⑤
「ふぅ……熱いわね」
リーベミオは太陽に照らされている、砂漠の地に赴いている。
ダクルエとエナートから精霊に纏わる土地に関する情報を聞いた彼女は早速、その土地へと向かうことにした。
当然のことだが、彼女は他国へと赴いたことはなかった。とはいえ、商会や傭兵ギルドを設立して以来、国内問わずに情報収集を続けてきた。
その情報はこの旅において、とても有意義なものである。
初めての長旅というのもあり、彼女にとっては苦労もある。だけど彼女にとっては愛おしいレリオネルと共に居られるのならばどこでだって幸せだとそう思っている。
『リーベ、倒れないように気を付けて。君はこういう所に来るの初めてだろう?』
「ふふっ、レリ様。ありがとう。水魔法で涼しくはしているわ」
にこにこしながら、リーベミオは答える。
ちなみに言うと、この旅は二人で向かっている。カセル、スーラ、フィーチャレエも途中途中では合流することもあるだろう。ただ彼女にとっては二人の方が動きやすい。
他の誰も居ない空間で、大好きな人と二人だけで旅をする。
それだけでもリーベミオにとっては幸せなことだった。
「レリ様はこういう砂漠に居ても何か不調などはないのよね?」
『うん。今の僕はそういう気候とかに影響はされないから』
レリオネルはリーベミオの言葉に、軽くそう答える。
現在、肉体を持たないレリオネルはどんな場所にいたとしてもその場の気候に影響を受けることなどない。
そのことにリーベミオはほっとした様子を見せる。
(レリ様が辛い思いをなさるのは嫌だもの。レリ様がいつも通り過ごせるのならばそれが一番いいわ。それにしても……本当にフィーチャレエが羨ましいわ。レリ様の姿、私は全然見えないもの……)
魔法で意思疎通が出来るようになっているとはいえ、その姿も、声も聞こえない。
だからリーベミオにとってはフィーチャレエは羨ましい存在だった。彼女はいつだって好きな人の全てを独占したいと思っているような少女である。
(……私がフィーチャレエの立場だったら、とても喜ぶと思うわ。だってレリ様の姿を見れるのも、声を聞けるのも私だけになるってことよね? それはそれで素敵な空間だわ。ああ、でも私はレリ様に触れたいし、レリ様と幸せな未来を歩んでいきたいからきっとそうだったとしてもレリ様を完全に取り戻すために行動したと思うけれど)
リーベミオは砂漠を魔法を使いながら進んでいく。
こういう場所を訪れたことがなく、きっと歩きにくいだろうに――それでも彼女の足取りは軽い。
足場がどれだけ悪かったとしても歩けるように彼女は、レリオネルを失ってからずっと身体を作ってきた。その結果、公爵令嬢という産まれでありながらどんな場所でも生きていけるような力強さを持っている。
(……レリ様が、周りに認識されるようになったら皆、レリ様の素晴らしさに気づく。そうなると女性が寄ってくるかもしれないから、そのあたりは目を光らせておかないと)
今の所、レリオネルの姿は周りに見えないしずっと先のことであろうに、そんなことをリーベミオは心配していた。
『リーベ、黙り込んでどうしたの?』
「レリ様が体を取り戻した後のことを思っておりましたの。今はまだ誰もレリ様を見ることが出来なくて、誰も素晴らしさに気づかないですけれど、レリ様はとても素敵な方なので、沢山の異性が寄ってくると思うの」
『そんなことを心配していたの?』
「だって……私、レリ様が私じゃなくて、他の女の子の傍に行ってしまったらとても寂しくなりますわ」
そういいながらしゅんとした表情を浮かべるリーベミオ。
それを見て、レリオネルは思わず手を伸ばして――だけど、触れられないことに悔しそうな表情を浮かべる。
そんな表情を、リーベミオは目の前にいても気づくことが出来ない。
慰めたくても慰められないこと。声を伝えたくても魔力でしか伝えられないこと。
――レリオネルはそれがもどかしく思っている。
『よく聞いて。リーベ』
だけど、今は魔力で象った文字でしか伝えることはできない。
『僕にとって一番可愛い女の子が、リーベだよ。出会った時からずっと君は僕にとってお姫様のような存在なんだよ。僕がリーベの前に姿も現わすことも出来ずに、触れられもしないからそういう心配させているんだよね? 僕が君に触れられるようになったら――そんな心配させないぐらい行動で示すから、それまで待ってて』
そんな言葉を伝えられたリーベミオは、顔を赤くしていた。
目を潤ませて、じっとレリオネルが居るであろう方を見ている。
――レリオネルはその姿を見て、抱きしめたいなと思っている。
――リーベミオはその言葉を聞いて、くっつきたいなと思っている。
だけれどもそれは叶わない。
レリオネルには彼女に触れる術はない。リーベミオには彼を見る術はない。
すぐ傍にいるのに、彼ら二人は触れ合うことなど出来ない。