第八話 あの日の出来事
あまりの驚きなのか、声が出ない細山さん。
俺らは細山さんのあまりのオーバーリアクションに、違う意味で驚いていた。
暫く目をまん丸にした後、細山はお山座りの姿勢のまま、何か考え事をし始めた。
「うーむ」
細山さんは、考え込むような声を出す……と思ったけど、この声は隣の真琴のものだった。
「どうしてお前も考え込んでるんだよ」
「いや、何かあのおデブっぷりを何処かで見た気がするんだけどな……」
「あ、我さんも? 実は俺もどっかで聞いた事のある名前だと思ってたんよね」
どうやら違和感を抱いていたのは真琴も同じだったらしい。
三人中二人が考え込んでしまい、暇になったので、便乗して俺も考える人のポーズをとっていると、誰かが「あっ!」という声を発した。
いや、誰かではなく、どちらもだったようだ。
真琴は立ち上がると、細山さんよりも先に答え合わせをする。
「このおデブどっかで見た事あると思ったら、旅館にいたやつだ!」
「旅館……?」
「我思い出しちゃったよ。ここに来るまでに何してたか!」
真琴はいつも以上に張り切って、俺に向かって勝利宣言のようなものをしてくる。
……何か勝手に負けたんですけど。
まあ、それはさておき、ここに来るまでに何してたか思い出したというのは、とても気になる話だ。
「ほら、あれだよ。我らは確か、卒業旅行に北見家の旅館行ってたじゃん!」
俺はその言葉にピンと来て、頭にかかっていたモヤが晴れるような気がした。
確か、始まりは三月の終わりだったはず――
「おーい、島ー。起きろー!」
俺はそんな大きな声と、体が揺らぐ感覚から、俺は意識が覚醒した。
「全く、島が企画した会議の途中で居眠りとか……流石だねぇ〜」
部屋の中心にある大きな机を皆で囲んでいる中、隣にいた真琴が声をかけてきた。
「いやー何か最近、受験終わった喜びでゲームしまくってて、気づいたら夜中の二時位になってたんですよ」
居眠りしていた俺を起こしてくれた真琴に、俺は軽く「ありがとう」と伝える。
「はーい、じゃあ次の卒業旅行計画案を言うのは、玲菜ちゃんだね」
すると、司会を務めている千夏が会議を進めていた。
「えー、俺のティズニーランドの案ダメなの!?」
「楽しそうだけど、流石にうちら中学三年生だけで行くのは厳しいんじゃないかな」
何やら千夏と天翔が言い合っている。
そういえば、俺らは今、中学三年生の春休みに行う、卒業旅行の行き先を決める会議を行っているのだった。
一応リーダーの男子の星島創、
おバカでおちゃらけている男子の雪色羽天翔、
ツッコミ兼いじられ役の男子の白松蒼、
身も心もイケメンな男子の影山颯十朗、
ビビりでカワイイ系男子の今碇沙也人、
一人称が我で何かと強気な女子の蘭真琴、
自由奔放で常にのほほんとしている女子の大野美釉、
お母さん肌で真面目で天才な女子の古都千夏、
頭の回転が早くて常に第三者視点のような女子の北見玲菜……の計九名で構成されるムイトズではあるが、各々の個性が強くて、会議名目で集まっても何かと進行が進まないのである。
千夏と天翔の言い合いを横目で見ていた沙耶人が、「止めた方がいいんじゃない?」と、言わんばかりの表情でこちらを見つめてくる。
俺が二人を止めるべきか悩んでいると――
「まあまあ、落ち着きなよ天翔。千夏がそう言ってるんだし、今回は諦めてまた高校生になったら行けばいいじゃん。ティズニーランドは俺も行きたいけど、親達がOKしてくれるか分からないからな……」
俺が動くよりも早く蒼が止めに入っていた。
相変わらず蒼は判断が早いヤツやな。
そんな風に感心していると、今度は颯十朗が止めに入っていた。
「でも、俺は天翔派かな。やっぱり、せっかくの卒業旅行なんだし、普段みんなで行けないような所に行くべきだと思う。きっとそれなら親達もOKしてくれるよ!」
「流石! やっぱり颯十朗なら分かってくれると思ってたよ!」
……と思っていたのもつかの間、まさかの火に油な展開になってしまっていて、さらにややこしくなっている。
そして、口論は次第に大きくなっていき、収拾がつかなくなり始めていた。
――あの、ここ俺の家なんですけど。
俺と真琴はお互いに目を合わせて、困っていた。
そんな中、俺は最初から黙りだった美釉が、何やら下を向きながらプルプル小刻みに動いていることに気が付く。
何があったのか不思議に思い、見つめていると、急に立ちあがった。
みんなは口論を止め、不思議そうに美釉を見つめている。
――すると、美釉はとても大きな声で、
「うるせぇ!!」
と、叫んでいた。
今ので美釉の伝説がひとつ増えたな。
そんなことよりも、その声の大きさに俺は思わず、
「お前らさっきからうるせえよ! ここ俺の家なんですけど!?」
無意識のうちに、美釉の声に負けないほどの大きな声で言い返してしまっていた。
すると、先程まで口論していたはずのみんなが声を揃えて叫んだ。
「お前が一番うるせえよ!」
――なぜか全員の声がハモっていた。
「――確か、この時ムイトズのみんなで卒業旅行何処に行くかを話し合ってたんだよな」
「そうそう。んで、美釉のうるせぇ伝説が始まったんだよね」
『うるせぇ』こと美釉という人物も、もちろんムイトズの一味の一人であり、物凄い不思議ちゃんである。
「何か、既に懐かしく感じるわぁ」
「……?」
完全に置いてけぼりな細山さんを、確実においてけぼりにして、俺と真琴の思い出しエピソードは続く。
「確か結局決まらなくて、蒼が純粋に岩釣荘に行こうって提案したら、まさかの玲菜のジジババが経営してる旅館で、しかも貸切の許可が出ちゃうっていう」
この玲菜というのも、やっぱりムイトズの一味の一人である。
「だったね。その後、確か細山さんに会ったんだよね」
「おデブは、我のこと覚えてないの?」
「だから、僕は一ミリたりともおデブでも食用の豚でもないのでふ! 質問に答えるでふが、君たちを見たのは初めてのはずでふが……」
困惑し始める細山さん。
別人だったという可能性もあるが、見た目も名前も完全に一致していて、更には結構衝撃的な会い方をしたため、忘れることなんてまずないだろう。
「とりあえず、経緯を話してみるからよく聞いててよ? おデブ」
「ラストにずらして言えばいいと言う問題ではないのでふ!?」
……騒がしくなりそうだ。
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