第七話 一時収束
その言葉が世界に干渉すると、おデブさんは握りしめていた手を開き、光を解放する。
「あれ、何か意外とおデブさんかっこいい……?」
俺がそう思い始めたその瞬間――
段々と金属が擦れるような甲高い音が光の中から溢れ出て来たかと思えば、一瞬止まり、今度は直ぐに、電気のビリビリと言う音が静寂の中を駆け巡り始めた。
「ねぇねぇ島、一体全体何が起ころうとしてるわけ……?」
「俺に分かるわけないやろ。でも、何かこの後、 、ズッキューンズドドドドーって感じになりそうなことだけは分かる」
「語彙力皆無かよ」
「お前に言われたかないわ」
こんな状況でもいつも通りのやり取りをしていると、俺の予想した通りに、溜め込まれていっていた何がが、ビームを発射したかのような音と共に放たれた。
おデブさんの手からは、オオカミ(仮)達の方に一直線に伸びる陰極線のような黄色の光が放出されており、道の左端から右端へと動くようにおデブさんが手を動かしていた。
――それは一瞬だった。
数秒も経たないうちに光の線は、音と共に小さくなっていき、やがて何事も無かったかのように、おデブさんの手の中に消えていった。
「終わった……のか?」
「ぽいね。って、島島! さっきまでそこに居た変なのが跡形もなく消えてるぞ!」
「はぁ!? マジかよ?」
真琴が少し興奮しながら、元々オオカミ(仮)達の軍団がいた方に指をさす。
視線を移してみると、光と同じように、何も無かったかのように、存在ごと消えていた。
「はぇー……俺らがあんなに苦労して逃げた相手を、あぁも一発で……」
ってことはだ。
――あのおデブさんは、あれが魔法だと言いたいのか?
「とりあえず、一度小屋の中に入るとするのでふ」
ひと仕事終わらせてきたかのように満足気な顔をしたおデブさんが、俺らの方にノコノコと歩いてきていた。
「……あれがさっきからあの人が言っていた、魔法だったってことなのか」
俺は段々と、状況を理解し始めていた。
と、一段落着いたかのようになっていたが、そこで俺は一つ忘れていた事があると気がついた。
「そういえば、残りのオオカミ擬き三匹はどうなったんや!?」
俺が慌てて先程まで佇んでいたオオカミ擬き達の方に振り返るが、そこにはボロボロの小屋があるだけだった。
「あ、あれ? オオカミ擬き達は……?」
俺が困惑していると、鍬を杖のように扱って小屋の方に歩いていた真琴が嘲笑した。
「何言ってんの? さっきのすんげえやつ放った時に、キャインキャイン言いながらどっか逃げだったよ」
「急に犬犬しくなってんな、おい」
先程まで威勢よく、俺らに飛びかかってって来ていたとは思えない程の無様っぷりに、思わず犬犬しいという意味のわからない言葉を口にする俺。
「まじで一瞬で終わったやん……あの人、恐ろしき」
そのままヘトヘトになった俺らは、おデブさんに連れられるまま、ボロボロの小屋の中で休憩をとることにした。
「何かカビ臭くね?」
小屋のドアを開け、足を踏み入れた時に放った第一声はそれだった。
軋むドアの先には、教室の半分ないくらいの広さがあり、床には藁のようなものが、壁には農具などが乱雑に置かれていた。
あちこちに蜘蛛の巣が張り巡っており、見ただけで長年使われていないものだと分かる。
おデブさんは、ドアのすぐ横の隅に腰を下ろすと、近くに置いてある『旅行に行くのかよ』と、ツッコミたくなるほど大きなバックを漁り始めた。
「我らは一体どうすれば……?」
「汚いところでふが、立っていてもなんでふし、コレをひいて座るのでふ」
真琴があわあわしていると、おデブは大きなバックからレジャーシートのようなものを取り出し、俺らに渡してきた。
「あ、ありがとうございます……って、えらく可愛い絵柄だな」
そのレジャーシートは、小屋の床の半分を占める程の大きさで、可愛らしい花の模様が描かれていた。
「昔、友達のような者とピクニックに行った時に貰ったものなので、それしかないのでふ……」
おデブさんは、少し恥ずかしそうに弾力のありそうな頬をつんつんと指でつつく。
レジャーシートを引くと、腰を下ろす俺と真琴。
すると、安心したのか、一気に疲れがやってきて、体が鉄のように重くなった。
「はあ……疲れた。マジで我らは何処に来ちまったんだよ」
「ね。危うく死ぬところだったぞ。俺らの華々しい高校生活デビューは何処へ……」
長かった受験勉強を乗り越え、楽しみと不安で満ちて日々を過ごしていたはずの春休み。
だが、今の状況を見てみればどうだろう。
汗でびちょ濡れになり、謎のおデブな人に、紅い空。オマケにオオカミっぽいのに襲われ、最終的には古い小屋で休憩……。
人生何が起こるか分からないということを、激しく学んだ気がした。
「お二人共とても疲れているのは重々承知なのでふが、幾つか聞きたいことがあるのでふ」
本題に移るようなノリで、真剣な顔になるおデブさん。
こちらも質問したいことが山ほどありまくるが、俺らを助けてくれた恩もあるし、まずは先に聞くとしよう。
「というか、質問云々の前にさ、お互いに名前知っといた方が便利じゃない?」
「……真琴にしてはいいこと言うな」
「あったりまえでしょ」
とか言っておきながら、ドヤ顔になる真琴。
それにしても、先程までおデブさんとかあの人としか言いようがなかったから、名前を聞きたいところではあった。
「そうでふね。まずは自己紹介といくのでふ」
「まずは発案者でもある我だね。我は蘭真琴。十五歳だよ」
「じゃあ次は俺か。俺は星島創です。同じく十五歳で、真琴と俺は――小学校からの友達です」
「え、友達になった覚えないんだけど」
「酷いな! 心に刺さるよ!」
「二人が仲良しだと言うことはよく分かったのでふ」
直ぐに噛み付いてくる真琴に、俺は心の訴えを声に出す。
真琴は一言で表すと、誰にでも噛み付く狂犬である。
「では僕でふね。僕は細山優太と申すのでふ。一応これでも、魔法研究者をやらせてもらっているのでふ……」
またもや恥ずかしそうに言うおデブさん……いや、細山さん。
しかし、その自己紹介は空振りに終わってしまう。
「「魔法研究者……?」」
「あれ、いつもならここは驚かれるところなのでふが……」
俺らは聞き慣れない単語に、あまりピンと来なかった。
だがそれと同時に、俺はどこかで聞いたことがあるような名前であることにも気が付く。
それを、不思議そうに首を傾げる細山さん。
「というかそもそも、さっきのやつといい、魔法って何なの?」
ついに真琴が痺れを切らしたかのように、俺もとても気になっていた質問をした。
――細山さんが質問するとか言ってた気がするが。
すると、真琴の言葉を聞くと、細山さんは見てはいけないものを見てしまった時のように激く驚き、小さな瞳をまん丸にしていた。
そして、こう言った。
「――魔法を知らないなんて、君たちは何者なんでふか……!?」
あれ、もしかしてここって、魔法が常識みたいな世界なんすか?
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