女は瞳を閉じて、それをただ受け入れている。
……この様子は当然、周りの精霊たちには目撃されている。
「すっかり二人の世界に入っているな」
「わぁー、キスしてる!!」
「よかったね、リーベミオ」
周りの精霊たちはそれはもう騒いでいるが、リーベミオとレリオネルは二人の世界である。周りなど全く見えない様子で、何度も何度も――これまで触れ合えなかった分を取り戻すかのように口づけをする。
「レリ様がこうして私の元へ戻ってきてくれて、私、本当に嬉しいの」
「リーベのおかげだよ。リーベが、僕を取り戻そうって頑張ってくれたから。だから僕はここにいるんだよ。君が僕を諦めないでいてくれたから、僕が居ないことに気づいてくれたから――だから、僕も諦めなかったんだよ」
レリオネルはそう言いながら、ぎゅっとリーベミオの体を抱きしめている。
例えばリーベミオがレリオネルを取り戻すことを諦めて別の未来を歩んでいたら、例えばレリオネルが居ないことに気づかずにレリオネル・ユウディスの姿をした別の何かを愛していたら――。
そんなことが起こっていたら、レリオネルは自分の体を取り戻すことを諦めていただろう。
「ねぇ、レリ様。どこにももう行かないでね。私はレリ様が何処にいるか分からなかった二年間も、傍にいても姿が見れなくて触れられない七年間も――ずっとずっと、寂しかったの」
「うん。ずっと一緒に居ようね、リーベ」
「レリ様のこと、私はもう二度と離さないから。レリ様がね、嫌がっても私はレリ様のことを離せないの」
「うん。離さないでいいよ。僕もリーベが嫌がっても、リーベが僕の傍からいなくなるのは嫌だって思うから」
「私はずっとレリ様だけが好きだから、嫌がったりしないわ。寧ろずっとこうやってレリ様に抱きしめられていたいって思うもの」
そんな会話を交わしている二人に、デーヴィが近づき声をかける。
「そろそろ二人の世界から帰ってきてくれないか」
そう声をかけると、顔をあげたリーベミオは邪魔をしないでとでもいう風にデーヴィの方を睨みつける。睨みつけられてもデーヴィは楽し気に笑っていた。
「そう怒るな。これから幾らでもいちゃつけるだろう? それより話をしよう」
そう言われて渋々と言った様子のリーベミオ。
「レリオネルの体は基本的に人と変わらない。ただ私たちが作り出したものであるから、寿命は長くなっている」
「そうなのですか? なら、私はレリ様より先に死んでしまうの……?」
レリオネルの寿命の話を聞いて、思わずといったように泣き出しそうな表情になるリーベミオ。
折角取り戻したレリオネルと寿命が異なるというのは、彼女にとっては悲しいことなのだろう。
レリオネルという少年は、彼女にとって全てであった。七歳で失った時から、特にその執着は強くなっている。
「そんな表情をするな。同じだけ寿命を全うできるような手があると言ったら、やってみるか?」
デーヴィがそう言うと、リーベミオはデーヴィのことを見つめ返す。
「なにか、あるのですか?」
「レリオネルに起きたことについてこちらで調べているうちに分かったことがある。それは一人の神が関わっているらしい」
それはリーベミオとレリオネルにとって初めて知る話だった。
そもそもレリオネルがどうして体を取られてしまったのかという理由は彼らには知る由もなかった。それを精霊たちが調べてくれていることも――リーベミオとレリオネルは把握していなかった。
「神が関わっている?」
「新米の、はた迷惑な女神の一人が異世界から魂を持ってくることを楽しんでいるらしいんだ。レリオネルに起きたのは、その女神の気まぐれだ」
――デーヴィはそんなことを告げた。