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六話

 ポニーテールの男だか女だかが倒れていた。

 誰だ、これ。

 俺の知らない誰か、俺には必要のない何か。

 だから捨て置く。

 あんたを救うのは俺じゃない。それは俺の役目じゃない。

 走り抜けようとしたら、目の前に大きな影が立ち塞がった。

 半人半獣、とでも言おうか。ファンタジーRPG的に言うと亜人だ。ミノタウロスみたいな、だけどミノタウロスとは違う半人間。見たことも聞いたこともない異形を、手にしていた剣で斬り伏せる。

 一刀両断、なんとも清々しい切れ味。

 もっとこう骨とか脂とか、斬りにくいものなんじゃないのか。

 そういう細かいとこ、気にならないのかな。ならないんだろうな。

 苦笑しながら走る。

 遠くで二つの人影が衝突を繰り返していた。刀を持った男と徒手空拳の男。だけど男たちは俺を見ていないし、俺も男たちに用はない。

 遠くの光景からは距離を取ったまま走り去る。

 そこにまた異形が現れた。目玉とか翼とかが異様に多い、……これはドラゴンか?

「マジかよ、こんなのどうすりゃ――」

 いいんだよ、と言う間もなかった。

 少年みたいな顔に少女の可憐さを帯びた何者かがドラゴンに飛びかかり、何人もの女や男と協力して戦っていく。俺の出番はなさそうだ。よかった、本当によかった。

 ドラゴンなんて、倒せるわけがない。

 でも、そのドラゴンと対峙しなくちゃいけないんだよな。

 またも苦笑し、走り抜けた。

 世界が途切れる。

 大地を踏み締めるはずだった足が虚空をすり抜け、身体が前のめりに倒れていった。

 嘘だろ。

 これ、絶対痛いやつ――。

 思ったけど、痛みは訪れなかった。

 そもそも衝突する地面があるなら、そこを踏み締めていただろう。

 予想した痛みがなかったことに安堵し、直後、我に返った。

 その時には遅すぎて、回る世界に目を回す。



   × × ×



 目が覚めた。

 やけに鮮明な目覚めで、自分でも驚く。

「と、そうだ。おい、ケンジ! リョウヤ! 起きろ、朝だぞ!」

 どうも俺は眠りが浅いのか二人より早く起きるから、自然その二人の目覚まし役になっていた。

 ケンジが眠そうに何かを呻き、それに顔を顰めたリョウヤが薄めを開けて睨む。

「まだ五時じゃねえだろ」

「えっ?」

 そうだっけ、と首を傾げた時、ちょうどゴーンゴーンと鐘の音が響いてきた。

「結果、五時だ」

「次やったら殺す」

「冒険者の『殺す』は冗談にならないから禁止だろ」

「うっせえ」

 とはいえ、リョウヤの機嫌が悪い……というか、機嫌が悪そうなのはいつものことだ。

 気にせず支度を済ませ、食堂で謎のモザイク飯を食べ、いざ冒険へ出発である。



