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私の人生、終わったと思ったのだけれど シリーズ

彼は今日も自分だけのヒロインを愛で続ける

 あらすじにも書いてある通り、以前執筆した『私の人生、終わったと思ったのだけれど。』の婚約者であるアントニー視点の話です。


 マドレアの最後の疑問が(一応)解決するように執筆したつもりですので、あの短編だけで物足りないなと思った方はお読み下さると嬉しいです。

 もし前作だけでも満足していただいているのであれば、回れ右をしていただいても問題ありません。





 前作を読んだことがない方にも単体で話になるように執筆をしているのですが、読んだ方が分かりやすいかと思いますので、先に前作を読んでいただけると幸いです。


『私の人生、終わったと思ったのだけれど。』 https://ncode.syosetu.com/n8907hu/

(……やっぱり可愛すぎる)


 

 目の前で馬の世話をするマドレアに頬が緩む。

 マドレアとは数年来の仲だ。初めて彼女と会ったのは、アントニーが初めて任された――いや、自分で提示して勝ち取った案件でかかわる男爵の娘としてだった。


 アントニーはマドレアと会う数年前に前世の記憶を思い出していた。それが女性向けゲームだった。前世は男だったアントニーがゲームをやっていたと言うわけではなく、彼の妹が大好きで遊んでいたのだ。

 前世では妹と程々の仲だったと思う。そのため、いつも妹はゲームの内容を彼に話し、彼は話をきちんと聞いていたのである。


 これでもう分かるかもしれないが、彼が話を聞いたゲームの内容が、この世界と一致した事に気づいたのだ。学園の名前だったり、高位令嬢の名前や、高位令息の名前だったり。もしやと思いルズベリー男爵家のことを調べれば、ヒロインであるマドレアが貴族年鑑に載っていたのである。



 前世の妹からは「マドレアが一途でとても良い子」と話を聞いていた。2次元から3次元になったとはいえ、そこも同じなのだろうか……と興味を持つのも、仕方がないことだと思う。


 だからアントニーはヒロインの存在を確かめようと、ルズベリー領の内情を把握し、改善点を上げ、会長である父に企画提示をしたのである。


 

 何度目かの改善策で、「お前がやってみろ」という言葉を父から貰ったアントニーは、父が貸してくれた――と言っても、アントニーを評価するために同行したのだろうが――従者と共に、ルズベリー家へ商談に向かったのである。


 そこでマドレアを見て、アントニーは「本当に妹の言う通りだ」と、感嘆した。


 そこらの平民でもここまで働いていないのではないか?と思うくらい、彼女は家畜の世話をよくしていた。そして、急に彼女が消えたと思えば、従者と共に領民の手伝いをして回っていた、なんて時もあった。

 よく働くだけでなく、いつも笑顔。男爵夫人の教育が良いのか、よそ者である上に平民のアントニーたちにも気を遣ってくれる。

 

 正真正銘良い子であるマドレアを、アントニーが好きになるのに時間はかからなかった。



 そしてマドレアが学園へ入学する一年前に、アントニーは「婚約者候補」の話を父と男爵夫妻に持ちかけた。その時には既にエッカルト商店とルズベリー男爵家は、切っても切れない絆のようなものが生まれており、男爵領には商会の研究施設まで建てられているほど、深い交流が行われていたのだ。


 その時に叙爵が決まっていたアントニーの父も、勤勉でよく働く彼女のことを気に入っており、二つ返事で了承をしてくれたくらいだった。こうしてアントニーは外堀を埋めつつ、婚約者候補として彼女の側に立つ事になったのだ。



 

 だが、当時何故婚約者候補だったのか、と言うと……それはアントニーの意気地の無さにあった。


 一年後にマドレアは学園に通う事となるのだが、攻略対象たちと出会う機会を奪って良いのか、と考え始めたのだ。


 あんな素直で可愛らしい彼女なら、きっと攻略対象たちも気に入るはずだ。もしかしたら、マドレアも攻略対象の誰かを好きになるのではないか、むしろ彼らの第二夫人になった方が安心なのではないか、と不安に駆られ始めたのだ。


 だからアントニーは婚約者候補のままにしておいた。もし彼女から婚約解消を願われた時に、簡単にできるように。


 学園に通うのを遅らせたのも同様。攻略対象たちとの逢瀬を邪魔をしないように、という配慮だった。


 


