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『リーベ』



 リーベミオ・ロベルダが拠点としている建物の一室。

 すやすやと眠る彼女のことを、レリオネルは見つめている。



 彼女はカセルとスーラに説明をした後、そのままレリオネルとフィーチャレエを連れ帰った。

 彼女は自身の力でレリオネルと会話が出来なかったとしても、愛しい王子様が傍にいるというだけで幸せそうにしていた。

 ――そして様々な出来事があったからか、疲れて眠ってしまったリーベミオを彼は見ている。



 その黒髪に触れようとして、肉体がないため触れられない。……レリオネルは、苦しそうな表情を浮かべる。



(……僕は、本当はリーベのことを手放した方がいいのに。僕がこういう状況になったからリーベは乱心令嬢なんて呼ばれるようになってしまった)



 レリオネルはリーベミオに説得された。それに彼女と共に居たいというのは紛れもない本心である。

 だけれども――自分がこういう状況に陥ったからこそ、大切な女の子が乱心令嬢などと呼ばれるようになってしまったこと。

 それが苦しかった。



 レリオネルにとって、リーベミオは昔からの付き合いのある大切な少女だった。レリオネルが悩みを抱えて横暴になりつつあっても、いつだって傍に居た。まっすぐに向けられる好意は、一度だって覆ることなく――ただただその明るい黄色の瞳はレリオネルのことだけを見つめていた。




 レリオネル自身は、どうして彼女がそれだけ自身を好きでいてくれているかの理由は分からない。それでもその――対価を求めない、純粋な好意は心地よいもので、他の誰かを傍から離しても、彼女が傍にいることをいつだって許可していた。

 なんでもそつなくこなすだけの才能があって、妖精のようだと噂されて――次期王妃として素晴らしい未来を歩んでいくとされていた少女。

 その未来が、自分のために失われて良かったのだろうかとそれを考えてしまう。




 だけど――レリオネルは、同時に嬉しいとも思っている。




(リーベは他の何かではなくて、僕のことを最優先してくれている。僕がこういう状況に陥った時にもすぐに気づいてくれた。……他の誰も、違和感に気づいてもそれが僕じゃないなんて口にする人は居なかった)




 レリオネルはリーベミオが自分のことを優先してくれたことをただただ喜んでいた。




 こういう状況に陥ったことは当然、悲しみしかなかった。いつの間にか知らない誰かが自分の体を使っていて、誰もそれに気づかない状況に絶望した。けれど、彼女だけはすぐに気づいたのだ。

 そして周りから何を言われようとも、レリオネルを探し続けた。




 幽霊が見える少年――フィーチャレエに会えなければ、そもそもレリオネルの姿を見ることも、その言葉を聞くことも出来なかっただろう。彼女がレリオネル・ユウディスを取り戻せる可能性は、本当に少なかった。

 それなのに、彼女はレリオネルを取り戻すことを信じ続けていた。

 その様子を、レリオネルはずっと見ていた。




(この二年間、リーベはずっと必死だった。僕を取り戻すことだけを考えて、僕に会うために……。リーベが僕のことで苦しんでいるのを、僕は嬉しいなんて思ってしまった。リーベが僕のことだけを相変わらず一番に考えてくれているのが嬉しいって。……こんな気持ちをリーベが知ったら、嫌がるかな。声も聞こえないし、触れられることも出来ないのにずっと僕がリーベの傍に居たことも、嫌がられたりするかな……。僕はリーベに嫌われたら悲しくて、耐えられないかもしれない)




 リーベミオのレリオネルへの感情は重い。それこそレリオネルのためならなんだって投げ出せるぐらいに。

 だけど――レリオネルの感情も、同じぐらいには重い。

 それは自分の体を別の誰かが使うようになってから、余計に重くなったと言えるかもしれない。



 ただ一人、こういう状況になった時に自分のことを信じて、まっすぐに思っている少女。

 それが特別に思わないはずはない。



(……僕はリーベと一緒がいい。でも毎回、リーベと話すときにフィーチャレエの力を借りなければならないのは嫌だ。だってリーベは僕に話しかける時、凄く可愛い。その可愛い姿をフィーチャレエに見せ続けるのも嫌だ。僕のことで表情をころころ変える姿を、他の人達が見るのも嫌だ。リーベは僕に黙って助けられればいいなんて言うけれど――僕はただ助けを待つだけなんて嫌だ。折角フィーチャレエが僕の言葉を聞けるのだから、それなら僕だって何かが出来るはず)




 レリオネルはすやすやと眠るリーベミオを見つめ、そんなことを思考する。

 喋ることも出来ない、触れることも出来ない。

 それでもフィーチャレエが居るのならば、レリオネルの出来ることの幅は広がる。



(僕も……リーベと一緒に居られるように頑張る。リーベが僕を取り戻すことを諦めることがもしあれば……悲しいけれど、それは仕方ない。だけどリーベが、僕のリーベのままで居て欲しい)



 ただそんな風にレリオネルは思ってしまう。

 ――大切な女の子が、別の誰かに好意を寄せるのは嫌だと、レリオネルは本心から感じている。



『リーベ……。僕も、君と一緒に居られるように頑張るから。だからずっと、僕のリーベでいて』



 そんな願いを、リーベミオには聞こえないのに口にする。



「ん……レリ様」



 リーベミオはレリオネルの夢を見ているのか、口元を緩ませている。いつだってレリオネルのことで頭がいっぱいのリーベミオを見て、レリオネルは頬を緩ませるのだった。



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