 まぁ、冒険といったところで、片道一時間の通い慣れた森なのだが。

 もっと未踏の地とか行きたいよな。

 そりゃ危険だから怖いし、そもそも食料とかどうしているのか分からないくらいだけど、冒険者になったからには世界の真実を解き明かすような冒険がしたい。

 そのためには一歩一歩、着実に進んでいくしかなかった。

 弓士ギルドを出ているリョウヤが、そこで学んだ忍び足の技術を使って足音どころか物音一つ立てずに茂みから出てくる。

「トロール、六体。やるか?」

「やる」

 即決だった。

 俺たちは前衛三人、俗に中衛とも呼ばれる遊撃手が一人、後衛が一人の計五人パーティーだ。

 六体相手では数的劣勢になるわけだけど、トロールは一対一ならまず負けない低級の魔物。これくらいやれなくちゃ、冒険者らしい冒険など夢のまた夢だろう。

「分かった。俺が一撃する。そっからはミサキ、頼んだぞ」

「わーってる」

 翻訳すると『分かってる』だ。

 ただ仲間内では流石に通訳もいらず、リョウヤは頷いて茂みに戻った。

 息を殺し、矢を放つ。

「ぐぎゃっ」

 トロールの悲鳴。悲鳴が上がるということは絶命していないということ。依然、五対六。

「さっ来ーい!」

 相変わらず気の抜ける声とともに盾を構えたミサキ。

 だけど、この中で唯一上位ギルドに通った経験を持つ。卒業はしなかったけど、先人が磨いた技術は継承済みだ。信頼できる最前衛、それがミサキだった。

 ミサキなら一対二どころか、三体でも四体でも一時的には引き付けられる。

 そうすれば、あとはユノの独壇場だ。

――でも。

 何かが脳裏をよぎった、その瞬間だった。

 最後衛にいたトロールが腕を上げる。トロールに魔法を使う知能はない。だが、魔法だけが遠距離攻撃でないことはリョウヤが先に証明済みだ。

「アカ――」

「見えてるっ!」

 ユノの叫びを遮り、剣を引き抜く。

 ガキンッ――と硬質な音を立てて剣を揺らし、地面に落ちたのは拳よりも小さな石ころ。投石か。原始的だが、たったこれだけでも頭に当たれば命を落としかねない。

 あいつを先にやる。いくらミサキでも投石まで気にしながら敵を引き付け続けるのは大変だ。

 それに。

「ミサキ! 時間稼ぎだ! 足は止めなくていい!」

「時間稼ぎっ!? けど、これくらいユノなら……!」

「分かってる! だけど、だからだ!」

 ユノはすごい。

 上位ギルドこそ出ていないけど、それはそんな必要がなかったからだ。

 ユノは賢者の――賢者? あれ、賢者って……いや、思い出した。なんでこんな時にど忘れなんか。

 まぁ、いい。

 ユノはすごいんだよ。

 世界に名を馳せる賢者の弟子で、攻撃魔法でも回復魔法でも自在に操る。彼女の必殺のインパクト・メテオなら、こんなトロールくらい一撃に全滅させられるだろう。

 だから今まで頼ってきた。

 だけど、これからも頼っていくのか?

