2話 5年後
あれから五年の歳月が流れ、俺は中二になった。
あの化け狐との五目並べは今もまだ続いてる。
あの夏休みに何度も惨敗した俺は、悔しく悔しくてそれから毎年、あの化け狐を負かすために夏休みを利用してせっせとばあちゃんの家に足を運んでいる。
そしてそれは勿論今年も例外じゃない。
ばあちゃんの家に来ると俺は直ぐに、亡くなったじいちゃんの部屋に行った。
じいちゃんが亡くなって数年たつけど、ばあちゃんは未だこの部屋を片付けられてない。
「よぉ化け狐。今年こそお前に勝ってやるからな」
やはり今年もそいつはいた。
見慣れた碁盤。その奥にはこれまた見慣れた化け狐が、いつでも勝負してやると言わんばかりに座っていた。
「お主もこりないのぅ。8月が来る度にきおってからに……今の所儂の150連勝じゃぞ? いつになったら碁がうてるのやら……」
「う、うるせえ! 俺が勝ったら五目並べはもうやんないんだよ!勝ち逃げなんかさせるか!」
出会った時と同じように化け狐はケタケタと笑った。
でもあの時と違うのは、今は楽しそうに笑ってるところだ。
「まあよい。相手をしてやろう」
「今日こそ勝ってやるからな!」
俺は乱暴に黒石をとり、碁盤の中心に叩き付けた。
「お主、幾つになったのじゃ?」
化け狐は白く細い指で、白石をおく。
「先月で14だよ。それがなんだよ」
黒石の上に黒石を繋げる。当たり前だけど、あと3つ並べれば俺の勝ちだ。
「早いもんじゃのぅ。お主がここに来るようになってもう5年か」
俺の黒石の上にそっと白石を置いた。片方の道を阻止されてしまった。また、一からやり直しだ。
「うるせぇな、集中できねえだろ」
俺は左側のスペースに適当に黒石を置いた。
そこからは黙々と2人で石をおきあい、勝負は終盤へ差し掛かった。
俺はなんだかんだこの化け狐とする五目並べが好きだった。
なんで好きなのかは分からないけど、とにかく毎年のこの時間を楽しみに思っている。
俺は去年、五目並べが好きなだけだと思って友達とやったことがある。
不思議とそれはあまり面白くなかった。同じ五目並べだと言うのに、一体何が違うんだろうか。
そんなことを考えながら打った俺の一手は、反則負けの一手だった。打った直後に気付いたがもう遅い。
「――ぁ」
「儂の勝ちじゃ、な」
化け狐は嬉しそうにくすくすと笑った。
負けて悔しいからかな、俺の心臓はドクンと強く脈を打ったのがわかる。
それから毎日挑んだけど、結局今年も一回も勝つことが出来ないまま、夏休みが終わった。
また来年、そう言って化け狐と別れ、祖母の家から帰った。