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「少年?」



 リーベミオはその少年が何を言っているか一瞬分からなかった。だけれども――何かに気づいて心臓をバクバクさせる。もしかしたら――という期待が、頭を支配する。



「お前の隣に居る奴だよ。お前に憑いているのかもしれない。そいつをどうにかしたいのか?」



 そう問いかけられた瞬間、彼女は勢いよくその少年の肩を掴んだ。



 様子がおかしくなった主をカセルとスーラは驚いたように見ている。彼女はいつだって、その年にそぐわぬ冷静さを持ち合わせていた。

 そして誰かに触れることもあまりない。そういう主が初対面の少年の肩を掴むなどと思ってもいなかったのである。




「ねぇ! その私の隣に居るのってどんな見た目しているの?」



 勢いよくそう問いかける。



「……えっと、真っ白な髪と、橙色の瞳だな。お前と同じ年ぐらいだと思うが」



 少年は戸惑ったように口にする。

 いきなり様子がおかしくなったリーベミオを前に動揺して仕方がないのだろう。

 ――その言葉を聞いた瞬間、彼女は泣いた。




「主様!?」

「どうなさったのですか!?」



 少年の肩から手を離し、ただぽろぽろと泣く主を前にカセルとスーラは慌てる。少年も何かまずいことを言ってしまったのだろうかと、あたふたしている。



「レリ様……いらっしゃるのですね? 良かった。レリ様が、居てくれて」


 そんな周りの様子など全く気にもせずに、彼女はただ――虚空に話しかける。



 例え、その存在が消えていたとしても――それでも絶対に取り戻すと思っていた。困難だろうとも、本当に消えてしまっていると言われたとしても――それでもあきらめないと思っていた。

 だけど、リーベミオにとって本当に傍にレリオネル・ユウディスが居るというのならばただ嬉しいことでしかなかった。


 涙をぬぐった彼女は、少年の方を見る。




「貴方、嘘だったら今すぐ首をはねるから」

「おおおいっ、物騒だな!! 嘘じゃない!!」



 少年が顔を青ざめさせてそういうのは、あまりにもリーベミオの目が本気だったからだろうか。

 でもリーベミオは少年は嘘を言っていないだろうとは思っていた。



(私はこの人にレリ様のことを語ってない。私がリーベミオ・ロベルダだとは知らないと思う。それなのにレリ様の見た目を言い当てるなんて、出来ないはずだから)




 ――そうリーベミオは自己紹介さえもまだしていない。




 その状況で彼女の王子様の見た目を的確に当てられるかどうかと言えば、まず無理だろう。

 それを考えると――目の前の少年は“本物”である。





「なら、良かった。貴方に聞きたいことが沢山あるの。私はリーベミオ・ロベルダ。貴方は私の目的を叶えるためには必要だわ。だから私の元へ下りなさい」




 彼女は本名を口にした。それもまたカセルとスーラを驚かせるには十分なことだった。

 彼女はこんな風に誰かに挨拶をすることはない。傭兵ギルドや商会にも一度だって姿を現わさず、例えば街に赴く際も本名などかたらない。

 ――それがこんな風に告げるというのは、例外的なことである。




 カセルとスーラは、彼女の目的を教えられていない。だけど、今のリーベミオの様子を見ていると彼女が口にした“レリ様”が関係しているというのは分かる。




「……俺はフィーチャレエ。って、リーベミオ・ロベルダって噂の乱心令嬢!? は? なんでそんなのが此処にいるんだよ! あと自分の元へ下れっていうのは……」

「私の下についたら沢山の良いことがあるわよ? 貴方の望みは何? 少なくとも苦労はさせないわ」



 声を上げるフィーチャレエに、リーベミオは微笑む。その笑みを見たフィーチャレエは少し顔を赤くした。そんな変化を見ても、特に彼女は何も思わない。

 自分の笑みに顔を赤くする者が居ることは彼女にとって当たり前のことだからである。




「……いやいや、なんで??」

「貴方、私の隣にレリ様が見えるのでしょう? だからよ。ねぇ、レリ様は何を言っているの? 貴方、レリ様の声を聞けたりするの? レリ様の声を聞けるなんてなんて羨ましいのかしら。それに姿も見えているのよね? 私は二年間もレリ様の姿が見えないし、声を聞くことも出来なかったっていうのに、本当に羨ましいわ。正直言ってそれだけでも嫉妬でどうにかなりそうだけれども、貴方が居たらレリ様のご様子を確認出来るってことよね? そういうわけで今すぐにレリ様が何を言っているかとかをすぐに私に伝えなさい。それだけでも報酬を与えるわよ?」




 リーベミオはノンストップである。

 レリオネル・ユウディスが自分の傍にいるかもしれない。

 そう感じただけで彼女は、普段の冷静さなどもう取り繕えない。




 ただただ“レリ様”とその名を愛おしそうに呼び、それ以外は目に入らないとでもいう様子にフィーチャレエはたじろぐ。

 その視線は、リーベミオの隣に向けられている。

 フィーチャレエの目には、美しい少年の姿が映っている。それが彼女の言う“レリ様”なのだろうというのは分かる。




 ――そして、その言葉もフィーチャレエは聞き取った。




「……お前の隣に居る少年は、『自分のことは忘れて欲しい』って言ってるけど」



 そしてその言葉を、フィーチャレエは伝えた。




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