「リョウヤ、一体ずつ片付けてくぞ! ケンジはユノの近くで警戒!」

「一々叫ぶんじゃねえ! ……けど、了解した!」

 ユノはすごい、けどさ。

「待って、アカリ! 私なら……、私なら!」

「けど、俺たちだって冒険者なんだよ!」

 俺、なんで冒険者になったんだっけ。

 思い出せない。覚えていられないくらい昔から夢見てきたのかな。

 ケンジは? リョウヤは? ミサキは? そして、アカリは? 各々に各々の理由があったり、なかったりするのかもしれない。それでも確かなことが一つある。

 俺たちは今、冒険者なんだ。

 どんな理由であれ、冒険者になった。駆け出しだから軽んじられ、チャンスにも恵まれない。

 でも、冒険者なんだ。

 ユノはすごい。

 でも、同じ冒険者なんだ。

 どんな理由があっても肩を並べる仲間なんだ。

 だからこそ、どんな理由であっても言い訳になんかしたくない。肩を並べられる冒険者でいたい。だって、だって俺は――。

「アカリ? ねぇ、アカリ!」

 ユノが叫んだ、その時には既に投石トロールに走り寄っていた。

 脇腹を一撃、じゃ命までは奪えない。首を狙う。狙いにくいけど、桁外れの生命力を誇るトロールとて頭と胴体を切り離されては生きていけない。

 そのために狙いを澄まし、そして――だけど、あと一歩だったのに。

 トロールがぎょっとした目で俺を見た。まずい。すぐに仕留めなくちゃ……

「下がれ、アカリ!」

 リョウヤの叫び声。それに呼応し、考えるより早く跳び退っていた。

 俺を見ていたはずのトロールが、俺のいなくなった虚空を見つめる。違うのか? 俺じゃない? けど、俺じゃなきゃ誰が……。

 否。

 それすら、違うのか。

 誰かじゃない、何かだ。

 ズシンと音を立てて大地が揺れた。地震? ズシン、ズシンと音が続く。

「地震なんかじゃ、ない……ッ!?」

 トロールが泡を食って逃げ出す。あの石を投げてきた体躯で劣る個体が逃げ遅れ、それで焦ったのか張り出していた木の根に足を引っ掛けた。

「ミサキっ! アカリ!」

 ケンジが叫んでいた。

 分かっている。だから動け、動けよ俺……!

 いつも足を踏ん張って敵を引き付けるせいか、ミサキは咄嗟には動けなかった。戦場に異変があった時、浮き足立って逃げ出すのではタンクは務まらない。

 だが、今はそれが仇となった。

「くそがっ!」

 ミサキの……これはどこだろう。大盾に守られていない首の近くを掴んで、力一杯に引っ張った。ミサキが転びそうになって何事か叫んだ。けど、そんな場合じゃない。

「――てが! 盾が!」

 盾を落としたのか? だから、そんな場合じゃないってのに。

「いいから、走れッ!」

 ズシン、ズシンと大地を揺らし続けていた足音が止まる。

 ミサキを引っ張ろうとして、そいつの縦に伸びた瞳孔を見据えてしまった。ドラゴン。なんでこんなところに。

 ドラゴンは俺たちを睥睨し、だが、無視した。

 もっと近くに、もっと手頃な餌が文字通り転がっていたから。

 ドラゴンの顎門が立ち上がろうと必死に藻掻いていたトロールを捉える。あれだけ強靭な皮膚が紙か何かみたいに噛み千切られた。悲鳴を上げる暇さえなく。

 無理だ、勝てるわけがない。

 気付いてしまって、苦笑した。なんでだろう。なんで勝てないって気付いただけで、こんなにも笑えてくるんだろう。

「アカリ!」

「一々叫ぶな! 走れ!」

 こんな時に考えるのが意趣返しか。

 リョウヤは走り出した。でもケンジは動けない。だってケンジ、ミサキのこと好きだったしな。そりゃ助けたいだろ、男なら。

 だけどさ。

「ケンジぃ! ユノを連れて、早く――ッ!」

 俺だって助けたいんだから、お互い我慢しようじゃねえか。

 ケンジが弾かれたようにユノの手首を握った。律儀な男だ。何か言いたげに俺たちを見ていたユノだったが、ケンジに引っ張られて何も言えないまま走り出す。

「アカリ! くそ、放せ! 盾がなきゃ……、盾がなきゃあたしは」

「盾があったら戦えるってか? 馬鹿言え! 現実見ろよ!」

 背中を颶風が撫でた。

 ブレスか? ドラゴンは炎のブレスを使う。いや、そんなの吐き出されたら今頃焼け死んでいる。だったら尾か、腕か。どちらにしても、ブレスじゃなくて助かった。

「ってそうか、そういうことか!」

「なに笑ってやがる!」

「いいから走れよ! いい加減、一人で!」

「あんたが放さないからだろ!」

 今となっては盾を拾うなんて無理だ。ミサキも冷静さを取り戻した。

「ユノ! ユノは大丈夫かっ?」

「お前が大丈夫かよ!」

 ユノに言ったのに、叫んで返したのはリョウヤだった。

「大丈夫だよ! まだ! ギリギリな!」

 背後に、今度はズシンと何かが突き立った。何かも何も、ドラゴンの足しかないか。でも走り続けたお陰で、まだドラゴンは捉えきれない。

 ブレスを吐けば一撃なのに、やつはそうしないだろう。

 ドラゴンだって、飯を食う。パンを食べている時に、肉が食いたいからってパンを吐き出す馬鹿はいないだろうさ。ドラゴンも同じだ。

 やつがトロールをすっかり飲み込んでしまうまで。

 それが俺たちの余命。

「ユノ! いけるかっ!?」

 叫ぶ。

 詠唱にどれくらいの時間や集中力を使うのか、そういえば俺は知らなかった。

 走りながらでも、いやドラゴンに追われる絶体絶命の中でも、それはできるのか?

