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ケイオスブラッド ~暗渠の一滴~  作者: 黒十二色
第一部 水と緑のマリーノーツ
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第17話 自称純血エルフたち

「世界樹リュミエールに入る方法を教えてください」


 グレースは頼みこんだものの、サタロサイロフバレーの住人は、冷たい対応しか返さなかった。


 無視され、鼻で笑われ、眉をひそめられた。


 緑の服に身を包んだ純血エルフは、よそ者をなかなか受け入れないというから、仕方のないことなのかもしれない。


 まして、彼ら彼女らにとっての聖地である世界樹リュミエールに入りたいなどというのは、相手にされないのも仕方のないことなのかもしれない。


 でも、俺たちは、その中にいるはずの、エルフの最長老に会わなくてはならないんだ。


 俺も聞き込みと頼み込みを繰り返す。どうか話を聞いてほしいと。


「なあ、エルフの最長老ってひとが、ここにいたりしないか? リーフルって人から、最長老に会えって言われてるんだが」


 色んな人に聞いて回っていると、やがて、答えてくれたのは、一人の青年エルフだった。


 見た目は青年であっても、エルフは長命であるから、俺よりもずっと年上かもしれない。


「リーフルといえば、先賢のリーフルか。かのハーフエルフの長が、そのようなことを命ずるとは、よほど火急のことかもしれぬ。よかろう、詳細に話すことを許す」


  ★


 俺は、尊大なエルフの男に対して、包み隠さず話すことにした。雪と氷に満たされたグレースの世界が滅びかけていること。救うための方法を探しに来たこと、そして、グレースが王女であること。


 その結果、俺たちは粗い縄で縛られてしまった。


「来い、詐欺師ども」


 俺とグレースは捕えられた。


 ちゃんと説明したつもりだ。


 大事な王冠も差し出して、これが証拠だと言い張った。


 そしたら、緑の服を着た純血エルフの一人が、王冠を指差して提案した。


「ならば、言い伝えにある方法で検証するべきだ。どれだけ見た目を似せても、本物であれば同じ重たい金属でつくられているはずだ。今こそ我ら一族に伝わる方法を使う時」


 物干し棒に神聖な糸を巻いて垂らす。そこに小さな棒を結び付け、棒の両端にも丈夫な糸を巻き、二つの王冠をつける。天秤のように互いに釣り合うような構造にする。両方の王冠を清浄な水の中に沈め、もしも、純血エルフ一族に伝わる王冠と釣り合えば本物。釣り合わなければ偽物ということだ。


