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「え」



 フィーチャレエの前で、リーベミオ・ロベルダを名乗った少女は表情を変える。

 フィーチャレエの視線の先にいるその少年は、寂し気に、悲しそうに彼女を見つめている。




 驚いた表情になった彼女は、次の瞬間には叫んだ。




「どうしてっ! なんで、レリ様はそんなことを言うの? レリ様、そこにいらっしゃるの? 私はレリ様にずっとずっと会いたかったのに。レリ様は私がそう思っていたのが迷惑だった? 私だけが、レリ様に会いたかったの?」



 苦しそうに、泣き出しそうにそういう幼い少女を前にフィーチャレエは胸が痛くなった。

 それと同時に黙って動向を見守っているカセルとスーラの視線が痛い。……フィーチャレエは少年を見る。



「……レリ様だっけ」



 フィーチャレエがそう言ってその少年――推定“レリ様”に声をかけた瞬間、同時に声が飛んでくる。



「レリ様って呼んでいいのは私だけなの!!」

『その名で、僕のことを呼んでいいのはリーベだけだ!!』



 リーベミオと、その少年――レリオネルの魂は同時に叫んだ。同じことを言われて、フィーチャレエは面食らう。



「ええっと、じゃあ、お前、名前は?」

『……レリオネル・ユウディス』



 そう口にされて、益々フィーチャレエは混乱した。



 それは他でもないこの国の、王太子殿下の名である。



(確かリーベミオ・ロベルダ公爵令嬢は、二年前に乱心し、それと同時にレリオネル殿下との婚約を解消したはず……って、はっ? ここにそのレリオネル・ユウディス殿下がいる? となると、王都にいる王太子殿下はなんだ?? 意味が分からない。しかも、自分のことを忘れて欲しいって言っときながら、凄く執着しているっぽいんだけど、なんだ、これ??)



 意味が分からないフィーチャレエ。

 ただし、自分にだけ見えるレリオネル・ユウディスがリーベミオ・ロベルダに確かな執着を見せているのは本当のことだった。




「ええっと、レリオネル殿下? リーベミオ様にお前の言葉を伝えるから、言ってもらっていいですか」

『……』

「こんなに泣き出しそうになっているんです。ちゃんと伝えた方がいいです」




 フィーチャレエがそう言ってレリオネルに声をかける間、リーベミオ達は無言だった。

 カセルとスーラに関しては、この場に“レリオネル・ユウディス”がいる体で話されていてよく分からない。混乱状態であると言えるだろう。

 それでもこれだけ必死な主は初めてなので、ただ見守っている。




「なるほど……」



 そして話を聞いたフィーチャレエは、頷く。



「フィーチャレエ! レリ様はなんておっしゃっているの? どうして忘れてなんていうの??」



 勢いよく話しかけるリーベミオ。その際にフィーチャレエにぐいっと近づき、そうするとレリオネルの表情が険しくなったのをフィーチャレエは見逃さなかった。



「リーベミオ様、近づかないでください! お前が近づくとレリオネル殿下の目が怖い!!」




 そう告げると、リーベミオの目は輝き出す。




「レリ様、嫉妬してらっしゃるの? 私は貴方のリーベだから、他の異性なんて近づいてもどうでもいいわ! 私の過去も現在も未来も全てレリ様の物だわ」



 レリオネルの言葉を聞けず、姿も見えないのに、大声で躊躇せずに言い放った。




(……愛が重すぎる。なに、この公爵令嬢様、全然乱心してないし。レリオネル殿下以外どうでもいいのか??)



 フィーチャレエは、自分のことなどどうでもよさそうなリーベミオに先ほど聞いたレリオネルからの言葉を伝えることにした。




「レリオネル殿下は、リーベミオ様が自分のせいで道を閉ざしたことを悲しんでいる。それに自分が戻れるかもわからない、声も届けられない。何かをお前のためにしてあげることも出来ないからって。だから忘れて普通に生きた方がいいんじゃないかって。ただでさえ――人生を駄目にしてしまったからってそう言っている。……でも俺が見ている限り、本心はリーベミオ様と一緒に居たいようには見えるが」




 フィーチャレエがそう告げた瞬間、リーベミオは虚空に向かって叫ぶ。




「そんなことない! レリ様、私がこういう道を選んだのは自分が決めたことだから、気にしないで。私は私のレリ様じゃない相手と婚約をしたままなんて嫌だった。レリ様じゃない相手を皆が認めているのが嫌だった。私はレリ様とじゃないと幸せじゃないの!! 私の幸せは私が決めるんだから、レリ様は黙って私に助けられればいいの!!」




 そう言い切るリーベミオ。

 どこまでも独善的で、それでいて自分の目標をただただ叶えようとする。



 フィーチャレエの視線の先のレリオネルがあっけにとられた表情をしているのを見て、思わず笑ってしまう。



『……リーベ』

「レリオネル殿下の負けじゃないですか? リーベミオ様、全然諦める気なさそうですし。大人しく助けられたら……ってなんだかこれ、捕らわれの姫を助ける王子みたいな構図で面白いですね」



 フィーチャレエはそんな想像をして、思わずおかしそうに笑った。



 その後、レリオネルが諦めたように『……うん。僕もリーベと一緒がいい』といったのを聞いて、それをフィーチャレエは伝えるのだった。


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