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 リーベミオは、根拠のないものは信じていない。

 世の中には人の弱みに付けこんで、お金を巻き取ろうとするような詐欺師もいることを彼女は知っている。



 辺境の地に追いやられて以来、自由気ままに生きている彼女はそういう人々と遭遇したことだってある。

 目立つ行為をすべきでないと判断し、あまり人が居る場所にはいかないものの……時々は街に出ることはある。




 その際にまだ幼く、それでいて見目の整っている彼女は狙われる対象である。

 ユウディス王国では、奴隷というのは合法のものではない。とはいえ、非合法で人を捕らえて、他国に売り飛ばすというのはないわけではない。それに奴隷という名をつけなかったとしても、何かしらの名目をつけて売買するといったことはあるのである。

 そういう人たちを知っているからこそ、リーベミオは正直幽霊が見えるという人にも期待はそこまでしていない。



 どうやら事前情報ではその幽霊が見えるという存在は、少年と言える年頃らしい。



(……私よりもいくつか上の十代前半? 平民だとその年頃で働くのは当然だけど、当たり前の仕事ではないのは不思議ね)



 リーベミオはその少年に合うために、馬車に揺られている。



 乗合の馬車の中に居るのは、リーベミオだけである。

 カセルとスーラに関しては別行動で、目的地に向かってもらっている。

 というのもこの辺境ではカセルとスーラはそれなりに知られている立場にある。そういう存在と一緒にいることで、ややこしい事態になることは避けたいとそう考えている。



(幽霊を見えることを生かして、生計を立てているみたいだけど正直それで上手くやっていけているのは辺境の地だからね。王都などだとこういう他と違う存在が居れば拒絶される可能性が高い。あれだけ人が寄ってきていたのに、私の傍から人が居なくなった時のように)



 がたんごとんと揺れる馬車の中で、自分のことと照らし合わせてリーベミオはそんなことを思考する。

 自分達とは違うと判断されると、排除されるということはよくある。

 だから幽霊を見えるというその特性を生かして商売をしているというのは興味深いことではあった。

 とはいえ、本当にそういう力がその人物にあるのかどうかはリーベミオには判断がつかない。




(でも十代前半でそういう詐欺に自分から走ることがあるのかしら? そもそも周りの大人たちさえも騙すことが出来なければそういうことで生計を立てるなんて出来ないはず。満足が行くような答えが返ってこなければそれだけ対応した方が怒る可能性も高いわけで……。詐欺師だったとしても、味方につけたら有益そう。そうじゃないのならば、レリ様の中身が何処にいるのか探すために役立ちそうだし……)



 そんなことを考えながらも、リーベミオは詐欺の可能性も高いと思っていた。



 その年頃でそういう仕事をしているのならば、もしかしたら大人たちに利用され、強要されている場合もあるだろう。




 中央の目があまり向けられていないこういう辺境の地では犯罪行為が度々みられる。

 彼女はそういうものを見るのはあまり好きではないため、カセルとスーラに指示を出してそのあたりは対応させている。



 それもあって【ニクスの花】と【オランジュスカ商会】は人々からの評判は高い。

 代官の取りまとめている騎士達は数が少なく、手が回らない部分は多々あるようだ。



 その代わりにリーベミオは補っていると言えるだろう。この地の治安が少なからず良くなっているのは彼女の活躍もある。……最もそれを知っているのはカセルとスーラだけだが。

 彼女自身は自分の行動を誰かに知られたいなどは全く考えても居ない。賛美や感謝の声さえも不要だと思っている。

 それは彼女にとってはあくまですべての行動がレリオネル・ユウディスを取り戻すための過程でしかないからかもしれない。

 彼女が褒めて欲しいと思っているのはただ一人だけなのだ。



(もし……その少年がレリ様につながる何かを示してくれるなら。私がレリ様を取り戻すためのきっかけをくれるなら。……って駄目ね! 今まで散々もしかしたらと期待して駄目だったことが沢山あるんだもの。いなくなってしまったレリ様を取り戻すためには簡単にはいかない。それを私はよく知っているもの)



 少しの期待をして、結局大きく首を振るリーベミオ。



 簡単にレリオネル・ユウディスが戻ってくるようならばそもそもこんなに苦労などしていないのだ。

 この二年間で、そういう詐欺まがいのものには時々遭遇した。

 彼女は自分の望みを外には話していないが、何かしら情報を持っていそうな相手には今のように会いに行くこともあった。

 とはいえ、全て不発で終わっている。



 彼女の大切な王子様を取り戻すための方法はまだ分かっていない。



 馬車に揺られながらつらつらと考えていると、彼女の乗っている馬車は盗賊に襲われた。中に居るのがリーベミオだけだと知ると、彼らは彼女を捕らえて売り飛ばそうとしたようだ。

 御者はリーベミオを置いて逃げて行ってしまった。



「……消えなさい」



 彼女は男たちに囲まれようとも、全く動じていなかった。

 ただそう口にすると、魔法を行使して彼らの息の根を止める。



 とらえれば報酬は手に入るだろうが、カセルとスーラが傍に居ない状況ではそれをやると目立ってしまう。

 だからそういう対応をした。

 だけどその後、馬車も壊れており、御者も居ないため目的地にたどり着くのが彼女は遅れてしまった。




「なんだ、子供じゃないか」



 少し遅れて目的地にたどり着くと、既にカセルとスーラは居た。そしてその隣には、こげ茶色の髪の少年の姿がある。


「貴方も子供でしょう。それより、貴方が幽霊が見える人?」


 にっこりと話しかけるリーベミオを、少年は怪訝そうに見ている。



「……そうだけど。なんだ。用事はお前の隣に居る少年のことか?」



 そして少年はそう口にした。



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