 だが、それが結果的に彼女を苦しめた、と知ったのは、ディアーヌから話を聞いた時だった。



「マドレアがそんな事を……?」

「ええ、殿下たちには全く興味がない、むしろ怖いと言って、半分泣いておられましたわ」



 ディアーヌの話によると、マドレアは気づかぬまま――いや、彼女にゲームの記憶がないので、知らぬ間にと言った方が良いだろうが――順調にゲームのイベントを進めていったらしい。これがゲームの強制力、というやつなのだろうか。


 ちなみに攻略対象の婚約者(令嬢)三人が、転生者だと聞いたのは、ディアーヌが商談を終え王都の商店にいるアントニーの元に来てすぐのことだ。ぼそっとイベント、という言葉を使った彼に、ディアーヌがカマをかけたことで発覚した。


 閑話休題。


 ちなみに攻略対象がマドレアに惹かれた理由は、他の令嬢と違うから、という点だ。

 婚約者以外の令嬢の多くは、彼らに媚を売るような視線や話し方をする。だが、マドレアは彼らと話す時、粗相がないように、と彼らの目をしっかりと見ながらも、萎縮しているのか小刻みに震えている姿が庇護欲を誘うらしい。


 彼女を想像したアントニーは、「確かに可愛いな」と納得したのである。


 そんな彼女が知らぬうちにイベントを攻略しているのである。彼らが好意を持ってしまうのは、しょうがないことだと思う。

 今まで見ている限り、マドレアは転生者ではない。という事は、やはり強制力なのだろうか。

 そう考えていたアントニーに、ディアーヌが話す。



「確かにゲームの強制力は働いているかもしれませんが……そもそも婚約者候補にしておいて、『君が心変わりするかもしれないから、候補のままね』って……貴方はマドレアさんの事をゲームのヒロインとしてしか見ていないのではありませんか?あまりにもマドレアさんに失礼では?」


 

 そう彼女に言い切られて、アントニーは黙った。まさにディアーヌの言った通りだったからだ。


 

「とまぁ……私も説教できる立場ではありませんけれども。マドレアさんからあの言葉を聞くまでは、私も彼女や殿下たちをゲームの登場人物の1人、と思っていた事は否定できませんからね」



 彼女たちもゲームの攻略対象ではない、婚約者、として見ていなかった事を反省したと言っていた。全て他人事、だったらしい。それに気づかせてくれたのは、マドレアの言葉と態度だったと言う。

 


「それに入学を遅らせたのは、彼女と殿下たちの逢瀬を見たくないからでしょう?彼女が他の男たちと一緒にいるのを見るのが嫌だから、物理的に見られないようにしていたのでしょう?」

「それは……」

 

 

 彼女に隠し立てはできない、そう感じた。彼女の指摘は全て図星なのだ。



「貴方も腹を括りなさい。殿下たちには私たちが今、何度もマドレアさんの事を話しているのですが、『婚約者がいないなら、希望があるのでは〜』と言って、のらりくらり躱されてしまうのです。……この件に関しては、私どもの自業自得でもありますし、本当にマドレアさんには申し訳ない事をしたと思っておりますが……貴方も行動を起こしてほしいのですわ」



 

 


 ――ゲームの登場人物だから、きっと攻略対象の誰かに恋するだろう。

 

 深層心理では、ゲームの通りになるだろうとマドレアのことを諦めていたのだ。アントニーは自分を殴りたくなった。


 この世界は現実だ。2次元ではなく、3次元だ。マドレアを信用していなかったのは、僕だったんだ、そうアントニーは思った。


 数日間、彼は悩み続けた。こんな僕が彼女の婚約者でいいのか、と。

 ずっと頭の中でディアーヌの言葉が繰り返されていた時、彼の父が悩んでいる様子のアントニーに笑って言ったのだ。


 

「そんな悩むほど、本気なんだろう?うだうだ考えずに、当たって砕ければいいじゃないか」

「あなた、砕けたらいけないのではなくて?」

「若いうちなら何度でもやり直せるから、大丈夫だ」

 


 母は笑って父を嗜めていたが、視線を合わせた父は真剣な目をしていた。




 その後は知っての通り。アントニーは学園に転入する手続きを終えた後、ディアーヌの協力により無事婚約届を提出することができたのだ。

 そして翌日の学園入学初日からマドレアは婚約者である、という事をはっきり伝えた。


 

