①
「どうして、そのようなことを言うのだ!」
「リーベミオ、折角レリオネル殿下が昔のように戻られたのに……」
王都に滞在している間、リーベミオはレリオネルと何度か会った。リーベミオはレリオネルがこれまでのことを謝罪し、周りから受け入れられている様子を見ていた。
今までの自分の態度に反省した様子を見せ、国王夫妻も、レリオネルの兄弟達も、そして王城に仕える者たちも――そのことを喜ばしく思っている様子だった。
ただリーベミオだけは、その様子を冷めたように見ていた。無理やり張り付けた笑みに、誰一人気づくことがなかった。
リーベミオは一人、悩み……そして自分を愛してくれている両親に相談をした。
それは他でもない両親ならば自分の話をきちんと聞いてくれるだろうと、そう信じていたから。
――だけど、それはリーベミオの希望的観測でしかなかった。
実際はリーベミオの妄言ともいえるような発言を、彼らは受け止めてくれなかった。寧ろ、彼女のことをおかしくなってしまったなどと口にした。
リーベミオはその結果、反省を示すためにと部屋で謹慎するように申し付けられた。
自分を大切にしてくれていたはずの両親も、そして兄や姉も、屋敷に仕えている者たちも、リーベミオを冷たい目で見つめるものや心配している者でさえも彼女の言葉もまともに受け取りはしなかった。
例えば彼女の兄は、「リーベミオも寂しくてそんなことを口にしたのだろう?」と発言を改めさせようとした。
例えば彼女の姉は、「あなた、何か嫌なことでもあった? 私たちに相談しなさい」と頭を撫でながら言った。
例えば彼女の侍女は、「お嬢様がそのような嘘を言うのは何か理由があるのですよね?」と真剣な表情で問いかけた。
誰一人として、彼女の言葉を信じるものなど居なかった。
リーベミオは周りの言葉を幾ら聞いたとしても、訂正はしなかった。なぜなら、その言葉は彼女にとっては間違っても頷けないことだったから。
――だから、彼女は反省するまではと押し込められている。
「……レリ様」
リーベミオは大切な王子様の名を口にする。
その名前を呼んだだけで、感情が一気に溢れ出すのが彼女自身にも分かった。
彼女にとっては、レリオネル・ユウディスとのこれまでの思い出を思い起こすだけで幸福なことだった。だけど、今は……その存在が居ないからこそ寂しいと、悲しいとそう感じてならない。
だから、彼女は涙を流す。
「レリ様、レリ様、レリ様……」
何度も何度もその名を呼んで、身に着けているブレスレットを握りしめる。
そのブレスレットは他でもないレリオネルからもらったものだ。彼女にとって特別な、大切なもの。
それをぎゅっと握りしめる。
リーベミオは記憶力が良い。だからレリオネルとの思い出を一つ残らず覚えている。
初めて出会った時に、リーベミオはレリオネルに惹かれ、それからずっと心を預けている状況だ。
なので、全て覚えている。
レリオネルが自身の前で何を口にしたか、どのような挙動を起こしたのか。
その一つ一つの言葉を、仕草を、全て熟知している。
彼女にとってはレリオネルが一番で、他の者達は言ってしまえばそれ以下である。
だから彼女にとっては、今の状況が何よりも悲しかった。
「レリ様、どこ……?」
最も愛おしい彼が、いなくなってしまったから。
今、王城にいる“レリオネル・ユウディス”は、彼女の“レリ様”では決してなかった。
それをリーベミオは理解してしまった。ただ一人、あれは自分の愛しい王子様などではないと。
だから彼女は口にしてしまった。
――あれはレリオネル殿下ではないと。姿は同じでも中身は違うのだと。
その言葉を告げた途端、向けられた視線をリーベミオは覚えている。
優しかった両親の表情は固まり、すぐに「冗談を言うのはやめなさい」と口にされる。
リーベミオが両親が何度言っても、否定し続ければ徐々にその表情は冷たいものへと変化していった。
公爵夫妻に溺愛されて生きてきたリーベミオは、何があったとしても家族は自分の味方だとそう信じていた。
だけど今回の件で、そうではないのだと彼女は知ってしまった。
血のつながりがあろうとも、どれだけ親しくしていようとも――その人にとって異常だと言える行動を行えばすぐに反応は反転してしまうのだと。
「お母様が何を言おうとも……あれはレリ様ではない」
周りが何を言おうとも、否定をしようとも――それでもあのレリオネル・ユウディスの名をした何かは彼女にとっての王子様ではないのである。
その日から、彼女の人生は一変した。
なるべく毎日or二日に一回更新して完結まで書き切る予定で投稿開始です