③
「な、なんなんだ、おまえは!!」
「この化け物!!」
リーベミオのことを恐ろしい物を見るような目で、青ざめた顔で見つめる男たちが居る。
彼らは彼女によって制圧されてしまった盗賊たちだ。このカンバラの地で、盗賊団たちは私腹を肥やそうとしていた。
この盗賊団たちは、外の地域から訪れたものである。
リーベミオが【ニクスの花】と【オランジュスカ商会】を設立し、その活躍が国内外に響いていることもあり、領民の数は増えている。少なからず彼女の活躍により、この辺境の地は栄えつつある。
その結果、盗賊団のような……悪人たちも引き寄せる。栄えている場所だからこそ、時折現れるそういう者達。彼らは富を奪おうとしていていた。そして【エクスの花】と【オランジュスカ商会】をその手中におさめようと考えていたようだ。
――最もリーベミオに勝てないようでは、そんなことは叶わないが。
「貴方達の討伐を依頼されたものよ」
彼女はそれだけ口にして、盗賊たちを捕縛した。わざわざ捕縛したのは、この者達は賞金首なため、生かしたまま捕らえた方がいいのである。
『流石、リーベ。惚れ惚れする魔法の腕だね』
「ふふっ。レリ様に褒められると嬉しいわ」
他の誰かに褒められるよりも、ずっと……レリオネルに褒められることが何よりも嬉しいリーベミオであった。
捕らえられている盗賊たちは虚空に向かってしゃべりかけているリーベミオを、青ざめた目で見ている。
魔力で文字を作ることによって意思疎通が出来ているとはいえ、普通ではない状況を人は恐れるものだ。
……きっとレリオネルのことも、周りが知れば恐れるだろう。
それでいて此処にいるのがレリオネル・ユウディス本人だと告げたところで、やはり頭がおかしいと、乱心したと言われるだけだろう。
(本当にレリ様は此処にいらっしゃるのに。それを否定して、おかしいと言うなんて失礼しちゃうわ)
彼女はそんなことを考えながら、盗賊たちを引き連れて街へと戻った。街に入る前にカセルに彼らは引き渡しておく。
カセルの姿を見て彼らはリーベミオが【エクスの花】の一員だとようやくわかったようで益々顔を青ざめさせていた。
【ニクスの花】の団長が彼女だなんて彼らは知らない。
その傭兵団に所属するまだ若い女性が、これだけの力を持ち合わせているという事実に恐れをなしているのだ。
盗賊団をカセルに引き渡した後、リーベミオは【オランジュスカ商会】の本部がある街へと向かうことにした。
(【オランジュスカ商会】に関して言えば、王都の方に本部を置かないかみたいな話が来ているのよね。設立者である私が此処で過ごしているから本部を移す気はないけれど。というか、そもそも私はレリ様と未来を歩むために他国に赴く必要があるのならばすぐに飛び出す予定だしね。どうせ、ロベルダ公爵家は私のことなどもう気にしてもないし)
【オランジュスカ商会】の本部のある街へは、リーベミオは走って向かっている。かなりの距離はあるものの、魔法を使えばそこまで時間はかからない。
それにこうして自分の足で動きまわることによって体力をつけることが出来る。リーベミオは自分の望みを叶えるために努力をすることをただただ続けている。
『リーベ、何か悩み事?』
「これからのことを考えていて。【オランジュスカ商会】は王都にも顧客がおおくて、貴族達からの接触があるでしょう。特に私の実家には私が商会の主だとはバレないようにしておきたいの。あと、王家にも」
『そうした方がいいとは思う。リーベの優秀さを知ったら、誰かと婚約を結ばせようとするかもしれない』
「絶対に嫌だわ! 私はレリ様だけのものだもの。一応そういう事態になった時はすぐさま国外逃亡出来るように準備は進めているけれど……、私だと知られない方が楽だわ」
リーベミオは高貴な血筋が流れており、それでいて優秀さを持ち合わせている。その事実を知られてしまえば、彼女を利用しようとする者は現れるだろう。それこそ彼女の血のつながった家族や、この国の王家などが。
それが嫌だからこそ、リーベミオは国外逃亡をする準備もとっくの昔に終えていた。
今のところは、彼女の所業は知られていない。それだけ徹底的に彼女が隠しているから。
……だけど、それが表に出て、騒動に陥った時には彼女は自分の意思を貫くために全力で抗うだろう。
『うん。でもリーベ、無茶はしないでね』
「無茶せずに、ちゃんと全てそつなくこなすつもり! そうだ、レリ様。精霊関係のことも沢山調べさせているから、何か手がかりになるものが見つかったら一緒に行きましょうね!」
『うん。僕が精霊みたいな状況っていうのは不思議だけど、何か手がかりになるなら行きたい。精霊にも会えたりするかな?』
「精霊に会えたら……レリ様を取られないようにしないと。精霊に性別があるか分からないけれど、私のレリ様が誰かに懸想されるなんて嫌だもの!!」
『僕は誰かに求められても応じないよ。リーベの傍がいいから』
「レリ様……っ」
感激したようにリーベミオは声をあげ、幸せそうに微笑んだ。
二人っきりの時、大体この二人はこの調子である。