1話 始まりの日と五目並べ
恋愛系初めてなのでお手柔らかにお願いします。
始まりはもう何十年も前。
祖母の家に遊びにいって、その時既に亡くなっていた祖父の部屋から、ワシとあの子の奇妙な関係は始まった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「へ、変なやつがいるーっ!」
僕は思わず叫び声を上げ、じいちゃんの部屋を飛び出した。
だって、じいちゃんの部屋に変な女の子がいるんだ。びっくりもするよ。
「あらあら、誰もいないわよ? 寝ぼけてたのかしらね」
ばあちゃんは部屋を確認してくれたけど、見えていないのかもしれない。
ばあちゃんはもう今年で70歳の割に、すごく元気だ。
だけど僕の言うことを信じてくれない。
でも絶対にあの部屋には女の子がいたんだ。着物を着て、不良みたいな金髪の! それにこれは見間違えかもしれないけど、狐の耳みたいのがはえていた気もする。
やっぱり寝ぼけてたのかな?
「ちゃんとみて! あの、シマシマの木のところにいたんだよ」
「しましまの木ぃ? ありゃ碁盤って言うんだよ。 そう言えば昔おじいさんも、似たような事を言っていた気がするよ。ばあちゃんには見えないけど、神様がいるのかもしれないね」
神様なんかいるもんか。あの子はきっと学校で噂になってるヘンシツシャってやつに決まってる。
ばあちゃんはそれだけ言うとどこかへ行ってしまった。
それと、あの木はゴバンっていうらしい。
僕は絶対に見たんだ。絶対まだ部屋にいるはず――。
「お主、儂が見えておるようじゃの」
「わっ! しゃ、喋った!?」
びっくりしすぎて、腰を抜かし尻もちをついてしまった。
やっぱり女の子はいたんだ。
女の子の喋り方は、なんていうかとっても古臭い。
「なにを驚いておる。間の抜けたやつじゃの。昔のマサアキにそっくりじゃ」
マサアキは僕のじいちゃんの名前だ。
「じいちゃんを、知ってるの?」
僕は恐る恐る聞いてみた。僕を見て女の子はくすくすと笑っている。
綺麗な金色の髪に、ぱっちりの目。口はちっちゃい。そんな女の子が僕を見て笑っていると、なんだか恥ずかしい気持ちが込み上がってくる。僕と同い歳位かな? 照れくさいや。
「そうか……お主、マサアキの孫か。くっくっ、あやつめ結婚なぞせんと言っておったというのに」
女の子は笑っているけど、なんでだろう。少しだけ寂しそうに見えた。
「うん、マサアキは僕のじいちゃん。でもこの前死んじゃったんだ。ハイガン?っていう病気で」
僕はじいちゃんが大好きだった。
がりがりで、しわくちゃだけど凄く優しくて、いつも笑ってたんだ。でも、死んじゃった。
「逝って、しまったのか……。人とは悲しい生き物じゃな」
この女の子はじいちゃんが死んだって聞いた途端、ものすごく悲しそうな顔をした。
僕はいても立ってもいられなくて、変な女の子なのはわかってるけど、どうにか元気を出してほしくって変な事を口にしてしまった。
「ねえ! 僕と遊ぼうよ! 歳も同じくらいだし、友達になろう」
そう言うと女の子はケタケタと笑いだした。
僕は変なことは言っていないはずなのに、この子はどうして笑うんだろう。
「小僧、儂と歳が同じとは笑わせる。儂もう800年は生きておる。同じな訳が……ないではないか」
800歳だって? そんなヘンテコな年齢なんて聞いたことないや。
「ふーん? 何だかよくわかんないけどサ。遊ぼうよ!」
「強引なやつじゃの……お主、碁は打てるのか」
「ご? 囲碁のこと? やった事ないけど、石を置いてくだけでしょ? 教えてくれればきっと僕でもできるよ」
女の子は呆れた顔でため息をついた。
仕方ないじゃないか、こんなジジくさいのやった事ないもの。
「はぁ……五目並べで我慢してやろうかの」
「それなら知ってるよ!」
こうして僕と名前も知らない女の子の、五目並べが始まった。