「たしかに。私の解読した古文書にも、それが、(あかし)の王冠を証明する唯一の手段だと書いてあったわ」


 グレースは自信があったようだ。


 けれど、結果は、


「貴様のほうが持ち上がってしまったではないか。王女を騙る大嘘つきめ」


「ありえない。こんなのってないわ」


 グレースは捕えられた。


「オリヴァンとかいったか。貴様も、英雄オリヴァーを名乗って、我々を騙そうとしているな?」


「ちがう、俺はまだ英雄でもなんでもない。オリヴァーじゃなくて、ただのオリヴァンだ!」


 聞き入れられることはなかった。


「来い、詐欺師ども」


 王冠は取り上げられ、純血のエルフたちに引っ張られた。俺とグレースは雨の中、さっきまでいた湿っぽい牢に放り込まれてしまった。


「我らの守り神に裁きをいただくことになる。処罰の内容が下されるまで、ここで大人しくしていろ」


 金属の格子が、勢いよく閉じられた。


  ★


「くそっ、なんだよあいつら」


 俺の吐き捨てた言葉は、何度も地下牢の暗闇に反響した。


「仕方ないわ、オリヴァン。私も悔しいけど……だけど、まだチャンスはある。説得して、私たちの本気がわかれば、きっと最長老のところに案内してもらえる」


「そうは言ったって、何の罪もないグレースにこんな扱い……」


「ええ、そうね……。こんなところで、モタモタしている暇なんて無いのに……」


 それは泣きそうになるのを我慢しているような、震えた声だった。


 そんな声を耳にして、俺の怒りはさらに高まった。


「だいたい、あいつらは何なんだ。偉そうにしやがって。王冠だって、あいつら持ってる方が偽物だぜ、絶対」


「……そうね」


「ああいう奴らは、世界の崩壊とやらに巻き込まれちまえばいいんだよ」


「オリヴァン。だめ、そんなこと言わないで」


「なんでだよ」


 と、興奮気味に言い放ったあとで、はっと気付く。


 彼女は、救いたいのだ。


 同じように、自分のことを全く信じてくれなかった吹雪の世界の人々を。


 彼らが救われなければいいなんていう呪詛を認めることになれば、彼女の世界の人々をも救わなければいいと言っているも同然になってしまう。


 怒りはあっても、崩壊に巻き込まれろ、なんていうのは、言い過ぎ以外のなにものでもない。


「ごめん、グレース」


「いいのよ。私の分まで怒ってくれて、ありがとう、オリヴァン」


 すこしして、グレースが、膝を抱えて泣いているのがわかった。俺に気付かれないように、息を殺して。


 何とかしたい。何とかしなければならない。


  ★


 ――そうだ、門番などいないのだから、脱獄できるんじゃないか。


 そう思い、力づくで脱出を試みた。


 堅牢すぎて、どうにもならない。落ちていた針金で鍵を開けようとしたが、うまくいかない。


 危機を乗り越えるための力も、智恵も、技も、心も、スキルも、何もない自分が情けなくなり、俺もグレースが眠ったあとに、こっそり泣いてしまった。


 やがて、夜が明けたようで、緑の服に身を包んだエルフたちが、ぞろぞろと入って来た。


 どんな罰が言い渡されるのかと身構えていたが、彼らは意外な言葉を口にした。


「案内しよう。世界樹リュミエールの入口は、こちらだ」


「え、どうして」


 なぜ疑いが晴れたのかとグレースがたずねたところ、一人のエルフが、我が名はエラーブルと名乗り、説明してくれた。


「我々は、純血エルフの守り神である『お猫様』にアドバイスを求めた。サタロサイロフバレーでは牛や蛇や馬など、多くの動物たちが崇敬されているが、なかでも、お猫様だけが、我ら純血エルフの助言者として姿をあらわし、我らにのみ力を貸してくれるのだ。


我々がお猫様に王冠を見せ、お伺いを立てると、久方ぶりに、お言葉を賜ることが叶った。『おぬしら、隠されし魔力文字が見えぬか。その王冠を持つ者こそ、枝分かれせし王の一族の末裔。その者の思うままにさせるがよい。さもなくば、おぬしらだけでない。この世界を、大きな禍が包み込むであろう』とな。


だから、貴様らを解放し、貴様らの望む通り、最長老の居場所へと案内することになった」


 青年エラーブルの案内に、俺とグレースはついていく。


 外に出て、巨大な根に手を触れると、隠されていた入口があらわれた。


 薄暗い樹木内をしばらく進むと、乗り物があり、三人が乗ると上昇していった。昇降機のようだ。


 まだまだ上があったようだが、途中で降ろされた。中層あたりらしい。


 会議室のような椅子の多い部屋を通り抜け、炎の輪のトンネルをくぐり、またいくつかの隠された扉を通り抜けると、ひときわ丈夫そうな扉があらわれた。


 デザインは、豪華というわけではない。見た目だけで言えば、飾り気のない木製の扉のようでもあった。だが、威圧感とでもいうのか、荘厳な重たい雰囲気を醸し出しているように感じられた。


 エルフのエラーブルは言う。


「ここから先は、二人で行け」


「ん? この先に最長老がいるのか?」


「代々、そう言い伝えられている。魔力が相当濃いので要注意だ。破滅的な暴発をする可能性があるため、あらゆる魔法の使用は禁止されている」


 そこで案内エルフは引き返していった。


「じゃあ、行こうか、グレース」


「ええ、少し、緊張するわね」


 俺とグレースは、二人で扉を押し開けた。




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