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乱心令嬢リーベミオのたった一つの望み  作者: 池中織奈
リーベミオ 十三歳
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「ふんふ~ん」



 鼻歌を歌いながら、リーベミオ・ロベルダはご機嫌な様子で雪山を歩いている。

 十三歳になった彼女は、幼い頃よりも美しく育っていた。




「レリ様、これだけ雪が降っているととても綺麗ですわね」

『そうだね』




 彼女は隣に居るレリオネルに向かって話しかける。レリオネルの声は相変わらず、彼女の耳へと直接届くことはない。

 ――だけれども、レリオネルの纏っている魔力が文字を形作る。




 可視化された魔力によって、レリオネルは彼女に対して意思を伝えることが出来るようになっていた。

 彼女は実際の声が聞こえなかったとしても、レリオネルの意思をこうして伝えられることは嬉しくて仕方がない。



(姿が見えなくても、声が聞こえなくても――レリ様と一緒にこうして過ごせるのは嬉しい)



 リーベミオはそんなことを考えながら、じっとレリオネルの居る方を見つめる。



 彼女達の目の前では、雪が降っている。

 この地域は、雪がよく積もる。歩きにくい道をリーベミオは軽い足取りで歩いている。




 レリオネルはそんな場所を歩いているリーベミオを見ていると、心配してしまう。そんな場所を歩いていてこけたりしないか、怪我をしないかなどとそんなことばかり考えてしまうのだ。

 リーベミオはレリオネルから心配をされただけで、毎回、天にも昇るような気持ちになる。




 彼女はレリオネルの姿が見えず、声も聞こえない。レリオネル側から魔力による意思疎通を行われなければ、知らないうちに彼が傍にいるという状況が出来上がっている。




 人によっては常に誰かが傍にいる、知らない内に見られてるというのは恐怖を感じるかもしれない。

 リーベミオだって相手がレリオネルでなければ嫌がっただろう。でも彼女にとってはレリオネルという存在はどこまでも特別だった。ずっと会いたかった愛しい王子様が傍にいてくれるというのならば、ただただ嬉しいとしか思えない。




 レリオネルが魔力を可視化出来るようになったのは、彼が現在、所謂精霊に似たような状況であるというのが発覚したからだ。




 精霊と呼ばれる存在は、所謂信仰対象である。人の世に関わることはあまりないが、関わった際には大きな騒動を必ず起こしている。それは良い意味でも、悪い意味でも。

 精霊の怒りを買えばそれだけ大変な目に遭う。だけれども精霊から祝福を受ければ国は繁栄する。そういうものである。

 そして精霊について調べているうちに、力のある精霊は魔力を使って人の前に姿を現わし、人に意思疎通をしたと描かれていたのだ。




 だからこそ、レリオネルにもそれが当てはまるのではないかと結論づけたのである。




 リーベミオがそのことを告げれば、レリオネルは出来るように努力したのである。彼女がレリオネルへと魔力を渡し、その魔力を元にレリオネルは様々なことが出来るようになっていた。

 レリオネルとしても、幾らリーベミオが助けると言ってくれていたとしても自分に出来ることは行いたいとそう思っているのだ。だからこうして、リーベミオの力になれることを増やしていけることが彼は嬉しかった。




「ねぇ、レリ様。新しく【オランジュスカ商会】で新商品を出したいと思っているのだけど、ご意見いただいてもいいかしら? 今回も私がまず試作品を身に着けるの」



 にこにこしながらリーベミオは告げる。




 彼女はレリオネルに再会した後も、相変わらず【エクスの花】と【オランジュスカ商会】の運営を続けていた。それはレリオネルに再会は出来たものの、これから共に生きていくためには力はつけておくべきなのだ。



 【ニクスの花】と【オランジュスカ商会】はこの国において大きな力を持っている。それこそ、国外にまで影響力を伸ばしていた。



『もちろん。リーベは自分を磨くことを本当に怠らないね。リーベにはきっと何でも似合うよ』

「ふふっ、だって私はレリ様の奥さんになるんですもの! レリ様に相応しい私でいるためにも、美しさを磨くのは当然でしょう?」



 にこにことほほ笑みながら、リーベミオは告げる。



 彼女は自分の気持ちを全く偽らない。素直な気持ちを口にしてにっこりと笑う。

 その美しく、愛らしい笑みをみているとレリオネルも思わず笑みをこぼす。




 リーベミオはレリオネルが笑っているだろうことが分かっても、その表情を見ることが出来ないことを――寂しい気持ちにはなる。




『リーベはどんどん綺麗になるから、男性が近づいてこないか心配になるよ』

「レリ様、私は貴方のリーベですよ? 私にとって特別な異性はレリ様だけですわ」



 リーベミオは不敵な笑みで、そう言って笑った。



 彼女の一途で重い愛は、何年経っても変わらない。それこそレリオネルが情けない言葉をかけたとしても、出来ることが少ない状況だったとしても――それでも構わないとでもいう風に彼女はレリオネルの前ではいつも笑顔である。



 レリオネルはその言葉を聞いて、嬉しそうに笑った。



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