――できるだろ、お前なら。

 我知らず笑っていた。

 ユノはすごいんだよ、ユノは最強の冒険者なんだ。

 だけど、今は俺たちと一緒に敗走してくれ。逃げて、逃げて、逃げ続けたっていい。冒険者なんて刹那に生きる愚か者だ。

 そんな冒険者でも、無駄死にすりゃいいってもんじゃないだろう?

「いける! ドラゴンの頭、私ならちゃんと撃ち抜ける!」

 ユノは叫んだ、自信満々に。

 それを聞いて、俺は多分笑っていた。

「もっと簡単でいいんだよ! 狙いは頭じゃない、やつの目の前だ!」

 ドラゴンには勝てない。

 勝てない相手に勝とうとするから、絶望するんだ。

「やつがブレスを吐く寸前に、やつの前で爆発させてやれ! そうすりゃ俺たちも、少しは楽に逃げられる!」

「えっ、ちょっ……! あんた、まさか――」

「火傷くらい、食い千切られるよりはマシだろう?」

 ドラゴンの足音が再び止まった。

 ユノが何か言おうとして、それだけの猶予も残されていないことを悟る。

「インパクト・メテオ――ッ!」

 背後で爆発。

 その衝撃で俺とミサキは吹き飛ばされた。

 顔面から地面に突っ込んで、泥を噛みながら一回転半。勢いのまま立ち上がって泥を吐く。

 しかし背後に、続く衝撃や火炎はなかった。

 ちらと振り返る。

 たたらを踏んだドラゴンが前足をめちゃくちゃに振り回しながら、空に向かってブレスを吐いていた。

「こりゃ予想以上だ」

「これで予想以上? あんたね……」

 ミサキが呆れる。

 前ではケンジが安堵の息をつき、リョウヤが首を横に振り、ユノは相変わらず何か言いたそうな目で俺を見ていた。

「なに足止めてんだよ! ドラゴン、まだそこにいるんだぞ!」

 帰るまでが遠足と誰かが言った。

 それなら冒険も、帰るまでか。



 月明かりが綺麗だった。

 こんな時、キザなやつなら気の利いた台詞の一つや二つ吐くのだろう。

 俺には無理だ。そういうのは、俺向きじゃない。

 それにまぁ、そんな台詞がなくても風情はあった。

「アカリ」

「ん、なんだ?」

 夜空の下、遮るものは何もない。

 俺とユノは向かい合い、互いに互いの瞳を見据える。

 駆け出し冒険者用の宿舎はボロく、お陰で屋根に登るための足場には事欠かなかった。

「昼間のこと、なんだけど」

 昼間?

