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乱心令嬢リーベミオのたった一つの望み  作者: 池中織奈
リーベミオ 十三歳
30/39

 精霊界と呼ばれる場所がある。

 それは精霊たちが住んでいるとされている別世界の名である。



 リーベミオはそういう世界があることは知識として知っていた。それは精霊に会うために調べていた中で、そのような場所に迷いこんだという例は確かにある。

 だけれどもその文献も、嘘か真か分からないものばかりだった。

 そういう不思議な世界に紛れ込んだもの達を頭がおかしくなったとでもいう風な態度をされ続けていたはずだ。




(……確かに、不思議な空間だわ。私たちの生きている場所とは隔離されている場所。こんな場所が存在しているなんて)



 精霊界と呼ばれる場所は、不思議な場所だった。


 リーベミオとレリオネルは出会った男性の精霊によって、その場所へと誘われた。真っ黒な空間が開き、そこに足を踏み入れると――その場には広大な光景が広がっている。

 ……そこにあるのはまさしく一つの世界。先の見えないほどに続いている自然豊かな光景。


 この広い世界に、どれだけ精霊と呼ばれる存在が生きているかリーベミオは分からない。



 ただそこに足を踏み入れてすぐに精霊が寄ってくるということはなかった。静かな場所。――生命の息吹が、あまり感じられない不思議な空間。



「綺麗な場所だわ。ね、レリ様もそう思うでしょ?」

『うん。僕もそう思う』



 リーベミオ達がそんな会話を交わしていると、精霊が声をかけてくる。



「まずは場所を移動しよう」



 そう言われて案内されたのは、一つの家である。



「……精霊は人と同じように家で暮らしているのですか?」

「私はそうだ。それは精霊による」



 中に入ったリーベミオにとっては、色々と疑問だった。

 精霊という不思議な存在。言葉が通じて、人と同じように暮らしている。だけれども確かに人とは異なる存在。



 リーベミオには警戒心もある。

 手助けをすれば願いを叶えると言われたが、それがどういうものかもわからない。

 未知の存在であることは確かで、だからこそただこれから幸せな未来が待っているだけとは思っていないのだ。




「そうですか。ところで精霊の手助けをしてくれればいいとは」

「私達精霊は手助けをしてもらえれば、その証を人に渡す。そしてその証を持ってして、こちらはそれを返すものだ。だから願いを叶えてほしければ精霊たちの願いを叶えればいい」



 端的にそう言われてもピンとこないリーベミオとレリオネルである。



『その願いというのは、危険なものもありますか? 僕はリーベに何かあるのは嫌です』

「レリ様? 私は何でもやるつもりよ?」

『リーベ、そう簡単に何でもやるなんて言わないで。こういうのはきちんと話を聞いた上でやらないと駄目だよ』



 レリオネルはリーベミオが危険な目に遭うのではないかとハラハラしている様子である。

 こういう状況になってもただ一人、自分のことを探し、取り戻そうとしている大切な少女。リーベミオに何かあるぐらいなら、このままでもいいとそうレリオネルは本気で思っている。


「そう警戒するな。別に私達精霊は君たちに無茶ぶりをさせようとしているわけではない。精霊の中には無茶なことを言ってくる者はいるかもしれないが、それが起これば断ればいい。別に全ての精霊の願いを強制的に聞けと言っているわけではないのだ。私からしてみれば君たちは面白い存在で、何かあって欲しいと思っているわけではない」



 興味深そうにリーベミオとレリオネルの方を見て、精霊は告げる。



 互いのことを思いやって、そして心配し、こちらを警戒している二人がその精霊にとっては面白くて仕方がないのかもしれない。



「そうですか。それならばいいです。私は――嫌なことを頼まれたら拒否します。精霊の中にも私達に好意的ではなく、何かしら吹っ掛けてくる者はいますか?」

「いるかもしれない。……その時は私に相談してもらえれば対応はしよう」

「どうして、貴方はそれだけ私達に好意的なのですか?」



 リーベミオは警戒した様子を見せる。


 初対面であるはずの精霊が、なぜ自分たちに対してこれだけ好意的なのか謎なのだろう。面白いと言われてもそれがなぜだか分からないのだ。



「私が人が好きだからというのも理由の一つかな。それに肉体を失いながらも自我を保っている者と、失われた人を取り戻すために私たちに会いに来た者なんて面白いとしか言いようがない。君たちは面白いからこそ、願いを叶えればもっと楽しいことになるだろうとそう思っているだけさ」



 にこやかに微笑み、精霊は告げる。

 その精霊はあくまで自分が楽しめることが重要なのだろう。



(なるほど。そういう性格であるなら分かりやすい。無理なものは断っていいということだし、それならば問題はないわ)



 リーベミオはそう決断して、笑った。



「その答えで納得しました。私はこれから貴方達の手助けを一生懸命しますわ。そして絶対にレリ様のことを取り戻します」



 迷いもせずに言い切ったリーベミオを、精霊は面白そうに笑ってみている。



 ――それからリーベミオとレリオネルは、精霊たちの手助けを行うことになる。



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― 新着の感想 ―
>君たちは面白いからこそ、願いを叶えればもっと楽しいことになるだろうとそう思っているだけさ 精霊さんと読者の思いが一致した瞬間であった( ^ω^ )
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