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ケイオスブラッド ~暗渠の一滴~  作者: 黒十二色
第三部 混沌の血
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第54話 魔神の問いかけ

 魔族の案内によって、きわめて複雑な洞窟を進んでいく。


 壁が見えているところに壁はなく。壁があるところは抜け道だったり、上も下も右も左も後ろも前も、各所に落とし穴や罠が仕掛けられていて、まさにダンジョンだった。


 魔族の案内が無ければ絶対に攻略の糸口さえ掴めなかっただろう。


 少しは魔族成分があるであろうリールフェンが、道のニオイを感じ取って進むとかくらいはできるかもしれないが、きっとどこかで行き詰まっていたに違いない。


 それくらい絶望的に広く、暗く、複雑で、悪質な構造になっていた。一体、何から何をそんなに守らねばならないのだろうか。


「以前、あの方の同胞の一柱が、大勇者ひとりに攻め込まれ、なすすべなく倒され、以来隷属を強いられてたということがあったのです。そこで我々が、あの方を隠し、守るために、このような大規模な防衛迷路を建造したというわけです」


 大勇者っていうのは、本当に恐るべき力を持っているんだな。


 そこで、ふと気付いた。大勇者というのは、マリーノーツ独特の制度だったはずだ。ここで大勇者という言葉が魔族から出てくるということは、おそらくこの地底深くから、俺たちの世界、マリーノーツに通じる道があるということになるのだろう。


 帰れるかもしれない。


 それが安全な道とは限らないけれど。


 俺たちは深くまで螺旋状に下っていく坂道を降りていった。リールフェンには暗闇でも目が見えていたようなので、魔族の後を安全に歩くことができた。皆、オオカミの毛を掴みながら慎重に進んだ。


 最深部に待っていたのは、何も見えない暗闇だった。


 そこで赤い目だけを光らせながら、魔族は言う。


「皆さんには見えてないと思いますが、ここには分厚い偽装と誤認の壁があります。これからあらわれる通路の先は、あの方のすぐ下です。力を証明できさえすれば……魔族と縁のあるあなたがたのために、きっと力を貸して下さるでしょう」


 そうして誤認や偽装を解いたのだろうか、扉があらわれ、その向こうから眩しい赤紫色の光が射しこんできた。


 黒紫色の魔族はつま先立ちのまま、ゆっくり足音を立てないように歩き、俺たちは静かにそれについていく。


 トンネルを抜けた先は、ほとんど赤紫だった。


 暗闇から明るい場所に出たので、より刺激の強い色のように感じられた。


 視界のほとんどを埋める何かは、何か羽根のような形状のものが集まって、ふさふさしているように見える。巨大なものが翼を丸めて眠っているようだったが、その翼の部分だけで視界のほとんどが埋まっていた。


 巨体の周囲は、高熱によってゆらゆら揺らめいて見え、火の粉がちらちらと舞っている。空気中のチリやホコリが一瞬で燃え尽きるためだろうか、まぶしさが時々目を攻撃してきて、まばたきを何度もさせられた。


 見上げると、陽の光がないはずなのに水色の空があるのが見えたが、ここは地下である。天井を青く塗っているのだろう。


 何らかの事情で地下にいなければいけなくて、空に憧れているのだろうか。と、そんなことを考えながら、派手な色味の風景を味わっていると、やがて太く大きな声がした。


「――(わし)のまどろみを妨げる者は誰じゃ」


 目の前にいる巨大な鳥型のいきものから発せられたようである。


 その生き物は、やがてむくりと起き上がると、異様な風圧を伴って、翼を広げた姿勢になった。爬虫類のような、ぎょろりとした目が、俺たちを見下ろしていた。くちばしではなく、大きく裂けた口からは鋭い牙がのぞいている。


 異形の存在がそこにいた。


 俺は頭の中に直接響いてくる声の、あまりの大きさにビビッてしまったし、他の皆も、同様に怯え、小さくなっていた。


 ただ一人、覚悟を決めていた少女を除いては――。


「私はグレース。あなたにお願いがあって来たのだけれど」


「――儂は闇の紅炎龍。破滅の炎を纏いし者。儂をそれと知って、何を望む」


 たしかに顔は龍っぽいと思えなくもないが、全体的にみると、龍というよりは巨大な怪鳥というイメージだ。


「闇の紅炎龍。素敵な名前だわ」


「――ほう、儂の問いにも答えぬか……。なんとも野蛮にして無礼じゃが、嫌いではないぞ。して、今一度訊く。何用じゃ」


「これは失礼。寛大な闇の紅炎龍に感謝するわ」


 グレースは言った後、自らの胸に片手を当てながら、願いを口にする。


「私は、ここではない、別のロウタスに渡りたいの。私の生まれ故郷、かなり高いところにあるのだけれど」


「――何のために」


「救いたいの。世界を存続させる火をつけたはいいけれど、私の世界の人々には、きっと滅びが迫っている。悲しい滅びを止めることができるなら止めたい。そして、もしも滅びがどうしても避けられないなら、皆を導いて助けたいの」


「――ほう……おぬしの仲間に、強き魔族の力を感じる。であれば、共闘の契約に従うべきなのじゃろう。じゃが、儂は約束を重んじる古き魔族とは違うのでな、儂の認めた者にしか力を貸さぬことにしておる。グレースと言ったか……。魔族でもないおぬしが名乗り出たからには、相当の覚悟があるのじゃろう。それを見せてもらおう」


「わかったわ」


 平然と答えた。


 グレースだって恐ろしく感じているはずだ。目の前の雄々しく翼を広げた巨大な存在は、グレースよりも明らかに強く、今すぐにでも俺たちを焼き殺すくらいの力がある。


 グレースには、はじめ大きな失望があった。旅立ちを決めて飛び降りて、いろいろな出逢いがあった。多くの失敗もあったけれど、見事に炎を灯し、成功を掴み取った。それらすべての出来事がグレースの背中を押し、覚悟を決めさせているのだろう。


「どうやって見せればいいかしら」


「――儂の問いに答えよ。真実を話し、その強さを儂の前に示せ」




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