 そう首を傾げ、すぐに思い出した。ドラゴンのことか。帰ってすぐに泥のように眠ってしまったから、あれがまだ今日の出来事だという感覚がなかった。

「信じられないよな、あんなとこにドラゴンが出てくるなんて」

 よく生き延びられたよ、と笑ってみた。

 けれどユノは力なく首を振り、重く沈んだ声で言う。

「私ならできた」

 後悔なんて言葉では足りないくらい、何かを考え込んでいるようだった。

「ううん、やらなくちゃいけなかった」

 何が、とは訊ねるまでもないか。

 ドラゴンの頭を撃ち抜ける。そう言っていた。あれは本心だっただろうし、もしかしたら本当に……と思わないこともない。ユノならやれた可能性も十分にある。

「言っとくけどさ、信じなかったわけじゃないよ」

 だったら、どうしてだろう。

 ちゃんと考えていた気がするのに、いざユノを前にすると言葉が見つからない。

「それは、分かってる。アカリは、ほら……、アカリだし」

「なにそれ、理由になってないじゃん」

「仕方ないじゃん。アカリなら信じてくれるって、アカリだから信じられるって、そう思っちゃうんだから」

 なんだそれ。

 笑おうとしたのに、よく似た感情を自分の中にも見つけてしまって上手く笑えなかった。

「けど、私はやらなくちゃいけなかったんだよ」

「けど?」

「なんて言えばいいのかな。ううん、『けど』じゃないのかもしれない」

 ユノは呟き、空を見上げた。

 夜空。

 どこにでも広がっている、どことでも繋がっているはずの、けれど不思議な夜空だった。

「アカリは私を信じてくれる。……だから、私はやらなくちゃいけなかったんだと思う」

 何を、なんだろう。

 きっとユノにも分からない何かなんだろうと、何故だか知っている気がした。

「そんなこと、ないと思うけど」

「あるんだよ」

「どうして?」

「どうしても」

 お互いに手探りだった。

 何か言わなくちゃいけないことがあったのに、それが何か二人して忘れているかのような。

「俺はさ」

 だから気付いた時には口を開いていた。

 言わなくちゃいけないことは忘れてしまったけれど、言いたい言葉はいつもそこにあったから。

「ユノが本当はすごくなんかないんじゃないかって、どこかで思ってる」

 ユノはすごい。

 俺がユノについて知っていることを挙げたら、そのどれを取ってもユノはすごいって言葉に行き着くんだと思う。

 でも、だからこそだ。

「ユノはすごいよ。もしかしたら、ドラゴンだって倒せたかもしれない」

「かもしれない、じゃないよ。私ならできた。だから私は――」

「でも、もしユノが本当はすごくなくても。ドラゴンなんか倒せなくても。それでも」

 天井を見上げる。

 天井?

 いや、天上を見上げ、そこに瞬く星々に思いを馳せた。

「それでも、大丈夫なんだよ」

 月が綺麗ですね。

 きっとそう言うべきだったのに、胸中に浮かんだ思いはあまりにもひどいものだった。

 あの星なんか、まるでシミみたい。

 言ったら笑われると思って言わなかった。けれど我に返ると、キザな台詞も吐けなくて。

 それで結局、取り繕うように笑っていた。

「多分、そう言いたかったんだと思う。ユノに頼らなくても大丈夫なんだぜって」

 ユノは悲しそうに、寂しそうに笑っていた。

「私は、頼ってほしいかな」

「頼られっぱなしじゃ疲れちゃうだろ」

「それでもいい。それでいい。私はアカリに頼られて、アカリは私に頼りっぱなしで、……きっと、そうなってほしかったんだと思う」

「なんだよ、それ。そんなみっともないやつ、俺は嫌だけどな」

 俺は……だけど。

 でも……なんだから。

 確かに浮かんだ言葉が微睡みに溶けていく。散々寝たのに、まだ眠いのか。

「なぁ、ユノ」

 言わなくちゃいけないことがあった。

 手を伸ばせば消えてしまいそうで、それでも掴み取らなくちゃいけなくて。

 伸ばしに伸ばし、ようやく触れた気がした言葉は、しかし俺のものではなかった。

「そろそろ、寝ようか」

 笑いかけると、ユノが困った笑顔を見せてきた。

「それだけ?」

「あぁ、そうだ。大切なことを一つ、言い忘れていた」

 とてもとても、それは大切な言葉。

「おやすみ。また明日」

 ユノが泣いていたのか笑っていたのか、霞んでいく視界では判然としなかった。

「なにそれ、一つじゃないじゃん」

 そうかな、そうかも。

 だけど知っている。

 それが俺の答えで、俺たちの求めた正解だ。

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