 噂、と言っても真実ではあるが、その話は瞬く間に広がり、殿下たちの耳にも入ったようだ。休憩時間中に呼び出されたアントニーはマドレアが婚約者である事をしっかり伝えたのである。


 そのことが信じられなかった三人は、放課後にマドレアを呼び出した。人通りの少ない空き教室に入ると、一斉に三人の視線がアントニーに向いた。「何故お前がいるのか」そんな嫌悪感丸出しの視線を向けて。


 そんな視線をマドレアに向けるわけにはいかないと、アントニーは彼女を背中に庇いながら、写しではあるが教会の印が付いている婚約届を見せたのである。

 だが、これは偽造だと言って取り付く島もない。そして止める者もおらず、三人はヒートアップしていく。


 

「お前!マドレアを脅したんだろう?!今すぐに……」

「殿下、それはお待ちになって?」

 


 決定的な言葉を言おうとした殿下を止めたのは、第二王子の婚約者であるディアーヌと現宰相の令息の婚約者クレマリア、現騎士団長の令息の婚約者セレステルだった。急いで歩いてきたのだろうか、少し息が切れているように見えた。

 彼女たちの登場にあからさまに不機嫌になる殿下たち。だが、ディアーヌは言葉を止めない。

 


「現在の婚約届けは、婚約する者たちの親の署名も入っている事はご存じですよね?叙爵をされるとはいえ、今平民のアントニーさんが男爵家を脅すなど、できるとお思いでしょうか?」

「……いいや、できない」



 彼女の言葉を肯定した殿下に、付き従う二人もそれは理解できているのか、俯いた。



「皆様はアントニーさんとの婚約を解消させてまでマドレアさんと婚約をされたかったのですね……それだけマドレアさんの事を……」



 そう言われて彼は無言のまま何も言わない。ディアーヌは悲しそうな瞳で彼を見つめた。



「ですが、ひとつだけ確認をさせていただきたい事がありまして……皆様は、三人でマドレアさんを囲うおつもりなのでしょうか?」



 ディアーヌの言葉に殿下たち全員が顔を上げる。考えれば分かる事だろうに、彼らは恋愛脳――お花畑になってしまっていたのだろうか。



「それはどういう事だ?」

「これは仮定の話ですが……もしマドレアさんが『三人とも好き』と言ったらどうするおつもりだったのでしょう?皆様の愛妾になるのでしょうか?」

「なっ……!」


 

 ちなみにその時のマドレアは顔が真っ青になって、千切れんばかりに首を振っている。それ程彼らの事はなんとも思っていない、むしろ苦手なのだろう事が窺えた。

 殿下たちはディアーヌの言葉に目を見開いた後、後ろで顔面蒼白、今にも倒れそうなマドレアに視線を送った。その視線に耐えかねたのか、マドレアは彼らから視線を逸らす。


 それが衝撃だったらしい。彼らは悄然とうなだれた。


 視線を逸らすのは、マドレアができる最大の抗議だった。彼女は相手から視線を逸らす事がない。相手の顔を見て、話を聞く、視線を逸らすのが失礼だ、と母に教わってきたからである。

 

 その抗議は、彼らに届いたようだ。今までどんなに辛くても視線を逸らした事は無かったのだから。


 

「それと……皆様はマドレアさんから愛の言葉をかけられた事がありまして?」



 勿論、一言も言っていないとディアーヌは知っているが、困惑の表情を作りながら彼らに尋ねてみる。

 その言葉で三人は下を向いて考え込んでいたが、しばらくすると驚愕の表情でディアーヌたちを見つめていた。少しずつ彼らの目を覚ますことができているようだ。

 マドレアの素晴らしいアシストもあり、今殿下たちは自分の根幹にあった「マドレアの好意」に疑問が湧いているはずだ。


 彼らから一言も言葉は出ない。そんな時、俯いていた三人がまるで示し合わせたかのようにマドレアを注視した。それに驚いたマドレアはアントニーの後ろに隠れたのである。

 

 正直失礼にあたる行為ではあるが、ディアーヌからそう振る舞ってもいい、と許可を得ている。「マドレアの完全な拒絶」は彼らを改心させるために必要なことだ、と言われたからだ。


 これなら目を覚ますことができるだろう、そう考えたディアーヌは最後のトドメをさす。


 

「マドレアさん、国王陛下より許可を頂いておりますので、これ以降は貴女のお心を正直にお話しくださいませ。貴女はどうしたいのか、教えていただけますか?」

「わ、私は……」

 


