①
「ついにレリ様の体を取り戻せるのね!」
精霊界。その場所の湖の傍で、目を輝かせている少女がいる。
リーベミオ・ロベルダ。十六歳。
愛らしい少女から、美女へと変化している。吊り上がった瞳も、女性らしい身体つきも、美しい真紅の髪も――すべてが周りを惹きつける。
「リーベミオ、凄く頑張って僕たちの手助けしてたもんね」
「たった三年でそれだけ証を集めるなんてすごいことだよ」
精霊たちはそう言って、楽しそうにリーベミオとレリオネルを見ている。そう、この三年の間に二人は精霊たちの手助けをしてまわった。
それはただレリオネルを見て、触れられるようになりたいから。だそれだけが理由である。
リーベミオは……相変わらず彼の姿を見ることも出来ず、声を聞くことが出来ない。
ただ存在を感じられるだけでリーベミオは嬉しかった。それでも――出来るのならば姿を見て、声を聞いて、触れたいとそう願うのは当然だろう。
(精霊界だと私以外の者――精霊たちは全員、レリ様のことが見えるのに。私だけがレリ様の姿を見ることが出来なくて、声を聞くことも出来なくて、それが悔しかった。ああ、レリ様、レリ様……。精霊たちが体を作ってくれるのならば想像と違う見た目になるのかもしれないけれど、それでもレリ様がレリ様なら構わない。元のレリ様と同じような見た目になるのかとかは精霊たちに聞かない。でも私は中身がレリ様であれば――きっとどういう見た目だったとしても愛せると思う)
彼女の心は歓喜している。
そこには不安などというものはなく、ただ愛しい人とこれから触れ合っていけるのだとそれを考えただけで熱い気持ちがあふれ出てくる。
そう、ずっと――リーベミオはレリオネルを失ったその日から願っていたのだ。大切な人を取り戻せる日を。
その場にはデーヴィ達も集まっている。
「リーベミオ、私達が渡した証をこちらにもらえるか?」
「ええ」
リーベミオはデーヴィに促されるまま、証を袋から取り出し渡す。
色とりどりのその結晶を見て、デーヴィは笑っている。
「本当にこれだけの数を集めるなど、凄まじい」
「レリ様のためだもの」
「私も含めて精霊たちの願いの中には、無茶ぶりも数多くあっただろう。だというのに君たちは成し遂げてしまった。本当に面白いと思っているんだよ。……ところで、レリオネルの体に関して何か希望はあるか?」
デーヴィはそう言って、リーベミオとレリオネルを見る。
「私はレリ様がレリ様であるのならば、構わないとそう思っているのです。レリ様は?」
『僕も……リーベに触れられるならそれでいいって思う。ただ元の姿と似ている方が僕は慣れると思う。あとは今のリーベよりも背が高い方が嬉しいかも』
リーベミオはレリオネルのそんな言葉に小さく笑ってしまう。彼女からしてみれば、レリオネルの背が高かろうが低かろうがどちらでも構わない。だけれども背が高い方がいいなどというレリオネルが可愛いと思っているのだろう。
「なるほど。まぁ、その方がこちらもやりやすい。これからレリオネルの魂の姿をそのまま体として生み出す。元の体を使っている者と似ている体にはなるが、問題ないか?」
「まぁ、そのようなことが出来るのですね? 私はそれで問題ないですわ」
『僕もそれで問題ない。まぁ、向こうのレリオネル・ユウディスと遭遇したら面倒そうだけど、元々僕の体だし』
「よし、ではこれから私達で体を生み出し、そこにレリオネルを入れるとしよう。この中央に来てもらえるか?」
デーヴィの言葉を聞いて、レリオネルは指定された場所へと移動する。
それからデーヴィも含めて精霊たちが魔力を込め、何かをし始める。
「リーベミオ、時間がかかるから休んでいても構わない」
「……そんなに時間がかかるのですか?」
「それはそうだろう。元々ないものを、生み出し、そこに魂を入れるというのはそれだけのことだ」
「そうですか。でも私はずっとここで見届けます。だって私のレリ様が帰ってくる瞬間だから」
精霊にとっても元々ないものを生み出するという行為はそれなりに時間のかかるものらしかった。
だからこそデーヴィが声をかけてきたのはリーベミオの体を案じてのものだっただろうが、彼女はこの瞬間を見届けなければならないとそう思っているようだった。
『リーベ、無茶はしないでね。眠かったら寝てて』
「ふふっ、大丈夫よ。レリ様」
レリオネルが心配そうに声をかけてもその調子である。
そういうわけで、リーベミオは精霊たちがレリオネルの体を生成している様子をじっとただ見つめていた。
ずっと姿を見ることが出来なかった、ずっと声を聞くことも出来なかった。
そんな大切な人。それを取り戻せる瞬間。それがやってくるのだと思うと、彼女は落ち着かなかった。
(レリ様、レリ様……レリ様)
ずっと彼女はレリオネルのことだけを考えていた。だから彼女にとってその時間はまるで一瞬のようだった。
――その体の生成に、半日ほど有したというのに彼女はずっと傍に控えていたのである。
精霊たちが持ってきた食事は口にしていたものの、寝ることもせずずっと見ていた。
――そしてその時がやってくる。
魔力がその場を覆い、それにより彼女の願いがなされた。色とりどりの魔力が視界から消えたその先には――レリオネルの姿がある。
「リーベ」
そしてその愛しい王子様は、リーベミオの名前を呼んだ。
その姿を見て、その声を聞いた瞬間――リーベミオはレリオネルの体にとびついていた。