 マドレアは殿下達三人、ディアーヌ、最後にアントニーへ視線を動かした。そしてアントニーと目が合うと、お互いが自然に笑みを見せる。


 そんなマドレアの自然体の姿を見た殿下たち三人は息を呑む。

 そして勇気を貰ったマドレアは、厳しい視線を殿下達に送る。その行動が全てを物語っていた。



「私はアントニーと結婚します。殿下達の愛妾にはなるつもりはありません」

「愛妾だなんて……!」



 マドレアを第二夫人にするつもりだった殿下は思わず叫んでしまう。

 彼の様子を見てディアーヌは眉を顰め、同様に考えていた二人の表情も驚愕で彩られていた。

 マドレアは更に彼らを睨み付ける。



「皆様、私は男爵家の娘です。第二夫人になるためには、爵位が低すぎます……いえ、そもそも私は第二夫人、愛妾になるつもりは欠片もありません。私が望むのは、アントニーの隣だけです」

「どうして……」



 ポツンと呟いたのは誰だったか。音量は小さいが、全員が口をつぐむ中だ。その声は教室中に響いた。

 その後に続く言葉はなんだったのだろうか。「そんな男に……」「愛を確かめ合ったじゃないか」――どちらだったとしても、マドレアは怒り狂うだろうが。


 

「どうして、ですか?失礼を承知で申し上げますが、御三方は私の気持ちを汲み取ってくださった事がありますか?私、皆様に再三申し上げたと思います。『私ではなく、婚約者様と仲を深めて下さいませ』と」



 三人は思い当たる節があるのだろう。しかし、小声で「だが……」「しかし……」と口が動いている。


 マドレアを見てきたクラスメイトや友人から言わせれば、「あれだけ必死に、言葉を尽くしているのに……」とマドレアを憐れんだほどだ。表面上では取り繕っていても、内心では彼らの様子を見て……この国の将来を悲観する者だっていたのだ。

 彼らは人の話を聞いていなかった、いや都合よく考えていたのだ。

 

 残念ながら、それがまだあるらしい。



「だが、それはディアーヌ達から言わされたのだろう?」

「それは違います。私が心の奥底から願っていた事です」



 アントニーはこの国の将来が不安になった。マドレアからこれだけ厳しい言葉を言われているにもかかわらず、マドレアは殿下達三人が好きである、という前提条件がまだ崩れていないらしい。

 これが乙女ゲームの強制力というものなのだろうか……そう考えると、恐ろしい。


 

「再度申しますが……私は御三方の事を結婚相手として見たことなど一度もございません。ですから、私の事など捨て置いていただきたかったのです」

「欠片も……恋愛感情はなかったのか……?」

「はい。恋愛感情を抱いているのは、アントニーだけです」


 

 誰かがひゅっと息が詰まるような声を漏らす。それは彼女の瞳には固い意志が宿っている事に三人が気づいた証でもあった。

 呆然と立ち尽くす三人に、ディアーヌは先ほど取っていた厳しい指摘の姿勢を改め、幼い子ども達に優しく説くように話し始めた。

 

 

「皆様は……初めての恋心に心が弾んだのでしょう。きっと天にも昇る気持ちなのでしょうね……」


 

 前世では彼女も恋する乙女だった時期があったのだ。彼らが舞い上がってしまうのも分かる。

 だが、上位貴族である三人の結婚には政治的意図もあるのだ。ましてや、百歩譲って思い合っているならまだしも……片道通行の恋愛なのだから、叶うはずがない。


 だからと言って彼らの想いをそう言って切り捨ててしまえば、相手の反発を招くだけ。相手を肯定して受け入れてあげる事で、話を聞く体勢を作るだけだ。

 以前はそもそも話をしようとする前に、避けられていたので肯定どころの話ではなかったのだが。


 煌びやかではあるが、どこか聖母のような穏やかな笑みと言葉を向けられた三人は、彼女に視線を向けた。



「それに、皆様はマドレアさんを好いていただけで、怖がらせるつもりなど、無かったのですよね?」



 ディアーヌの言葉に三人は首を縦に振った。彼らがマドレアに好意を持ったのは本当のことだ。


 だが、彼らには驕りがあった。それが彼女の心を勝手に決めつけていたという事実に三人とも気づいていなかったのだ。


 容姿も地位も、金もある。努力家で勤勉。彼らは令嬢からすれば婚約者として優良物件だ。物心付いた時から。ずっと令嬢達が群がっていた彼らは、自分を好きにならない女性などいない、と心の奥底で思っているのだ。実際、令嬢たちに好かれる事はあっても、嫌われる事は無かった。

 だからマドレアだって自分を好きになるはずだ、と自信を持っていたのだ。


 だが、結果はどうだ。彼女は怯え、違う男の手を取っている。ここでやっと彼らはその事に気づいたのだ。



「……私たちは恋に溺れ、君の気持ちを蔑ろにしていたのだな……すまなかった、マドレア嬢」

「貴女の気持ちを考えず、申し訳ございませんでした」

「……すまない」



 三人の頭を下げた謝罪に言葉を失ったマドレアだが、すぐに「大丈夫ですから、頭を上げてください!」と慌て出す。流石に学園で一二を争う高位貴族の三人に頭を下げさせるのは、マドレアの心臓に悪いのだ。


 彼らは頭を上げるようにと言った彼女に「ありがとう」と声をかけると、三人は互いに目を合わせた。その後すぐにディアーヌたちに視線を向ける。

 その行動にディアーヌは無言を貫いてはいたが、少しだけ眉が上がっていた。静かに成り行きを見守っていた二人も驚いているらしく、表情が少し崩れている。

 


「ディアーヌ、君にも迷惑をかけた。すまなかった」

「クレマリア、貴女にも申し訳ない事をしました」

「セレステル、……すまない」

 


 彼らはここでやっと自分の行動が相手を蔑ろにしていた事に気づいたのだ。ディアーヌ達からすれば、もう少し早く気づいて欲しかった……と思うところはあるが、まだ許容できる範囲内である。

 


 この謝罪を以て、マドレアは彼らから解放された。そして自由になった彼女は、一度離れた学友たちとの仲も戻り、アントニーと共に幸せな学園生活を送ったのだった。

 原因となった三人も反省の意を込めて少々の謹慎はあったが、女性三人から許しを得たこともありそのまま婚約続行となった。



 

 


 その後、マドレアとアントニーは学園の中でも両手の指に入るほどの成績を残して二人で卒業。その後二人で販路を拡大しながら、エッカルト商店の規模を更に大きくしていく。



 そんなマドレアは今日、現騎士団長の令息の婚約者であるセレステルの元へ馳せ参じていた。だからだろう、ふと以前から抱いていた疑問を、隣で休憩していたアントニーに聞いてきたのだ。



「ねえ、トニー」

「なんだい、レア」

「何故しがない男爵家の娘の私に、殿下たちは構ったのかしら?」

「……レアが可愛かったからじゃない?」

「もう!私は真剣なのに!」

「僕だって真剣に言ったんだけどなぁ……」



 頭を掻きながら笑えば、彼の愛する妻は頬を膨らませて彼を睨め付け、口を尖らせる。その姿を可愛らしいと思いながら、アントニーは彼女の頭を撫でる。


 ――きっと乙女ゲームの強制力もあったはず。だが、この事はマドレアが知る必要もない事だ。


 それに、彼女が頑張り屋で可愛くて、守ってあげたくなる女性である事は確かなのだ。彼らもアントニーと同じで、彼女のひたむきさを好いていたのだろうと思う。



「レアは魅力的な女性だもの。男の一人や二人、それ以上群がっても不思議ではないよ。……でも」

「でも?」

「他の男が目に入らないくらい、レアを愛するから。覚悟しててよ?」

「……!」 



 耳元で愛の言葉を告げれば、顔を真っ赤にして俯くマドレア。結婚して数年経つというのに、未だに慣れないらしい。

 そんな彼女を可愛らしいと思いながら、今日もアントニーは自分だけのヒロイン(マドレア)を愛で続けるのだった。

 

読んでいただき、ありがとうございました。


 実はこの作品、『私の人生、終わったと思ったのだけれど。』と並行して書いていた作品です。投稿した時点で四分の三ほど書き上げてはいたのですが、時間的に手付かずでここまで来てしまいました。

 執筆時間が取れている今、中途半端に手をつけている作品も完成させようと意気込んだ勢いで仕上げたので、投稿するに至った物です。楽しんでいただけたのなら幸いです。



 もし宜しければ、評価、ブックマーク等よろしくお願いします!


 

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